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作品紹介『祖への回顧』

ノーチのしっぽ研究所としての最初の作品です。

作品の背景にある物語と一緒に紹介します。


『祖への回顧』


──とある海の、とある島に流れ着いた船の一室にて。


私の仕事は、もうすぐ終わる。


人は私を海賊と呼び蔑んだが、私は私の仕事に誇りを持っていた。

これまで私は、数々の島の地形や地質、そこに棲む生物などを調査してきた。

それは船員の安全な上陸と円滑な資源調達を保証するためだったが、いつしか私の知的好奇心を満たすためのものになり、私は冒険を楽しんでいた。


酷い嵐に見舞われたあの夜、突如私たちの船が向かう先に、いくつかの影が現れた。

見ると、地図には存在しない火山島群のようだった。

翌朝、怪我を負っていた私を一人残し、仲間たちはその島のひとつへ物資調達に向かった。


それからひと月たち、ふた月たち、季節が幾度移り変わっても、仲間は誰ひとり戻ってこなかった。

船には私ひとりがしばらく生き延びられる程度の蓄えはあったものの、それも底を尽きつつあった。

いよいよ死を覚悟したころ、大地が鳴り、海が騒ぎ、山が火を噴いた。船室の床がめりめりと音を立てながら傾き始め、裂けた天井から、怒り狂ったように暴れ回る波がなだれ込んできた。


砂の感触を頬に感じ、目を開くと、私は仲間たちが消えたあの島にいた。船は海岸に乗り上げ、胴体部分で真っ二つに折れている。

その光景は、もう二度と故郷に帰れないことを意味していたが、その悲観はすぐに好奇心によって打ち消されることとなった。


この島は、小さな地球だった。


熱帯のジャングルで見た色鮮やかな鳥から、南半球で見た袋を持つ動物まで、ここには地球上のあらゆる地域に生息する生物が一堂に会し、誰にも見つかることなく、ひっそりと暮らしていたのだ。


私は私の仕事に誇りを持っていた。それは仲間を失った今も変わらない。


私は島を探索し、地形や地質、そこに棲む生物などを調査することにした。



──とある冒険家の書斎にて。


カエルは机の脚を登っていた。


この部屋の主は、日が登ったらどこかへ出かけ、日が沈んだら帰り、いつもこの机に向かう。

そして蒐集品を眺めながら冒険の記録を日記にしたため、決まってそれをカエルに読み聞かせるのだ。

カエルはそれが好きだった。

カエルは物心がついた時からこの部屋に住んでいるが、この部屋から出たことは無かった。

主が読み聞かせる話こそが、カエルにとっての世界の全てだった。

カエルは想像の中なら何処へでも行くことが出来た。
しかし、主が最後にこの部屋から出かけていくのを見送ってから、もう3日になる。

いや、4日だったか?いずれにせよ、ずいぶん長い時間が経ったような気がする。


そんなことを考えていると、カエルは机の上に到着した。

机の上には、いつも通りの筆記具と日記、帽子、そのほかに、いつもとは違うものが置かれていた。

あれは……主がいつもカバンに大事そうにしまっている本か?

カエルは本の表紙に書かれている表題を読んでみた。

毎日日記を読み聞かされていたため、文字を読むことが出来た。


……しゅ、の、きげん?


しゅ、というのはよくわからないが、我々はもともとなんなのかということだろう。


「自分は何者で、何処から来たんだろう?」


今日もカエルは思索の航海へと旅立つ。

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今回のお話は以上になります。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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