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カマンベールチーズオムレツ

しとしと降りしきる梅雨の時期、頭を悩ませるのは洗濯物だけじゃない。
気温が上がり湿度が上がり、気を抜くとカビの魔の手が忍び寄る。
作り置き総菜に、おとといのおかずの残り、遅かった・・・!と悔やんでも時間は戻らない。

そう。だからこれは救済措置。深夜のチーズオムレツも致し方無い。

うどんなんかを茹でるのはちょっとには大げさ、クッキーで済ませるのは物足りない小腹の空き具合。微妙でわがままな腹の虫、なにかないか、と開けた冷蔵庫にちょこんと一切れ、ちょっといいカマンベールチーズが残っていた。確か、赤ワインのおつまみの残り。ほうほう。カマンベールチーズの夜食とくればアレでしょう。

しゅぽぽっとコンロに火がともる。じわぁと温まるフライパンを気にしながら、電気ケトルで少量お湯を沸かす。大きい平皿、フォークをシンクの中に並べて置いておく。
チーズを角切りにしたミニボウルに、こんこん、冷蔵庫から出したばかりの卵を三つ。夜食にそんなに、と一瞬カロリーのことが頭をよぎり、でもこのフライパンは卵三つがベストサイズだから、と食欲が理性を言い負かす。
ちゃかちゃかと白身を切るように軽く混ぜ、ひらりと手をかざして予熱具合を確かめる。おっと、そろそろ空焚きになってしまう。
コンロを弱火に下げてから、ケトルのお湯をざあっとシンクに空けて、湯気の立つ平皿とフォークを鍋つかみで水切り籠へ。やけど注意のひと手間だけど、卵料理は温度が大事。

さて。ここからはスピード勝負。
強火に戻したフライパンにひとかけバターを投じ、じゅわあっ・・・!と溶けていく様子を注視する。手には卵のボウルと菜箸を構え、じゅわわ・・・じゅわ・・・わゎ・・・・・・。バターの塊が消えるか否かのタイミング、やや高い位置から中心に向かって一気に卵を流しいれる。じゅっ、わぁ、あああ!賑やかに卵が踊り、ふつふつと泡立つようなら大成功。さっと固まったところを箸でかき混ぜ、ぐるんとフライパンもひと回し。さらさらとした卵が鍋肌を撫でたところで一拍おいて、また固まったところに箸を入れる。
大体3、4回も繰り返せば火が通る。トロトロと流れる程度で火を止めて、スススと手前に転がし形作る。ざっと乾いた水切り籠の平皿に、ぽん。あっという間にチーズオムレツの出来上がり。
出来上がりからまたスピード勝負。フライパンの片づけなんかは後回し。パスタと同じく一秒で一年、瞬く間に歳を取る。急いでテーブルへ運び手を合わせていただきます、歪な円錐形の端にフォークを入れて、ぱくっ。出来立て熱々のオムレツはとろとろ卵の優しいうまみ。塩を入れていないからバターの塩気が唯一の味付け、それでも十二分においしい。パンかなにか付け合わせが欲しくなるけれど、二口めにチーズに行き当たると途端に欲しくなるのはアルコール。ふわっ、鼻に抜ける濃厚な香り。もったりしたチーズのコク。とろけて姿を隠しても堂々と主役であると主張する。塩気もちょうどいい感じ、ここでさらにゴリゴリッとコショウを挽いて・・・とろ、ピリッ。好みにストライク。
ぷるぷると白身が残るところ。たらたらと卵液が垂れるところ。チーズがごろっと固まるところ。均一ではない、そこさえ面白いのがお手製のいいところ。
やっぱり、パンも焼けばよかったなぁ、ともったいなくなるような上出来の一皿、丁寧に最後の一口まで堪能しました。
あぁ美味しかった。ごちそうさまでした。

・・・しまった。また歯磨きしなくては。