開示請求対象文書を廃棄することの違法性について:暇空茜Colabo問題の場外戦

東京都において開示請求対象となったDVセーフティーネット強化支援補助金に関する文書で、暇空茜氏への非開示決定の場合は存在する前提で別の理由で通知がなされていたが、浜田聡参議院議員秘書の末永ゆかり氏が同じ資料を開示請求したところ、「廃棄済み」として通知されていました。

※追記※

1月28日の川松真一朗都議の説明によると、暇空氏に不開示とした生活文化スポーツ局のメールとされたものはColaboと都とのメールの文面ではなく、【Colaboが東京都以外の者と行ったメールのやり取りだった】、という説明がなされているとのことです。

Colabo側が都に対して提出した資料の一部に、今回黒塗りで不開示となったメールのやりとりの文書があった、という説明がなされています。

これを合理的に理解するとすれば、末永氏の開示請求対象は「都とColaboとのやりとりのメール」だったのに対して、暇空氏の開示請求の範囲はそれにとどまらなかったために、その範囲外のメールの「文面」が黒塗りで非開示とされた、ということになるハズです。

それはColabo側が都に対して「他の団体?とこういうやりとりがあった」ということを証明するために出した資料である、という説明がなされていました。

これは宛先も発信者もすべて黒塗りの非開示の状態では、判別が付かない話です。この理解は、都側の説明(を川松議員が再説明したこと)を信じた上で初めて成り立つものですから、それが正しかったのかも含めて開示請求訴訟で明らかにされていくものと思われます。

なお、暇空開示請求があったから書いているが、本稿の話は抽象的な条例・規則の規定からも言及できる話であって、その件での現実の廃棄の有無とは関係なく論ぜられるものです。

※※追記終わり※※

この件の実質的違法性と、あるべき考え方について深く書いていきます。

東京都公文書等の管理に関する条例

東京都公文書等の管理に関する条例
第十条 実施機関は、公文書がその保存期間を満了したときは、第七条第二項の規定による定めに基づき、当該公文書を公文書館に移管し、又は廃棄しなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、実施機関は、必要があると認めるときは、第七条第一項の規定により設定した保存期間を延長することができる

都の実施機関のうち、公安委員会に関しては開示請求対象文書の保存期間を延長する義務規定があります。【公文書の管理に関する規則 平成13年3月28日 公安委員会規則第5号】です。

しかし、それ以外の実施機関の場合、そういう規定がありません。
単に、「必要があると認めるとき」という裁量規定であり、義務ではありません。

都の文書課に確認したら、ガイドラインがあるようです。そこでは開示請求対象となった文書は「必要があると認めるとき」の例として挙げられていますが、必ずしも保存期間を延長することにはならない規定であり、標準的な処理の仕方として延長することは定められていない、ということでした。

しかし、これは規定の不備でしょう。

余りにもおかしなことになる。

文書開示請求等の場合に保存期間を延長する義務が課される他の自治体のルール

福岡市公文書規程 平成18年10月16日 訓令第14号
(保存期間の延長)
第44条 文書管理者は、次の各号に掲げる公文書については、その保存期間が満了した日後においても、それぞれ当該各号に定める期間が満了する日までの間、保存期間を延長するものとする
(1) 現に監査、検査等の対象となっているもの 当該監査、検査等が終了するまでの間
(2) 現に係属している訴訟に関するもの 当該訴訟が終結するまでの間
(3) 現に継続している不服申立てに関するもの 当該不服申立てに対する裁決又は決定の日の翌日から起算して1年間
(4) 福岡市情報公開条例第5条の規定による公開の請求があったもの 同条例第11条第1項又は第2項の決定の日の翌日から起算して1年間
(5) 福岡市個人情報保護条例(平成17年福岡市条例第103号)第18条第1項の規定による開示の請求、第33条第1項の規定による訂正の請求又は第42条第1項の規定による利用停止の請求があったもの 同条例第24条第1項若しくは第2項、第36条第2項又は第45条第2項の決定の日の翌日から起算して1年間

この規定ぶりは都の公安委員会(平成13年3月28日 公安委員会規則第5号)と同じです。

国の側のルールでも、延長義務規定が存在しています。

公文書等の管理に関する法律施行令(平成二十二年政令第二百五十号)
(保存期間の延長)
第九条 行政機関の長は、法第五条第四項の規定に基づき、次の各号に掲げる行政文書ファイル等について保存期間を延長する場合は、当該行政文書ファイル等の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める期間が経過する日までの間、当該行政文書ファイル等を保存しなければならない。この場合において、一の区分に該当する行政文書ファイル等が他の区分にも該当するときは、それぞれの期間が経過する日のいずれか遅い日までの間、保存しなければならない。
一 現に監査、検査等の対象になっているもの 当該監査、検査等が終了するまでの間
二 現に係属している訴訟における手続上の行為をするために必要とされるもの 当該訴訟が終結するまでの間
三 現に係属している不服申立てにおける手続上の行為をするために必要とされるもの 当該不服申立てに対する裁決又は決定の日の翌日から起算して一年間
四 行政機関情報公開法第四条に規定する開示請求があったもの 行政機関情報公開法第九条各項の決定の日の翌日から起算して一年間
2 行政機関の長は、保存期間が満了した行政文書ファイル等について、その職務の遂行上必要があると認めるときには、一定の期間を定めて行政文書ファイル等の保存期間を延長することができる。

文書開示請求対象文書の廃棄という悪質行為

まず、事案を分けて考える必要があります。

暇空氏の事案の場合、「令和3年度のメール」が問題になったわけですが、これが保存期間満了していたのかどうか?という点がまず重要。
その上で…

①保存期間が満了して本来は廃棄すべき文書が開示請求対象とされた場合、どうするべきなのか
②廃棄すべき文書につき一旦は存在する前提で非開示と回答した場合、どう扱うべきなのか
③開示請求後の時間の経過によって保存期間が満了した際の扱いはどうするべきなのか

これらの場合があり得ることになります。
自治体での話に限らないように考えてみます。

①保存期間が満了して本来は廃棄すべき文書が存在している中で開示請求対象とされた場合

この場合は廃棄するか否か。

保存期間が延長されていない限り、廃棄して良い、と考えます。

たとえば、【東京都公文書等の管理に関する条例】の目的規定である1条では、「公文書等の適正な管理が情報公開の基盤であるとの認識の下」と書かれているように、公文書等の適正な管理が前提です。

国レベルでも【公文書等の管理に関する法律】の目的規定でも…

公文書等の管理に関する基本的事項を定めること等により、行政文書等の適正な管理、歴史公文書等の適切な保存及び利用等を図り、もって行政が適正かつ効率的に運営されるようにする…

このように、公文書の管理が適切に行われていることが行政運営の前提であり、国民による行政監視もそのベースがあってこそ、という世界観を感じます。

「適切な公文書の管理」とは、現行法上、「廃棄しないこと」ではなく、ルールに則って管理されていることを意味しますから、廃棄それ自体も管理方法の一つなわけです。

そこに「文書開示請求があったから」という理由で自動的に保存期間を延長させてはいけないでしょう。

そうするのであれば、そのような規定を予め設けるべき。もちろん、文書が存在していることで国民が不利益を被るわけでもないからルールは不要だという考え方もあり得るのではないかとは思いますが。
法律の留保についてはこちら

もっとも、これを許せば、保存期間の延長を狙って=廃棄の阻止のみを狙って文書開示請求が乱発されるおそれも誘発されることとなるでしょう。

ただ、行政文書は保存期間が満了したらその都度即座に廃棄している、ということは実際上考えにくく、ある程度の文量について一定のタイミングで一括処理している運用が採られていると思われます。

そのため「保存期間が満了して本来は廃棄すべき文書が存在している中で開示請求対象とされても非開示として後に廃棄して良い」という立場では、現実には存在している文書が開示請求上は「存在していない」ものとして扱われることが発生します。

この際に「廃棄済み」とするのではなく、「保存期間満了のため」として非開示にする方法もあるとは思いますが、議員ルートなどで文書が「発掘」されるということが起こり得ます。

これを許すのか、そういう事態があっても制度上矛盾していないとするのか。という辺りは考えるべきだろうと思われます。

※追記※
①保存期間満了
②諸機関の責任者による廃棄の措置の決定・承認等
③現実の廃棄

こういう流れが想定できることに気づきました。
よって、ここで述べたことは②の措置が行われた後の段階における話とするべきなんだろうと思います。

①のあとに②に至る前までは、未だ公文書等として存在しているものとして扱うべきなんだろうと。

②の決定・承認等が行われたあと、現実の廃棄までに長期間が経過するなどといった事情があるのかについては知りません。

※※追記終わり※※

②廃棄すべき文書につき一旦は存在する前提で非開示と回答した場合、どう扱うべきなのか

これが暇空氏の事案におけるダイレクトな課題です。

都を例に出しますが、東京都公文書等の管理に関する条例では、「必要があると認めるときは…保存期間を延長することができる」とありました。

本来、保存期間が満了したために廃棄しなければならない文書につき、(一括処理をする都合上なのかわからないが)、何らかの理由で開示請求時には未だ存在していたものについて、非開示決定の理由として廃棄以外の存在している前提の理由を付した場合は、この「必要があると認めるとき」と判断したとみなすべきである、とは考えられないでしょうか?

また、都のような規定に引き付けなくとも、そのように処理するべきではないでしょうか?

なぜなら、外形的には、そう扱われていたと理解するほかないからです。
そして、「廃棄済み」と返答できたにもかかわらず、「存在している」と敢えて返答したことの責任は、行政側にある。

非開示の決定を受けた側は、文書が存在している前提で審査請求や開示請求訴訟を提起するかもしれない

実際に審査請求や訴訟提起しなくても、そのための準備や検討、他の戦略の練るなどの無用な時間とコストが浪費されることになる。私人の行政に対する信頼を毀損する行いでしょう。

そういう不利益を請求者に被らせないために、行政は文書が存在しているものとして扱わなければならない。【信義誠実の原則】における【禁反言の法理】からは、そのように結論付けられるほかない。

東京都の情報公開制度においてこのように解しても、「住民間或いは開示請求者間の平等・公平」が毀損されるという関係には無いだろうし、文書の適切な管理という要請に反するという関係にも無いであろう。
徴税制度のような租税法律主義による納税者間の平等、公平という要請があるような状況は、本件では存在しないだろう。

このように考えられるのではないでしょうか?

ここでいきなり「徴税制度」「租税法律主義」という単語を出したのは、行政法分野での信義誠実の原則=信義則の適用が問題となった判例が念頭にあります。これは民法上の原則(民法1条2項)だからです。

最高裁は、適用を否定しませんでした
が、租税法律主義の貫徹が求められる事案であったため、その適用には慎重になるべきとした上で、原審に差し戻す判決を下しました。

租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて右法理の適用の是非を考えるべきものである

最高裁昭和62年10月30日第三小法廷判決・訴月34巻4号853頁

事案の概要や地裁から差し戻し控訴審までの判示については以下が参考になります⇒http://kraft.cside3.jp/steuerrecht07-2.html

したがって、保存期間が満了して本来は廃棄すべき文書につき一旦は存在する前提で非開示と回答した場合には、保存期間が延長されたものとみなして扱い、開示請求の(開示請求に限らないが)不服申し立て等の手続の期限が徒過するまでは保存期間とし、廃棄してはならない、という扱いにすべきです。

③開示請求後の時間の経過によって保存期間が満了した際の扱いはどうするべきなのか

こんなものは保存期間が延長されなければならない。

請求時には保存期間内であった開示請求対象文書が、当該手続が未だ進行中に廃棄されるなど、情報公開制度の趣旨にも反した行いです。

これは、現行制度上、開示請求対象となった文書は1年間保存期間を延長することとする、という義務規定がある場合でも同様でしょう。

開示を争って最高裁まで行ったら1年以上が経過することは在り得るでしょう。その間に「保存期間が終了したから廃棄しました、訴えの利益は無くなりました」なんていう事態を法が許容しているわけが無い。

この場合、公用文書毀棄罪(刑法258条)として処罰されなければならないのではないでしょうか。

条例レベルでの立法マターにすべきか、首長の行政事務レベルの話にするべきか

保存期間延長義務を定めた規定を引用しましたが、これらは「訓令」とか「規則」といった形式でした。「条例」ではありません。

訓令」とは地方公共団体においては、地方自治法第154条の規定により長が、その補助機関の職員に対して職務上の命令を発する場合です。つまり、政治家=議員が議会で「立法」をして出来上がったのではなく、首長(市区町村長・都道府県知事)の命令です。

規則」も地方自治法15条「普通地方公共団体の長は、法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し規則を制定することができる」ものでもあります。

もしかしたら、知事の権限外の実施機関が独自に定めたルールにおいて公文書等の保存期間の延長について定めたものがある場合もあるのかもしれません。

開示請求対象文書の保存期間の延長義務規定は、どの法形式によって実現されるべきなのか?という点も、一つの問題でしょう。

条例によって、つまり議員らの投票によって定めるべきなのかどうか。

情報公開制度や文書管理制度は国に先行して地方自治体でルールが形作られてきたという経緯があり、なかなか統一的な扱いを見出すことができません。

国民の権利を実現するためには是非とも全国の議員らに頑張って頂きたい。

本稿が問題提起・考えの整理の一端になればと思います。

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