見出し画像

豚バラとクレソンのサラダ

クレソン、オランダからし。豚肉の脂とよく合うと個人的に思っている。

山梨県道志村が名産地のクレソンは、旬の時期はだいたい3月から6月まで、それ以降は花が咲いてしまい葉や茎が固くなるらしい。今年はもう食べられないかと諦めていたところに運よく入手でき、もうこのレシピしか浮かばなかった。

ざっと洗って水気を切ったクレソンに、ざくざくと大胆に包丁を入れる。鮮度の良いクレソンはセロリのようにザクンッと手応えがある。あまり固くなっているようなら茎部分は除くのだが、このサラダにおいてはむしろシャクシャクした茎こそ主役である。そうだ、アスパラベーコンのように、葉をむしった茎に豚肉を巻き付けても食べやすくていいかもしれない。その場合はロースなど脂の少ない部位のほうがバランスが良さそうだ。

クレソンの分量は、たっぷり。とにかくたっぷり。豚バラ1に対して3でも5でも構わない。ボウルにあふれんばかりに盛り付けたら下準備は万全である。あぁ、付け合わせにバゲットも。

フライパンを十分温めて、肉を広げて焼いていく。部位は豚バラ、厚みは1ミリから3ミリくらいがいい。油は引かない。じわりと染み出してきた脂がじくじく音を立てるからだ。焼けていく甘い匂いがたまらなく食欲をそそる。肉が艶やかなピンク色から白っぽく火が通るまでしっかり焼いて、ひっくり返した片面はさっと。よく焼いた面がキツネ色にこんがり揚げ焼きされているくらいが食感が楽しい。

さて、カリッカリに焼いた豚バラ肉を恭しく、しかし手早くクレソンの上に載せていく。味付けは少しの塩とたっぷりのコショウだけ。
じゅくじゅく焼けた泡が落ち着いてしまわないうちに食べるのが肝だ。
クレソンを豚バラ肉で巻くようにして、がぶっ。

コショウの香りが鼻をくすぐって、次いでしたたる脂のうまみ。カリッと焦げ目の香ばしさ。そしてしゃく!と小気味良いクレソンの歯ごたえ。しゃく!しゃき!ピリッと刺激的な芳香が脂のしつこさを緩和させ、ほろ苦い味が肉の甘さに寄り添っていく。しゃくしゃく!しゃくしゃく!!最初に巻いた分量ではとても足りず、もぐもぐ咀嚼しながらどんどんクレソンを口に運ぶ。
ツン!かりっしゃくしゃく!!ご、くん。飲み込んだ後のなんとも言えない爽やかな余韻。バゲットで口直しをしながらボウルを見れば、豚肉の熱と脂でクレソンがややしんなり馴染んでいる。豚の脂がドレッシングになり、さらに調和がとれていく。

しかしこのサラダ、豚の脂が冷えてしまっては台無しなのだ。温かいうちに、スピード勝負。次の一口、じゅわっしゃくっ!半熟にした目玉焼きをトッピングすればさらに贅沢だろう。そうしたらもう、黄身と豚の脂で完全にプロのソースになる。そうそう、このサラダにはご飯よりバゲットが合うけれど、パスタを茹でておいてこのサラダを盛り付けても美味しい。
ただ、できればクレソンは生に限る。おひたしやスープなど調理法は様々あるけれど、香りを最大限生かすならば加熱しないほうがいい。

てろりと底に溜まった透明な脂をクレソンでふき取って、ぱくり。
わしゃわしゃ、ぴりっ。爽やかに辛く味が濃く、しゃくしゃくした春の野菜をじっくり味わって飲み込んだ。

あぁ、美味しかった。ご馳走様でした。