喪失感

 先日、実家で飼っていたワンコが急死した。10歳だった。
 知らせを受けたのは、本当に突然だった。なくなる前日の夜、仕事が終わり片付けをしようとした時に、母からLINEが来ている事に気づいた。内容はワンコの容体が悪い。万が一の事があるかもしれない…というものだった。
 しかし私は翌日に外せない用事を入れてしまっていたので、残念だが行けないと返事をした。この時はまだ、ワンコが立ち直ると信じていたからだ。
 今回の経緯について、どうしてこうなったのか全く私は聞いていなかった。簡潔にまとめると、腫瘍ができてしまいそれを切除する手術を受けたという事だった。しかし麻酔の影響が悪い作用をもたらし、それが命を落とす原因に繋がってしまった…との事だった。稀にあることの「稀」のほうに入ってしまったのだ。
 死んだと知ったのは、私が外で用事を済ませお昼をとっている時だった。軽くお昼を済ませてそのまま買い物をして帰ろうと考えていた時に、その知らせが来た。まさかと思った。
 もっと早く、手術を受ける前段階でそういう話を家族から聞いていたら。会いに行く時間を作れたかもしれないのに。外に出たら本当に家族に関して何も伝わってこないんだと思い知った。今まで父親に対する嫌悪が強かったが、今は家族に対して嫌悪感が強くなった。
 どうせ外に出た私にはもう家族の事なんて関係ないのか。だから何も知らせてくれないんだな。そう思ってしまった。
 大切なワンコだった。家には2匹のワンコがいたが、先代は数年前に老衰と持病で虹の橋を渡った。その時は実家でそばにいたから、きちんと見送ることができた。けど今回は違う。本当なら長生きできたかもしれない命だったのに。家族を責めるつもりは全くないが、それでも悔しさは募って部屋で1人泣いた。
 火葬する日に実家に帰った。いつも元気に吠えて迎えてくれたワンコは、静かに眠っていた。信じられなかった。ただ寝てるだけだと思いたかった。今、この文章を綴りながらその日のことを思い出して辛くなってきた。
 実家を出る前、父親と揉めた時に「大人だったら泣くんじゃねーよ」と怒鳴られた。だから絶対親の前で泣くものかと堪えてワザと関係ない話をしたりした。
 しかしその父親が信じられないくらい落ち込んでいた。どうせ今回の事も仕方ないくらいにしか思ってないだろうと思っていたから、少々驚いた。けど、そんな父親を見ても同情するとか慰めの気持ちとか一切湧かなかった。今まで私や他の家族を傷つけてきたツケが回ってきてんだ、と喉の奥まで出かけていた。
 最後のお別れは本当に辛かった。悲しくて寂しくて、実家から離れてもワンコの存在だけが癒しだったのに。家族から無理矢理離れ、毎日孤独で寂しくて仕方なかったのにさらに寂しさが増してしまった。
 火葬後、お骨を拾う時。きちんと骨が残っていた。数時間前まで姿があったのに。先代ワンコの時もそうだったが、目の前から存在していた者が消えてしまうというのはとても悲しい。抱っこしてあげたかった。一緒にゴロゴロしたかった。実家にいたら、毎日撫でてあげられたのに。
 お骨は小さなカプセルに入れてお守りにしている。大好きだった足や尻尾の小さなお骨を納めている。火葬前に毛もカットしていてくれたのを家族から渡されたので、それも一緒に。先代ワンコのお骨もカプセルに入れてお守りにしていたので、一緒にそばに持ち歩いてる。
 実家から離れて4ヶ月目の出来事。一人暮らし始めてから何も楽しいこと、嬉しい事なんてない。悲しい・寂しいことばかりで生きてること自体が辛い。なんのために生きてるんだろう。ただただ時間が過ぎていく日々。
 ちょうどこのくらいの時間だった。亡くなった知らせが来たのは。
 昨日今日と連休なのだが、今は何もしたくない気持ちでいっぱいになっている。自堕落な時間を過ごしている。明日は仕事だ。今日残りの時間もボーッとして終わるだろう。

 ワンコ、うちの家族になってくれてありがとう。最後、辛い痛い思いをさせてごめんね。お空の上で、先代ワンコと一緒に仲良く遊んでるといいな。沢山の思い出と宝物をありがとう。

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