最強のメイドはいかがですか? ~最強だった冒険者の第二の人生~

 ……何で君は一人ですべてやってしまうのか。このままではこのギルドの後進が育たなくなってしまう。それについて君は理解しているのかね。

 ……まあ、ギルドの力が強くなっていることについては申し分ないがね。けれど、この時代、ずっと同じ人間がトップに立ち続けるのはあまりよろしくない。ギルド連盟も若返りを求めているのだよ。

 ……君は【最強】の称号をとっくに手に入れてしまって、魔王も倒してしまった。世界に対する悪が無くなってしまった、ということだね。もちろん、絶対的な悪は無くなったとしてもその後片付けはしないといけない。そんなものは、わざわざ【最強】たる君が出なくてもいいのだよ。どうしてそこまでむきになるのかね?

 ギルドメンバーの上位層にこんなことを言われてしまって、私は仕事が無くなってしまった。

 要するに、社内無職というやつ。

 しかしながら、ギルドで仕事をしなくてももう充分お金は有り余っていた。きっと私がここで引退を決め込んだところでこつこつと使っていけば貯蓄を使い切ることは無いと思う。

 でも、私としてはそれはやりづらいところがあった。だから本気で私は上位層に文句を言いに行った。上位層のメンバーは誰もかれも私より年下。もっといえば冒険者歴は私が群を抜いて長い。

 にもかかわらず、彼らが上位に立っているのは彼らの世間を渡る力を持っていたから。世間をうまく動くためには、圧倒的な力だけでは無意味と化す。そんなものはさっさと使って使って使い潰すしかない。

 そんなことまで解っていて、なぜ私は冒険者をやめることは無かったか。

 簡単なこと。私は戦いが好きだった。戦うことが好きだった。血を見ることが好きだった。

 そういえば完全なサイコパス、あるいは戦闘狂に思えるけれど、まさにその通りだった。

 私は戦っているその時こそ、私が『生きている』という実感を抱くことが出来るのだから。

 だから、私は別に若手の芽を摘んでいるという認識は無かった。ほかのギルドメンバーの仕事を奪っている、という認識は無かった。だって別にほかのメンバーも仕事は貰えている。高望みしないってことはそれで生計を立てているということになるのだし、別にそれくらい私が見るポイントでも無い、って思っていたから。

 けれど、聞いた限りだとどうやらそれは私に直接苦情を言っていないだけのようで、実際のところは私をスルーしてわざわざギルドマスター(こいつだって私より五つも年下だが)に文句を言っていたらしい。そんなことをする暇があれば自分のレベルを鍛えればいいのにね。レベルが上がれば出来る仕事も増えてくる。だからこそ、私はレベルを上げてきていた。まあ、レベルを上げることはあんまり気にしていなかったけれどね。ただ戦うことが好きだっただけだから。

 だからと言っても、そんな私の意見が通るわけもなく、どうやらもともとギルドマスターなどの上位層は私の活動に業を煮やしていたらしく、その権力を行使して私の仕事をすべて奪うことにしたらしかった。

 職権濫用ギリギリの行動にも思えるが、彼らにも彼らなりの矜持があるのだろう。私はギルドマスターを十回ぶん殴っておいてそう結論付けるとギルドから出ていった。

 ギルドの建物を出ると、いやに吹く風は冷たかった。何というか、門出には一番相応しくない日だということは認識していた。

 いや、でも、それでいいのではないか。私は思った。簡単に考えりゃいい話。私としてはあのギルドには戻ろうとは考えちゃいない。つまりゼロからのスタートということだ。別に資金もあるし、わざわざギルドに入らなくてもいいだろう。

 それなら一人で気ままに暮らせばいい。そうなら大きな屋敷でもどこかに無いだろうか。優雅に暮らしたい。気ままに暮らしたい。たまに戦闘を出来る感じに。

 そう考えると、私の『第二の人生(セカンド・ライフ・プラン)』があっという間に構築されていくのだった。

 ◇◇◇

 ドラーフ王国の避暑地として有名な、アミュース。

 その一等地にある巨大な屋敷。

 そこに居るたった一人のメイド。それが私だ。

 今は訳があってこの屋敷に二人で暮らしている。私がメイド、そして『ご主人様』にあたるのは――今そこで庭いじりをしている貴族の青年だった。ドラーフ王国の大臣を代々経験しているリミュシュアード家の御曹司で、ずっと冒険者一筋でやってきた私にとってみれば天と地の差がある。

 なぜそんな私がリミュシュアード家の屋敷にメイドとして雇われているのか。

 そんなことを聞いて、何が楽しいのか。

 まあ、タイミングが合えば話をしてもいいだろう。一先ず、今作っている昼食を終わらせることにしよう。そう思って私は浅い鉄鍋に油を垂らして材料を炒めていくのだった。

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