京極堂シリーズへの誘い
みなさんお疲れ様です。
講談社ノベルス派の夏木です。
先月の9月14日に京極夏彦の最新刊「鵺の碑」が発売されました。
実はこのことを知ったのは雨粒さんのXへのご投稿からだったのです。
鵺の碑…!
そうだそういえば前作「邪魅の雫」に次回作として予告されてたタイトルじゃなかったっけ、と思い出して検索したら既に発売されているではありませんか。
京極堂マニア失格!!
「京極夏彦先生申し訳ありませんでした」と心の中で土下座しながら大いに反省し、すぐさま注文。
届いた煉瓦のような本を手に掲げ、夫に「これを読破するまで私は余暇を読書して過ごすから、どうかレコーダーに溜まっている『ゴルフサバイバル』でも見ていてほしい」と脅迫懇願し、京極堂の世界へ没入したのです。
読後、「鵺の碑」の感想を書こうと思っていたのですが少々マニアックな書籍のため、今回は京極堂シリーズの魅力についてまずみなさんに知って頂きたく筆を執りました。
京極堂シリーズとは
小説家兼妖怪研究家・京極夏彦による小説で、公式には「百鬼夜行シリーズ」と呼ばれる。
2023年10月現在で10巻(9作)刊行。
通常、世間一般で「小説家」と認知されるには出版社が主催するコンテストに応募し、そこで何らかの賞を獲ることで書籍化されてデビューとなる。
ところが氏は1994年、講談社に自作の小説を送り付け(事前に電話はしたらしい)それを読んだ編集者が度肝を抜かれて即座に発売の運びとなったという、異例のデビューだった。
それが第1作の「姑獲鳥の夏」である。
もうノベルス版は出回っていない模様。
初めて手に取った時の講談社ノベルスのズッシリ感は忘れられない。
時代設定の妙
京極堂シリーズは章によって視点が変わる、群像劇とも呼ばれるスタイル。
明確な主人公は居ないものの、やはり核となっているのは「京極堂」という古書店を中野で営む中禅寺秋彦だ。
ニックネームとして京極堂と呼ばれている。
物語の舞台は昭和27年(1952年)。
この時代設定がまた絶妙だ。
江戸時代や明治・大正なら、我々も教科書である程度知っている。
しかし終戦から7年後の世界については意外と知らないものだ。
サンフランシスコ平和条約が締結される裏で水爆実験が行われていた時代。
日本は和装と洋装の転換期であり、まさに価値観が混沌としていた時期でもあった。
だからこそ、京極夏彦はこの時代設定を選んだのではないかと私は勝手に思っている。
さて京極堂シリーズはジャンルで大別すると「ミステリー」だ。
物語の中心人物である京極堂(中禅寺秋彦)は「憑き物落とし」という形で関係者の深層心理に這入り事件を解決していく。
時にトラウマと向き合わせ、時に救いの手があったことを示唆して当事者達に気付かせる。
その根底にあるのが妖怪なのだ。
事象としての「妖怪」
妖怪と聞いて多くの人が思い浮かべるのは「ゲゲゲの鬼太郎」だろう。
主人公の鬼太郎が様々な妖怪たちと仲間になったり戦ったりする物語で、数多くの妖怪が登場する。
一般的に妖怪とはフィクションのキャラクターや「おばけ」に属するものであり、現実には存在しないものと考えられている。
勿論そのような異形なものは存在しないのだが、実は妖怪には重要な役割があるのだ。
例えばみなさんご存知の「やまびこ」。
山で「ヤッホー」と叫ぶと少し遅れて「ヤッホー」と返ってくる現象だ。
音の反響によるものであり、現代では不思議でも何でもない。
が、昔の人にとっては恐ろしい事象だった。
「これは山に住む妖怪の仕業に違いない」と昔の人は考えた。
そこに名前が付けられ、更に「存在としての価値」として絵が加えられたのだ。
よく分からない不安なもの・怖いものを「見える化」することによって、人々は自身を納得させた。
「あぁ、これはやまびこの仕業だ。何も怖がることはない」と。
つまり妖怪とは、その時代の科学技術ではまだ解明できない謎の事象に名前と姿を与えて「そういうこともある」と腑に落ちさせる装置なのだ。
全く意味の分からない不可解な事件に名前を与え、関わった人々の心の中の固結びを理論的に解いてゆく。
それが京極堂の憑物落とし。
鵺の碑を読む前に
私は本来「鵺の碑」の感想記事を書こうと思っていた。
しかし京極堂シリーズにおいてはネタバレ無しの感想を書くことが非常に難しいのだ。
一見バラバラに思える事件が収束していったりバラバラのままであったり、という複雑怪奇なルートを辿ってクライマックスを迎えるため、ほんの少しでもヒントがあると面白さが減ってしまう。
例えば「鵺の碑のテーマは〇〇です」と書いたとする。
読者は「〇〇」という言葉を頭に入れながら読むので、途中で犯人に気付きやすくなってしまうのだ。
これは良くない。
だから鵺の碑に関して私は口を閉じることにした。
読んだ人の感想はXのDMなどを通じて待ってますので大いに語りましょう。
ところでトップ画に違和感を持った人はいるでしょうか。
もしも重大なことに気付いた方はコメント欄からお知らせ下さい。
先着で何か良いことがあるかもしれません。
この世には不思議なことなど何もないのだから。
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