水の少女5

照りつけるような太陽。
それを受けて揺らめくコンクリート。
夏も真っ盛りな8月の頭、僕は近くの予備校の夏期講習に通っていた。
予備校に行くまでは町の大通りを通らねばならず、そのたびに汗だくになりながら熱せられたアスファルトの上を、とぼとぼと歩いて通った。

しかし、そうやって通った予備校の先生は活気があり、教え方がうまかった。
おかげでいじめられていた間受けられなかった授業の内容を取り戻すことが出来た。そして中間で受けた模試の結果はまずまずの判定で、僕はほっと、胸をなでおろした。

休憩スペースで模試の結果票を見ながらジュースを飲んでいると、前の席に同じように模試の結果をもらった学生がどかっと、座った。
髪の毛を短く刈り上げて、程よく日に焼け、この夏まで部活を前線で引っ張ってきました、といったような風貌だ。
しかし模試の結果はよくなかったらしく、結果を見ては眉間にしわを寄せている。ぼんやりと見ているとふいに目があってしまった。

「ン…お前も模試やってきたの。どうだった結果。俺は第一志望A高なんだけどあンましよくなくてさ。」
「あっ!ぼ、ぼくも第一志望A高です!」
「えっ、まじ!で、どうだったの、模試の結果。」
僕はおずおずと結果票を差し出した。
「うわ、まじかよ!A判定じゃん!!っかー、まじかよぉ…うぅ、落ち込むなぁ、ちくしょー」
「あの、何か部活でもやってたんですか?」
「おう、7月までサッカー部の部長でさ。親からは反対されてたんだけど、どうしても中体連出たくて。結構いいトコまで行ったんだぜ。これでも。」
「あっ、もしかして隣の南中!?」
「おー、そうそう。よくわかったな」
「うん、駅に張り紙してあったから。県大会進出!って。」
「そうなんだよなー、県大会進出まではよかったんだけど。その後がなぁ…。」
「やっぱり市外の高校は強かった?」
「やっぱり勝ち抜いてきてるだけあってさ、もう、ぜんぜんよ。鉄壁のディフェンスでさ。全然抜けないのよ。」
「うん」
「しかも、エースストライカーが途中で負傷しちゃって、いや、俺じゃないのよ。俺は司令塔だから。」
「聞いてない」
「ははは。そう、それでそのエースが退場してからもうね、チームがうまく回んなくなっちゃって。」
「うわ、大変だ」
「皆が不安になるとやっぱり動けなくなるんだろうな、おれもけっこう混乱しちゃって、それでゴールも入れられちゃって。」
「悔しかった?」
「そりゃ、な。駅に張り紙してあったぐらいだから、結構応援してくれてる人も沢山いたんだけど、無様な試合しちゃって。
かっこ悪かったなぁ。」
「そんなことないと思うよ。むしろうらやましいよ。」
「おう、ありがとう。でも俺はそこに全力投球して勉強あんまりしてなかったから。結局結果はこんなよ。」
と差し出された模試の結果票には堂々のC判定が書かれていた。
「でもサッカーのせいにはしたくないし。親には叱られるだろうし。気が重いよ。」
「それじゃ、もっと勉強しなきゃだね。サッカーのためにも。」
「そうだよなァ…。あ、そうだ、もしよければ時々一緒に勉強してくんない。俺一人だとモチベーション上がんないし、俺、授業って駄目なんだよな、1対大多数だと気は入らないっていうか。」
「うん、いいよ。ぼくも復習しないとわからない事だらけでさ。」
「おう、よかった!あ、俺耕太。よろしくな。あ、メアド教えてよ」

こうして僕は隣中学の元サッカー部のキャプテン、耕太と友達になった。
それから夏休み中、何度か耕太と会い、勉強をして、帰りがけ少し自分の話をしあって家に帰った。耕太は話好きで付き合いやすく、あけっぴろげでさっぱりとした人物だった。意外と読書が趣味らしく僕が好きなSF作家を熟読しておりその話で盛り上がった。僕はイジメの事を耕太に言えなかったが、うすうす何かに感づいては居るようだった。
それでも何も聞かない耕太に僕は感謝していた。

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natsumi

水の少女

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