おばあちゃんと文通をしていた
ひとり暮らしをし始めたころ、祖母と文通をしていた。それまで祖母は、息子家族と二世帯住宅に住んでいた。しかし息子家族が違う場所に引っ越すこととなったので、祖母はマンションの一室でひとり暮らしを始めた。そんな頃だった。
ある日、祖母は「ひとり暮らしは寂しくないですか」と手紙に綴ってきた。仕事帰りに真っ暗な部屋に帰る寂しさに押しつぶされそうだった私は、その手紙を読み涙した。でもそれを悟られたら、祖母がもしかしたら私の親に伝えてしまうかもしれない。そうしたら戻ってこいと言われるかもしれない。あさましい考えが、脳にフィルターをかけた。
20人くらいで写したツーリング写真を添付して、「寂しくないですよ」とアピールしてみせた。
数日後だっただろうか。
「おばあちゃんに無理することはない。そんな写真を送ってきても分かりますよ。ひとり暮らしは寂しいものです。おばあちゃんはとてもとても寂しいです。誰もしゃべり相手はいません」
そう返信があった。
すっかり見透かされていた。ツーリング写真の小細工なんて、祖母には通用しないのだ。
だが私は引かなかった。寂しいと認めたら、ひとり暮らしをする権利をはく奪されるみたいに思っていたのだろうか。とにかく意固地に、寂しくなんかないよ、友だちもたくさんいるしと言い続けた。
でもやはり祖母は
「寂しいはずだ、ばあばには正直になってほしい。ばあばとあなたとの仲じゃないか」
そのような内容の返信を送ってきた。
隠していた小さくていびつな箱を力づくで開けられたような気がした。
逃げた。
文通は途絶えた。
それから数年が経ち、祖母は亡くなった。
悪夢を見るようになった。決まって祖母は怒っていた。布団をはがし、真っ暗な目をこちらに向け恐ろしい顔でにらんできた。何度も何度も繰り返し、真っ黒な空洞の瞳でにらんできた。もしかしたら笑っていたのかもしれない。泣いていたのかもしれない。でも空洞だから、どんな表情かはうかがいしれない。ただただ恐怖で、起きたら泣いていた。それは決まってお盆時だった。
今日、久しぶりにお墓参りにいく。
だから祖母に、伝えよう。
手紙の返事、書けなくてごめんなさい。
私もおばあちゃんと同じように、ひとり暮らしがさみしくて、誰かとはなしたくて仕方がなかった。でもそれを口にしたら、本当に「寂しく」なってしまう気がして言えなかった。いや、ひとり暮らしが終わってしまう気がして、ひとり暮らしをしてはいけない人に認定されてしまいそうで。返事を書くことができなかった。
そんなことを伝えてみようと思う。
それともシンプルに「ありがとう」がいいのだろうか。
あ、あと。
おばあちゃんの寂しさに気づいていながら、寄り添えなくて、頼りない孫でごめんなさい。
これが本当はいいたかった。
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