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蝉の幼虫

この季節、夜、犬を散歩させていると、よく蝉の幼虫に会う。
まだ茶色い固そうな殻をまとい、よっこらと土の上、アスファルトの上を歩いている。
交通量の多いところで歩いていることもあり、踏み潰されないか心配になる。
そういう時、私は、そっと木の葉を差し出して彼を乗っけてやり、木のそばに移す。すると彼は木の方に歩いて行く。そのまま木を登り始め、10分か20分ほどで3メートルくらい登り、見えにくくなってしまう。
あるいは羽化が見れるかも…という私の期待は裏切られてしまう。もっともっと登り、夜明け近くまで待って羽化するのだろうか?
別のセミの幼虫は、力が残ってないのか、いくら木のそばにおろしてやっても仰向けに転がってしまう。こちらも根負けして、幸運を祈ってその場を立ち去ってしまう。
朝がた、アスファルトの上で力尽きているセミの幼虫もいる。
それでも、彼らの、木を登り羽化するという本能は強烈だ。
人間の悩み多き生き方など目もくれない。
激しい蝉しぐれを浴びながら、私はしばし頭を空っぽにしてみる。

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