夏羽 natsuhane

小説を書いて生きていく。 夏羽ブログ 「跛行記」http://natsuhane.net

詩 【歪んだ時間の告白】

過去が時の別名だとして、
 時が、甘く、苦い、幻影だとして、
 僕は無力な赤ん坊のまま(羽が震える)
 過去からも現在からも隔てられ、(無作為の咎を)
 未だに右も左も判然としない無時間の中に、
 過去からの宣告に怯えながら、(宣告が響く)
 希望という「嘘」を声高に自らに言い聞かせながら、
 いつか向き合わねばならない真実と、(宣告が響く)
 その先の孤絶を、掻き消し打ち払いながら進む。(言葉の

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短編 「白に、崩れる」    夏羽

それは突然やってきた。十九歳の春だ。僕は浪人生活をしていた。
 僕の運転する車が、橋に差し掛かった時だった。
 駅に向かうため、国道を右折すると、西日が正面から射して、視界を奪われた。
 慌ててサンバイザーを下げて視界を確保した瞬間、車の底が抜けた感覚に襲われ、深甚な恐怖が体中に満ちたのだった。
 一瞬、何が起きたのか分からなかった。ただ、それは恐怖としかいいようのない感覚だった。
 胸腔で大きく

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短編 「透明な痛み」      夏羽

風に吹かれたくて外に出た。熱はひいたとはいえ、三日三晩ベッドに横たわり続けた体には重たい扉だった。ようやく向かい風に逆らって押し開けた時、風が吹き込んできて、魔笛のハイ・コロ­ラトゥーラソプラノのような音が響いた。  扉の外は不完全な夜だった。行き交う車のヘッドライト、仕事帰りらしいサラリーマン、意気軒昂な幼さの残る言動の若者たち、けばけばしい装いと安っぽい光輝さと高級な芳香を振りまきながら歩く夜

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