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東京出身者なりの憂鬱

私は生まれも育ちも東京で、現在も都内に住んでいる。
出身都道府県ガチャなら間違いなくSSRだろう。

しかし「東京出身者」というレッテルは必ずしも良いことばかりではない。
「はぁ?そんなことないだろ。地方なめんな」と思われるかもしれないが、どうか拳をゆっくり下ろしてください。ごめんなさい。

私なりに感じる、東京出身者特有の感性についての話です。


東京は地方出身者によって動いている

2021年8月の時点で、東京都の人口は1400万人を突破している。
ちなみに日本の人口が約1億2500万人なので、日本人の10人に1人は東京に住んでいる計算だ。

その中で私のような東京出身者はどのくらいかと言うと、2016年の調査では54%。
ただしこれはあくまでも「住所が東京の人」に限った話で、実際には埼玉・神奈川・千葉といった近県から、毎日300万人近くが仕事や学校のため東京に訪れている。

こうした人たちを加味すると、普段東京で活動している人のうち、東京出身者は約45%。半分にも満たない。
つまり東京という街においては、地方出身者の方が多数派なのだ。


少なくともシティガールではない

シティボーイ・シティガールっておそらく死語だと思うので一応説明すると「都会的な男子・女子」という意味です。
もしかしたらこの前改訂した三省堂国語辞典にはもう載っていないかもしれない…。

地方から来る人は、東京の人間に対して大きな偏見と期待を抱いていることが多い。

「東京の人は冷たい」
「おしゃれなカフェに行きまくってる」
「最新トレンドを押さえてる」

多分ですが、これらは東京在住の、ごく一部の方の振る舞いではないかと推察されます。

何故なら電車で人に席を譲る光景は珍しいことではないし、落とし物を届ける人も普通にいる。

おしゃれなカフェは馬鹿みたいに高価たかいので、行きまくってるのは美魔女マダムやインフルエンサーぐらいだろう。
ちなみに私はスタバでも「アイスコーヒー」で通す人間だ。
あの呪文のようなメニューを唱えたことは一度も無い。

そして東京の最新トレンドも、やっぱり地方出身者の方がアンテナ感度が高いのだ。
もちろん東京出身者でもおしゃれな人はいるが、何というか、ガッツが違う。

未だにスカイツリーはおろか、ソラマチにもヒカリエにも行ったことが無い私では到底太刀打ちできない。


東京にも昭和の町はある

「それはあなたが特殊なだけです。東京出身者代表みたいな顔してデマを流さないでください」というコメントを打つのは、ちょっと待ってください。

確かに私は一般的な東京出身者とは言い難い。認めます。
しかしこれは私が生まれ育った土地柄の影響も大いにあると思う。

ご存知の通り、東京23区はそれぞれの区に特色があり、歴然とした格差がある。
港区や文京区がSSRだとしたら私の区はおそらくNだろう。

その区の中でも特に下町感あふれる地区が私の出身地だ。
自分で言うのも何だがここはヤバイ。

なにしろ不動産屋がお客に「この地区はやめておいた方がいい」と警告するレベルだ。
23区内広しと言えど、若い女の子が自転車に乗りながらタバコをふかしている町はそう多くないだろう。

そして令和になった現在でも、近所の中学生たちが他校生徒と川の土手で乱闘をし、警察に通報される事案が発生する。
要するに昭和の町だと考えていただいて差し支えないが、転入してくる人が少ないので、ほぼ地元の人間=東京出身者で構成されているのだ。

ぶっきらぼうで、だけどあったかいこの町を、私は愛している。


東京が特別なことに気付けない

東京から出たことが無いまま大人になった私に、ある時転機が訪れる。
夫の転勤により、とある地方都市へと引っ越すことになったのだ。

そこは旅行でも訪れたことが無い土地だったが、テレビで見る限りは大きい街だし、まあそんなに東京と変わらないだろう。
と、甘い考えで行った私は衝撃を受けた。

何もかもが東京とは違う

まず基本的に車が無いと話にならない
ネイルサロンや美容室も、駅前以外は車でしか行けないような場所にある。
東京では車が無くても一切困らないので、免許を持っていなかった私は、一人で買い物をするのも一苦労だった。

次に繁華街が一つしかない
東京は渋谷・六本木・銀座など、複数の街が電車で行き来できる範囲にあるので、その日の用途や目的に合わせて行く街を選べる。
ところが地方では基本的に一つの繁華街しか選択肢が無いので、全ての用事をそこで済ませるのだ。

そして地方における東京出身者への風当たりの強さを初めて知り、愕然とした。
そうか、東京とは、特別な街だったのか…。

生まれた時から当たり前のことが、ここでは当たり前ではない。
むしろ地方からすれば、とても特殊な環境だったのだ。

東京を離れたことで、ようやく私は東京という場所の「日本での立ち位置」を体感したのだ。


たまたま東京に生まれただけ

「東京は地方を馬鹿にしている」
そんな固定観念を持った人もいるが、少なくとも東京出身者は地方に対してそんなことを微塵も思っていない。

まず東京以外の場所に住んだことが無ければ、比較することすらできないからだ。

そうした意味では、一度地方の暮らしを経験した私は、もう純粋な東京出身者ではなくなったかもしれない。
東京は憧れの街であり、だからこそ多くの人から憎まれ、叩かれる街であることを知ってしまった。

地方出身者にとって、この街はどこまでいっても「よその街」で、自分たちのものではないから平気で汚したり貶めたりもする。
でも、私にとっては出身地であり、大切な場所だ。

転勤中に一時帰京した際、新幹線の車窓から見えてきた高層ビル群に、生まれて初めて「地元に帰る嬉しさ」というのを感じた。
多分みんなそうなのだ。

出身地に関係なく、地元がやっぱり一番落ち着くし、住みやすい。

それがたまたま東京だっただけなのだが「どんなに言葉を尽くしても共感を得にくい」ことが、東京出身者の一番の憂鬱かもしれない。

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