natte

短編小説. ✴︎portfolio✴︎ http://www.sozoography.com

半径3mの世界|09|

建物まるごと描かせてもらったときも、見通せるのはそのくらいだった気がする。

絵を描くときは、ふたつしかない。

記憶を再生しながら描くか、

次の線と色を追いながら描くか。

どちらかというと、デッサンは前者に近い。

見たままを描いてるその瞬間は、0.1秒過去を追いながら描いている。

後者は、絵の方から、こっちを描いてくれといってくるとき。

「次は、こっちだよ、ほら、はやく」

線と色が、

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かなしい夜のラブレター|08|

かなしいことが起こると、ふだんいえなくて内側にため込んでる想いたちをことばにしたくなる。

今夜は、日曜日の夜だから、世界が少しだけ静かだ。

言葉にすると消えてしまいそうな気がして、こわいことはたくさんある。

だけども、あした、きみやぼくやわたしが死んでしまったら、死んだあとにどうしていわなかったのかな、とおもってしまうことばかり頭の中に転がっていて、死んでから後悔するくらいなら、生きてるあい

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空とあおと水色の雲 |07|

静寂の中で、そっと息をする。

あおい、あおい、海の中を漂うよう。

青、蒼、碧。

たくさんのあおいろの波が揺れている。

「ここ、知ってる。空から落ちてくるまえに」

なんだっけ。

ソラカラ、オチテクル・・・?

「空」と書くのが、おそらく本質に近いだろう。

こことここじゃない空白の何処かにそこは在る。

「在る」というのは、正確には正しくない。

正しくはないのだけれど、身体のあるところ

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怠惰な微熱 |06|

幼い頃に、愛情に恐怖を感じてしまうと、大人になってからも愛情をこじらせてしまうことがある。

これを「しあわせ恐怖症」と呼んだりするらしい。

たとえば、両親の仲が冷めていたり、喧嘩をいつもしていたり、愛情を感じられなかった場合に起こるという。

「無条件の愛」と呼ばれる愛情を抱くのは、親ではなく、子どもの方だろう。

大半の子どもは、親というだけで、無条件に愛してしまうものだ。

自分の命を与え

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なみだはミルクのにおいがする |05|

傷つくのは、ずるい。

だって、勝手に傷ついてるだけなのだもの。

傷つけるほうは、傷つけるほうで、良いことではない、とは思うけれど。

なみだは、ミルクのにおいがする。

まくらからも、ふかふかのクッションからも、ミルクのにおいがただよってくる。

こぼしたなみだをためて、ホイップしたら、たっぷりと甘ったるいミルクケーキができそう。

ミルクをこぼしたような流れの天の川。

いきるものたちの流し

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平成最後の四月一日、月曜日。架空東京1.45… |04|

「令和」

東京タワーとスカイツリーの真ん中あたりを歩いていた。

「わたしは、令和ってことばの音の響き、けっこう好きかもしれない。」

「そう?」

「うん。」

「『時に、初春の令月にして、気淑く風和ぎ、梅は鏡前の粉を披き、蘭は珮後の香を薫す。』
【時に、初春の好き月にして、空気はよく風は爽やかに、梅は鏡の前の美女が装う白粉のように開き、蘭は身を飾った香のように薫っている。】万葉集梅花の歌三十

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