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#失恋文庫『失恋文庫 書き下ろし失恋小説アンソロジー』涼暮皐 他6人 ビッグ・ラグーン

コミックマーケット96で頒布されたサークル「ビッグ・ラグーン」様の『失恋文庫 書き下ろし失恋小説アンソロジー』の感想です。ネタバレを多分に含むため未読の方はご注意ください。また失恋界隈からは離れた位置にいる一読者の感想なので失恋の作法など不勉強な点もございますがご容赦頂ければ幸いです。

「灰色青春は傷つかない」雨宮和希

バスケサークルとは名ばかりの飲みサーに所属する高橋蒼。彼は飲み会で由美乃先輩に誘われたことで恋人同士となる。しかし彼は時代にマネージャーだった京華のことを…

失恋文庫のトップバッターを務める作品。まさに失恋文庫に相応しい失恋のお話といえるでしょう。灰色の青春を埋めるたの由美乃先輩。何回もセックスしても呼べない先輩の名前。蒼の過去を捉えて離さない京華という特別な幼馴染で、後輩で、バスケ部のマネージャーという関係だった少女のこと。でも全部遅くて、やりなおせなくて、結局…という素晴らしい青春ものでした。これが失恋ですか…

「ずっと一緒な君と僕」北山結莉

家が隣同士な幼馴染の良太と理香。二人は中学三年生の時に告白して恋人同士になる。幸せな日々が続くかと思っていた。しかし大学生になり理香の様子に変化が…

死んだ。死んだよ。死にました。僕は北山結莉さんの『精霊幻想記』の大ファンなんですけど、これはダメージが酷いです…心が死にました。こんなのってないよ…ってくらいのダメージ。凄まじいダメージ。本当に最後が読みたくないってくらいのダメージでした…ちょっと感情が整理できないです…いやだって、あまりにも救いがなさすぎませんか…リオや太陽という北山結莉さんが描く男の子の優しさを知っているだけに…こんなのってないですよ…


「乗り換えは君のいた大宮で」ゆうびなぎ

埼玉に住む女子高生の松川りんはバスケの先輩・東雲朝斗と付き合っていた。そのことは周囲に隠していたるりん。そんな彼女は友人と出かけていた休日に同級生の館西くんと出会ったことで心境に変化が生じ…

女性主人公の振る側のお話。付き合っている朝斗に惚れていたはずなのに、受験生になり遠くを意識し始めた彼を見て少し冷めてしまっている自分に気づいてしまいます。そんな折に、館西くんという同級生に偶然に出会ったことで…高校生らしい感情が心に響きましたね。失恋の聖地大宮を舞台にした青春失恋もの短編でした。あと『→ぱすてるぴんく。』のれもんちゃん久しぶりです。

「独り占め」しめさば

幼馴染のアキとユキ。二人は高校生になっても仲良く遊んでいた。ユキはアキのことが好きだったが、アキはユキの姉のナツのことが好きだった。三人は休日に一緒にゲームをしていたが…

失恋文庫の中ではこの作品が一番好きでした!幼馴染の二人とユキの姉によるいびつな三角関係!気持ちを知っていて、それでも手に入れようとして目の前で敗れる/手に入れる。こういう失恋めっちゃ好きです!短編で三つの視点を描くのはかなり挑戦的だと思いましたが違和感なく失恋を楽しめましたね!最後のナツ視点は本当に最高でした!面白かったです!

「シラノが想いを告げる時」子子子子子子子

幸塚白乃は親友の六草纏奈に友達以上の気持ちを抱いていたが、思いを告げられずにいた。そんなある日、来栖聖人が纏奈と付き合いたいから協力してほしいと白乃に頼む。白乃は自分の気持ちを隠して来栖を手伝うが…

エドモン・ロスタンの『シラノ・ド・ベルジェラック』を下敷きにした青春もの。初手雨暮先生の新刊で草でした。ありがとうございます。とにかく人間関係の描き方が印象に残りました。微細な感情の揺れ動きもしっかり表現されていて、失恋の中でも優しい失恋だと思いました。優しい失恋ってなんなんですかね?文庫の終盤で一息つける淡さを持った失恋ものでした。

「ホンメイ*ログアウト」ゆうびなぎ

商居明治は予備校に通う高校二年生。真央という可愛い彼女がいて、高校生活を謳歌していたがどこか達観していた。そんな彼に青山未卯は浮気を持ちかけるが…

ゆうびなぎさんの2作目。こちらはクリスマスに男側が彼女を振るというになっています。スマホに縛られて、充実に拘束されて、なにもかもいやになって未卯を待つシーンがすごく印象的でしたね。”こういうこと”の持つ意味の大きさと、静かな決意を描くラストがとてもよかったです。

「昔の私へ」屋久ユウキ

書簡形式の掌編。掌編なのであまり詳しくは書けないのですが、椎名林檎っぽさと病んだアンジェラ・アキみたいなお話でした。個人的には「独り占め」の次に好きでした。

「虚無・A」涼暮皐

鹿倉さんに告白するも見事に玉砕した新井翔。しかし彼は一日一通だけメールをしてもいいという権利を手に入れる。毎日メールをしながらチャンスを待つ新井だが…

元祖失恋総本舗。明治元年創業百五十年記念作品。そんな言葉が読んだ瞬間脳内を駆け巡った涼暮皐さんの作品。もう序盤から「あぁ…失恋構文の方だ…」という感慨深ささえ覚えましたね。こういう文章めちゃくちゃ好きです。お話自体は予定通りの失恋だったのに、最後でこういう希望を入れてくるのが非常にずるいと思いました。やっぱり涼暮さんの作品好きだな、と思える作品でした。

雑感

北山結莉さんの作品にはやられました…これは辛い…辛すぎます…個人的に一番面白かったのはしめさばさんの「独り占め」続いて屋久ユウキさんの「昔の私へ」が個人的にハマりました。失恋という新たなジャンルの可能性を感じるアンソロジーでした。面白かったです!

手に入れるには?

告知がありましたが、電子化と重版が決定しています。羽海野さんのTwitter(@WataruUmino )で随時発表されるはずなので、まだ手に入れていない方はぜひ!メロンブックスさんで委託もあります(現在は在庫なしですが、重版後復活すると思います)
失恋文庫 書き下ろし失恋小説アンソロジー

それでは。
BGM:「あの娘シークレット」Eve

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