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読書記録#2 「人事評価はもういらない」を読んでパフォーマンスマネジメントについて考える

ここ数年、年次人事評価の廃止が話題だ。GE、マイクロソフト、アドビシステムズなど名だたる企業が年次人事評価を辞めている。これをノーレイティングと呼ぶことも多く、人事領域にいる人であれば間違いなく聞いたことがあるワードに違いない。
このノーレイティングについて、適切に理解したいと思い、(出来ればそこまで難しくない本でという条件付きで)手に取ったのがこの「人事評価はもういらない」だ。結論としては、ノーレイティングを理解し、これからのパフォーマンスマネジメントを考えるきっかけとしてはとても良い本であった。そして、この本の主眼は実はピープルマネジメントで、後段はそれについての言及が続く。結局は、パフォーマンスマネジメント(=業績の向上)のためには、年次人事評価ではなく(=ノーレイティング)、ピープルマネジメント(=個別の動機付けや対話)だということで話は終わる。今回は本の内容について軽くまとめつつ、気になるノーレイティングの際の報酬反映の方法と、ノーレイティングの適した業界や企業についても考えてみたい。


本のポイント

・パフォーマンスマネジメント変革の全体像は、社員のランク付けと年次サイクルのプロセスを止め(=ノーレイティング)、リアルタイムかつ多頻度の目標設定とフィ ードバックを繰り返すというのがおまかな内容。
・アメリカ企業がパフォ ーマンスマネジメント変革を実施している理由は、従来のパフォ ーマンスマネジメントが個人や組織のパフォ ーマンス向上につながっていないと見なされはじめたからである。
・従来のパフォーマンスマネジメントが役に立っていない理由は、仕事のアジャイル化(ビジネススピードの変化、仕事の進め方の変化)、コラボレーションの必要性(メンバーの相互貢献、心理的安全性の確保)に適応できていないことだ。
・また、人材も多様化しており、画一的な基準で評価することはますます難しくなっている。また、ミレニアル世代が人員の一定を占めるようになり、働き方の柔軟性や迅速なフィードバックを求める人材が増えた。人材の多様性と人材の価値観の変化がより一層新しいパフォーマンスマネジメントを求める声を大きくしている。
・これからのパフォーマンスマネジメントは、リアルタイム/未来志向/個人起点/強み重視/コラボレーション促進が基本原則となる。
・新たなパフォーマンスマネジメントではマネージャーの対話力が決め手。
・日本におけるパフォーマンスマネジメントの現状において、問題を抱えていない企業は皆無と言っていい。評価制度が形骸化し、業績偏重になり、複雑化しすぎて機能しきれていない。
・根源的な問題としてはプロセス管理への弊害がある。自分のチ ームに与えられた目標を達成するためのタスクをメンバ ーに割り当てる、進捗状況を測るための指標を管理する、メンバ ーにタスクを遂行するスキルが不足していれば学習させるような管理をしてきたが、メンバーの自立性や主体性が削がれ意欲も十分に高まらない。
・集権的なコントロ ールの手綱を緩め、現場の自由度を認める必要がある。多くの人が何となく気付いているように、全社の業績目標を個人目標にまで連動させれば全体の業績が達成されるという考え方は、今日では現実的ではない幻想のようなものだ。
・マネジメントスタイルの変革は、上から順番に実施される必要がある。まず 、経営者がパフォ ーマンスマネジメント変革の必要性に気付くことがスタ ートとなるのだ。

時代の変化とともにヒト中心経営へシフトしている

多くの企業で導入されている目標管理制度(MBO)は、これまで名だたる企業の業績向上に寄与してきた。会社の目標を部門ごとの目標にカスケードし、それを個人の目標に落とし込む。人材管理の定石と言われていたものも、事業の変化、スピードの変化、人材の価値観の変化によってそのままでは通用しなくなったということだ。本書でこの従来の業績管理を「幻想のようなもの」と言い切ってしまうのはなかなかドキッとした。

今までのパフォーマンスマネジメントは、経営管理に重きが置かれていた。言ってしまえば個人の目標設定は育成のためと表面上は言うことはあっても、結局は会社の業績達成のための一部分という色が強かった。そしてその貢献度に応じて評価をして処遇に反映する。それが、今ではその目標を割り振ることが形骸化しており、評価をしても納得感が薄く、もはや仕組みが破綻しているのである。そこで出てきたのが、人材の成長やエンゲージメントに主眼を置くことで業績向上を図ろうという考え方だ。大きなルールで統治しようとしていた経営スタイルから個人に寄り添ったヒト中心経営へのシフトである。

何を当たり前のことを、という感じだが、今までのパフォーマンスマネジメントは、先ほど言及したように個人の成長のために目標設定しそれに報酬で報いると言いながら、実は会社都合のほうが大きいという矛盾があった。目標も会社目標からカスケードされるのを待たなければならないし、最後に評価をされても人件費コントロールの名目のもと、分布に当てはめられて相対比較のもと報酬が決定される。そう言った過去のやり方を反省して、名実ともに個人の成長とチームのコラボレーションにフォーカスすることで業績向上を目指そうというのがノーレイティングの骨子だと理解した。

ノーレイティングにおける給与の決め方

レーティングをせずにどうやって給与を決めるの?と人事担当者は思うはずだ。人事考課を中心とした評価をもとに一定のルールで給与を導き出す複雑な計算式を運用してきたのが常だろうからその疑問はもっともだ。私はノーレイティングを成り立たせるためには以下の要素が備わっている必要があると考えている。
・マネージャーに給与原資の配分権限を持たせる
・リアルタイムフィードバックを記録する仕組みがある
・MBOでもOKRでもよいが目標を定め可視化した制度がきちんと運用されている

日本企業だと正直1つ目が難しいだろう。ここまでやるとしたら、現時点でそのようなスキルを持ったマネージャーは少ないため、マネージャーの教育を何よりも優先しなければならず、会社としてもかなりの覚悟が必要だ。そのためか、ノーレーティングを実施した上で、マネージャーに原資配分を任せるのではなく等級に応じて一律に給与を決めるという企業もある。小さな昇給額の差ではモチベートされないとの割り切りが背景にはある。これもひとつの考え方だとは思う。けれどもそれでマネージャーへの教育を緩めることにはならない。給与額までは決めないとしても、メンバーを動機付け、対話をする力をつけることは必要だ。

ノーレイティングに向いている企業

まずひとつは事業環境の変化が著しい企業は向いているだろう。また、変革期に直面している企業も向いていると思う。仕掛ける側の人事としては、ノーレイティングにしてリアルタイムフィードバックが必要ですというのを武器に、変革期における意識改革をマネージャー通じて全社員に実行することができるというメリットもある。また、オペレーション業務が中心で個別の差がつきにくい職務の多い企業も向いているかもしれない。そんなに差がつかないなら評価に差もつけないと最初から割り切ってしまうのだ。

上述したように、ノーレイティングはマネージャーの負荷が増大する。そのため、その育成に注力できるかも向いている企業の条件になる。また、マネージャーが企業のエンジンとして一定の裁量を持ちながら役割を果たすことになるため、マネージャーに適切に権限移譲ができるか、経営側のマインドも重要だ。

個が活かされる組織が好業績企業となる時代へ

総じてメンバーひとりひとりに向き合う時間が増え、従前よりも全社的に負荷は高まると思う。でも、今まで目標設定が部門や個人にまで下りてくるのを待っていた時間や、細かい最終評価の調整の時間などがなくなると思えば、ひとりひとりに向き合う時間も捻出できるのではないか。個人側も、組織のせいにすることなく、自分自身の目標とキャリアに自立性を持つ必要がある。

自身としては、個が埋没した組織よりも個が活かされる組織が増えるというこのトレンドには希望に感じるものだ。従来より個人あっての組織だと思ってきたし、多様な価値観を受け入れ活かす、そんな集団こそが好業績企業であってほしいという願いがあったからだ。自身もそう言った企業を増やせるよう力になっていきたい。

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