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胸がリコールされた話。②

可能性という数字

BIA-ALCLはT細胞性非ホジキンリンパ腫というがんの一種だ。乳がんではない。
つまり、この有害事象に見舞われたら、がんをとったのに別のがんに罹ったことになる。一粒で二度辛い。
しかもDCISは生命予後に影響を及ぼさないのに対し、BIA-ALCLは5年生存率91%と僅かながら影響を及ぼす。ステージIならば腫瘍と被膜の完全切除により治癒するものの、ステージが上がれば化学療法などが必要になる。

 ◇ ◇ ◇

逡巡

乳がん告知後、というかその場で再建をオーダーしたのは、周囲の懇願にも似た説得の影響も多分にあるが、最新の医療技術を体験したいという好奇心もその理由だった。

術式は、正直迷った。

自家再建は身体的負担が大きいものの、メンテナンスが要らない。胸とドナー部分に傷は残るものの、生着した組織は自然に馴染む。加齢による下垂も自然だ。
デメリットで言えば、自家再建は壊死したら別の方法を考えることになる。血管閉塞が起こりうる。腹直筋をドナーとする場合、腹壁瘢痕ヘルニアを起こすことが稀にある。身体に大きな傷が残り、社会復帰までの時間が長い。

人工物は身体的負担も、残る傷も少ない。今は医師の技量次第で美しい仕上がりになる。社会復帰までの時間が短い。
デメリットはBIA-ALCLや回転、被膜拘縮のリスク。入れ替えメンテナンスが約10年ごとに必要になるため、繰り返しのオペの度に身体的負担・経済的負担がかかる。下垂の表現が比較的困難で、加齢による経時的変化には対応できない。

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自分なりのリスク把握

では、わたしはリスクをどう捉えたか。
まず有害事象にはそれぞれ発生確率がある。このデータは安全性情報で誰しも見ることが可能だ。

起こった場合に一番嫌なもの、受け入れがたいものは何か。
どうしたって起こる時には起こるのが有害事象であるならば、どれが嫌なのかで比較した方が後々の後悔に繋がらないのではないかと考えた。

壊死はリスク確率1~2%、血管閉塞は2~3%だ。
BIA-ALCLは1/3817~30000。

壊死、閉塞は真っ先に考えた。全摘+インプラント挿入のあと、血流不良から創面切除を要したからだ。喫煙者ではないが、リスクとしてはしっかり捉えておいた方が良いのではないかと考えた。

BIA-ALCLについては、これはどう捉えたものか非常に困った。
確率だけで考えるならば、ほぼ無視していいくらいの数値。もっとも確率が大きいオーストラリアおよびニュージーランドでも、1/1000~1/10000。
当時は国内例もない。ただし日本で保険収載されてからその時点で考えてみると、埋入から好発までの年数約8~9年にはまだ達していなかった。
つまり、これから症例が出てくる可能性を考慮したいところ。

考えに考えた。「アジアではまだ1例のみだから心配し過ぎなくても良い」との主治医の言葉も考慮に入れた。発生確率の相違には人種的な偏りがあるかも知れない、とも聞いた。
身内が療養中ということもあり、仕事復帰までの時間が長くなることは避けたかったのも事実。
そうして、インプラントによる再建を選んだ。

(続く)

なつめ がんサバイバー。2018年に手術。 複数の病を持つ患者の家族でもあり いわば「兼業患者」