心に残った公共広告4選

※団体名の表記はCM放映当時に使用されていた名称を採用しています。


1:2005年度・公共広告機構「あなたが大切だ。」

「"命は大切だ。命を大切に。"…そんなこと、何千何万回も言われるより、"あなたが、大切だ。"…誰かがそう言ってくれたら、それだけで生きていける。」

出演しているのは、女優の栗山千明さん。彼女が話している、それだけなのに、妙に納得する。

自分の命を大切にできなくなって、誰かと話したとき、「命を大切に」なんて他人事のように言われるよりも「あなたは大切な人」と受け止めてもらえると、自分の命を、少し前向きにできる。この世の全員とは言わないけど、皆そう思うのではないか。ちょっとしたことでも少しずつ考えていくことの大切さを訴えかける、そんなCMだ。

2:2002年度・公共広告機構「IMAGINATION/WHALE」

通称「黒い絵」
「みんなの心に浮かんだことを、そのまま描けばいいんだからね」
小学校で、教師の女性が子供たちにそう話す。図工の時間だろうか。子供たちは一枚の紙に"心に浮かんだこと"を書いていく。猫、兎、クワガタムシ…

しかし、一人だけ、紙を真っ黒に染める子供がいた。教師は不思議そうに彼の絵を見る。彼は授業が終わっても、家に帰っても、病院に連れて行かれても、学校にも行かずに、たくさんの紙を黒く染めるのをやめなかった。

ある日、病院の一室で相変わらず"黒い絵"を描き続ける彼の様子を見ていた一人のナースがあることに気づく。床に散らばった2枚の黒い紙を組み合わせると、何かの絵のように見えてくる…

大人たちは広い部屋に黒い紙を並べる。ちょうどその時、彼は絵を描くのをやめた。黒い紙を並べて見えたのは、大きな黒い鯨。彼が描いた最後の一枚は、鯨の瞳だった。
「子供から、想像力を奪わないでください。」

60秒、90秒版が作られた、映画のような大作CM。実はある制作スタッフの実話をもとにして作られたCMだそうだ。…実話!?
心に浮かんだことを、「そのまま」描いた男の子。一つの概念にこだわった大人たちは、すぐに「頭がおかしくなったんじゃないか」などと騒ぐが、彼の考えていることはもっと柔軟。それが「子供の想像力」。大人が忘れていた想像力を呼び戻してくれる傑作。

3:2022年度・ACジャパン「寛容ラップ」

コンビニでの支払いにもたついている年配女性。後ろから強面の男が足を鳴らす。男が話し始めるがその内容は…
「Yo! もしかして焦ってんのかおばーさん 誰も怒ってなんかない あんたのペースでいいんだ 何も気にすんな 自分らしく堂々と生きるんだ」

怒りではなくリスペクトの気持ち。それを聞いた老婆は…

「迷惑かけてしまってるなって 焦ったらまさかの優しい発言 アタシも反省 見た目で判断 もういらないわ 色眼鏡なんか」

人が思っていることは、誰にも見えない。でも、なんとなく伝わる。広い心を持ち、それこそ「一人一人にリスペクト」することが大事だと、ラップバトルからは感じられる。あとは、ポジティブシンキングにも通じるかなと思う。例えばこれの状況だと「早くしてくんねーかな迷惑だわー」ではなく「お年寄りだからゆっくりで大丈夫」というふうに考えることで自分の心にも余裕が生まれる。でも、全てのハンディキャップや事情を理解する必要はない。そういう人がいるという事実さえ受け止めていればいいのだ。

4:2005年・H&I意見広告「屋上の少女」

※ACジャパン(旧・公共広告機構)のCMではありません。

「シンデレラ、この薄鈍!」
「はい、お母様。」
「私の部屋もピカピカにするんだよ!」
「洗濯も忘れるんじゃないよ!」
「あははははは…」
「はぁ…私もお城の舞踏会へ行って、王子様に会ってみたいな…」
かわいそうなシンデレラは、汚い格好のまま、家の中でずーっと働き続けなければなりませんでした。終わり。
「えっ終わり!?」

学校の屋上に座る少女は本を閉じた。少女は別の本を手に取り、朗読を始めた。

ある国に、とても勇敢な王子様がおりました。
「魔女め、今日こそ成敗してやる!覚悟しろ!」
「はーっはっはっはは、生意気な、こうしてくれるわ!」
ボンッ
「はーっはっはっは…」
魔法にかかった王子様は、それから何百年もの間、カエルのままでした。終わり。

少女はまた本を閉じた。少女は悲観的な目で空を見上げたあと、次々と別の本の朗読を始める。

雪の降る寒い夜、教会の入り口のところに、かわいい赤ん坊が捨てられていました。終わり。
ずっと仲良しだったヤギが、市場に売られて行きました。男の子はひとりぼっちになりました。終わり。
優しかったお母さんは病気で死んでしまいました。終わり。

白くて美しいアヒルの群れの中で、その雛鳥だけが汚い灰色でした。醜い醜いアヒルの子でした。終わり。
終わり。
終わり!

少女は本を閉じる。
青い空には白い雲が浮かんでいる。
本の山から灰色のアヒルの子が顔を出す。本の山の一番上にはカエルにされた王子様が居座っている。シンデレラは不思議な目をしている。

少女はフェンスの向こう側で何かを思う。少女はコンクリートの上に立つ。
少女は全てを諦めた顔をして、飛び降りようとする。その時、アヒル、王子、シンデレラが少女に語りかける。
「最後がどうなるか知ってるでしょ!?」「僕は魔法が解けるんだ!」「私は王子様と結婚するのよ!?」

「「「お話はこれからなのに!!!」」」

少女は歩みを止めない。そのずっと下には地面がある。
シンデレラが少女を止めようとする。
屋上から落ちたのは、右足の上履き。
フェンスの向こうには、少女の姿はなかった。

人生の素敵なことは、だいたい最後のほうに起こる。

少女は本の山を持ち上げ、学校へ戻っていく。
少女は飛び降りるのをやめ、また日常を過ごすことを決意した…。

3分の映像がある、長編広告。
童話のアヒル(白鳥)の子やカエルの王子様やシンデレラは皆幸せな結末が最後に待っている。
今辛くてどうしようもなくても、いつか幸せな未来が必ずやってくる。それまで生きてみようじゃないか。
「あなたが大切だ。」でも話したが、少しの希望で案外人は生きていけるものである。

おまけ:JARO

結構重めの広告が多かったので、目の保養にどうぞ。

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