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目に見える秋 シャインと巨峰

濃い紫の巨峰、淡い翡翠色のシャインマスカット。

「目にはさやかに見えねども・・・」と風の冷たさから感じる秋だけど、青果売り場にはもう先駆けが並んでいた。
淡い翡翠色を輝かせ、房を大粒で実らせて、岡山で育ったシャインマスカット。
種なし、皮ごと食べられて、上品な甘さと香りで人気者。お値段も相応に張るものだから少し迷ったけれど、風邪の快気祝いと思い切った。どうせなら豪勢に、ということで山梨県産巨峰も一つ。秋の恵みの味比べ。

冷蔵庫でキンと冷やし、夕食後のデザートに。
デザート、というよりむしろこちらがメインの風格、白と黒とでいいコンビ。半分ずつ食べるつもりで鋏を入れて、ざっと流水で汚れを洗う。優しく丁寧にしているつもりでも、熟したせいか何粒かぽろぽろ軸から外れて転げてしまう。手のひらにはざらりとブルームの感触。よしよし。新鮮さの証。

ぶどうの選び方のコツとして、ピオーネなどの黒系は色が濃いものが良いそうだ。
シャインマスカットなど緑色系のものは、むしろちょっと黄色がかってるほうがいい。
贈答品なら追熟ありきで青いものを見繕うのも手。あんまり機会はないけれど。

まずは、シャイン。
ぽんとそのまま口に放り込むと、ぷちん、薄皮が小気味よく歯に弾け、ぷりんっと溢れ出す果肉と果汁。爽やか、という褒め言葉がぴったりの味わい。ちょっと背伸びの、よそゆきのぶどう。白ブドウになじみがないからなのかな。

次は、巨峰。
こちらは大粒のお尻をもって、ぺりぺちとコシのある皮をめくる。軸にくっついていた部分はモリっと果肉ごと剥けてしまい、あぁっと貧乏性が顔を出す。慎重に、慎重に。モヤモヤと白いブルームの浮いた、深い黒色の表皮の下は、鮮やかな紫黒の薄皮が覗いている。その薄皮ごと丁寧に向いていくと、透き通ったきれいなエメラルドグリーン。じわ、とあふれた果汁が手の甲を伝い、ぷんと甘い香りがにおい立つ。

だめだ。完全に剥いてからにしようと思ったのに。
バナナのように剥きかけの皮を残し、がぶっと果肉にかじりつく。ぷるんっ、肉厚で、濃厚で、食べなれた「ぶどう」の味。じーんと甘みと香りが満たし、最後はきゅうっと皮の渋みが喉に残る。缶詰でもゼリーでもない生の歯ざわり、生の鮮やかさ。
そして、均一化されていない甘さとコクと、えぐみと渋み。
加工されると平均値がぐんと上がる、それはそれで結構だけど、生の不均一もまた味のうち。

じゅるじゅる、ぷる、はぐ。巨峰の濃厚な甘さに舌が痺れると、ぷちん、とシャインマスカットの風が吹く。

気づくとしょぼけた皮の山、どす黒く染まった爪の隙間。アクなのかなんなのか、これ、なかなか落ちないんだよなぁ。
手も口回りもぶどうに染まり、食い意地優先な食べ方に少しばかりの罪悪感、でも舌なめずりの口には後悔はなし。

あぁ、美味しかった。時季のうちにリピートしよう。