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もちもちぷるん、ラフティー定食

威勢良く大胆な筆文字で「奄美料理」、中央にどーんと豚丼の写真。泡盛のラベルが周囲を飾る。
黒豚。反射で喉が鳴った。

ビルの中ほどの店だった。引き戸を引けば狭い入口は両壁一面にお酒のラベル。泡盛だけかと思いきや黒糖焼酎、いくつかは芋や麦。カウンターキッチンの脇を抜け、案内されたのは窓際の二人掛け。ビアカクテルのメニューが並び、いかにも居酒屋のランチ営業という様相。
しかしランチメニューです、と広げられたパウチは意外に種類がそろっていた。トップはやっぱり黒豚丼。焦げ目も香ばしい炭火焼の華やかなビジュアルといい間違いなく看板メニュー。日替わり、西京焼き、奄美鶏飯、薬膳料理。うーん、惹かれるのは豚丼かなぁ、と決めかけたとき。
おやっ、ラフティー定食?しかもこの見本写真、もしかしてもしかしたら、このラフティーは皮付きタイプ?
まじまじ目を凝らしてよく見れば、白と茶色のきれいな断層、一番上側が一際色濃い。炭火焼きも気になるけれど、皮付きとなれば断然ラフティーに軍配が上がる。
ご飯を玄米と白米で選べます、と聞いてくれたけれど白米一択。甘辛く煮付けた肉には白米でしょう。

肉でも魚でも、皮と肉の間が一番美味しいところ。豚バラ肉は皮付きに限る、と以前雑誌で読んで以来、ぜひとも賞味したいと機をうかがってきた。中華飯店、九州料理、トンポーローも角煮も皮付きタイプはいなかった。まさかここで出会うとは!

すぐに運ばれて来たお盆は白米、アオサの味噌汁、切り干し大根とポテトサラダ、そして照り照り輝くメインのラフティー・・・!やったっ、一目見て小躍りしそうだった。皮付き、皮付き!これはアタリの予感がする。いただきます、箸を割るなり一目散にラフティーへ。
ぐ、ぐぐっ、・・・ぷるんっ。一切れを半分に割ると、ゼラチン質を彷彿とさせる白身の弾力、箸で切れる赤身のホロホロ加減。わくわくしながら一口、ぱくり。
もちもちっ。この一噛みで大アタリだと確信した。皮と肉の間の白身がもちもち甘い。舌の熱さでとろぉんと溶けて、ぎゅっと煮汁の染みた赤身に絡みつく。むぎゅむぎゅっ、ホロホロの赤身は繊維一本一本味わい深い。

ごくんっ、飲み込むやいなや白米で追いかける。つやつやの白米の甘さ、ラフティーのコクうまな余韻を引き立てる。照り照りっといかにも脂っこそうな、重たそうな見た目に反し、よく煮込まれたのかいっそサッパリした後味には恐れ入る。
ちょんちょん、今度は黄色いからしをつけ、煮汁も浸しなおして。かすかにぴりっとアクセント、ぷるぷるの白身が実に美味しい。皮自体がそのまんまコラーゲン質になっているんだろうか?白身のジューシーさが閉じ込められているのだろうか?

夢中で一切れ平らげて、落ち着け落ち着けと小鉢もつまむ。じゃきじゃき切り干し大根、むにっとポテトサラダもちゃんと美味しい。
お盆の中身を半分減らし、さて胃の落ち着いた後半戦。

みちっと割った半切れに添えられていたゴーヤスライスを載せてみる。ゴーヤは薄切りでぱりっと歯ごたえ良く、苦みはさほど感じなかった。ラフティーのうまみが圧倒したのかもしれない。むぎゅ、ぎゅ、この上ない食べ応え、なのにすいすいっと箸が進む。

きっと必ずまた来よう。夜に飲みに来てもいいかもしれない。泡盛の辛さにラフティーの甘さはよく寄り添うだろう。海ブドウ、もずく酢、次こそ黒豚の炭火焼きもおいしそう。
最後の半切れをじっくりじっくり味わって箸を置く。
はぁ。ごちそうさまでした。