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(24)画力とデザインスキルは似て非なるが、やっぱり似ている

絵が描いていると、「絵上手だね!今度のイベントでポスター作るからデザインしてよ!」と言われる。
デザインをしていると、「へぇ、絵が描けるっていいね」と言われる。

絵やデザインを少しでも齧ったことがある人はだれでも、こういった「絵とデザインのスキルの違い」まわりのモヤモヤに覚えがあるだろう。
プロでさえ、画家やイラストレーターが全員グラフィックデザインに長けているわけではないし、デザイナーが全員絵が描けるわけではない。それはアマチュアでも同じ。
だから上記のような事を言われる度に、いやちょっと違くて…と言う羽目になる。
なんなら、「何だよポスター作ってくれると思ったのに冷たいなぁ」「非協力的な奴だ」とマイナス評価を下されることさえある。勝手に期待しておいて迷惑な話だが、世間では画力=デザインスキルという共通認識があるため、結構な確率でこういう事が起こる。

いや、絵とデザインはちょっと違くて…
僕も何度か言ったセリフだが、実際何が違うのか、創作と縁のない人にうまく伝えるのは難しい。
というより、自分でもよくわかってないな…

僕は絵を描いていたらデザインにも興味が出てきて、今ではどちらも仕事にしている。
仕事にしているのに人にうまく説明できないのはかなりまずい。改めて考えておきたい。

(アート、イラスト、絵の3用語はここでは厳密に使い分けないが、ニュアンスでなんかこう…)

辞書的な意味

画力とデザイン力を比べる前に、よく比較されるアートとデザインの違いを考える。
辞書的な意味では、アート=自己表現、デザイン=問題解決とされる。

たしかに、何か表現したいものがあって(求められずとも)作り続ける人はアーティスト、クライアントの要望を汲み取って(求められて)設計する人はデザイナーと呼ばれることが多く、これは一般的なイメージにも近い。

でも、人のためか自分のためかという尺度だけではっきり分類できるものでもない。
機能美を楽しむ芸術もあるし、人に売るために描く絵もある。
ピカソは営業上手で画商やクライアントが好みのアート作品を描いたらしい。

辞書的な定義は非常に広義なので、例外も共通点も挙げたらキリがないだろう。それに、この違いは感覚的に、冒頭の「画力とデザインはちょっと違くて…」の「ちょっと違う」とは、ちょっと違う気がする。
でも考えるヒントにはなりそう。

絵とデザインのスキルを分解してみる

自己表現か問題解決かという尺度で見たら、アートとデザインは違う。でもベン図は重なるし例外もある。
では、冒頭の問いに戻って、画力とデザイン力の違いを考える。

絵を描く能力があるロボットと、デザインができるロボット(ポスター等のグラフィックデザインの場合)を作るとする。
導入すべきプログラムはどうなるか考えてみる。
今回は関係ないので運動制御的な観点は除外。

絵を描くロボット

  1. 現状分析
    「何描こう?鑑賞者をどんな気持ちにしたい?」

  2. テーマを決定
    「ドレスを着た猫を肖像画風に描こう」

  3. 観察・理解
    「ドレスのフリルどうなってたっけ」

  4. 記号化・要素の抽出・整理
    「こう描けばフリルに見えるな」

  5. レイアウト
    「主役の猫は中央に置いて装飾と照明で視線誘導するか」

  6. 手を動かして出力
    「絵の具のタッチで味を出そう」

グラフィックデザイン(ぺらもの)するロボット

  1. 現状分析
    「クライアントの潜在的な要望は?」

  2. テーマを決定
    「見た人がイベントに参加したくなるように、テーマはパレードにしようかな〜」

  3. 観察・理解
    「似たようなデザインはどう作られている?」

  4. 記号化・要素の抽出・整理
    「楽しい感じを伝える要素を入れよう」「情報の優先順位は?」

  5. レイアウト
    「日付が目立つように周りに余白をとろう」

  6. 手を動かして出力
    「イラレで作ってみよう」

細かく分けると、それぞれの工程は絵もデザインもよく似ている。というより、ほとんど同じな気がしてきた。

違うのは比重くらい?

  1. 現状分析

  2. テーマ設定

  3. 観察・理解

  4. 記号化・情報整理

  5. レイアウト

  6. 出力作業

グラフィックデザインでは情報を伝えるという機能がはっきりしているため、1.2.のコンセプト設定や4.5.の情報整理が重要だ。

一方、絵の場合は、どちらかといえば3.のモチーフ観察や6.の出力過程が作品の出来栄えに影響しやすいが、作品ジャンルによっても比重は大きく変わる。
イラストレーション(図解)やデザインのために描き下ろすイラストは1.2.4.5.が大事になってくるし、抽象画では5.レイアウトが最重要だ。

物作りの過程で使うのは、手より頭だ。
1-5は全て考える行程で、5まで考えて始めて本番作業に入れる。

個人的な実感としては、絵の中にデザインもあるし、デザインの中に絵もあるという感じ。

絵の中で、伝えたい情報を目立たせるために、色や光、モチーフの位置関係などをこねくり回しているときは、「デザインしているな」と思う。
デザインの中で、図形の形を微調整して美しいシルエットを探している時、「絵を描いているな」と思う。
つまり、絵とデザインの定義(僕調べ)は、以下のようになる。

デザインはパズル。合理化・効率化。組み合わせる。仕組みを作ること。
絵は粘土細工。練って盛って削って整える。美しくすること。

デザインが得意か絵が得意かも、どちらの思考回路が強いかだと思う。
これこそがデザイン力と画力の違いなのかも。
デザインも絵もきちんと学校で学んだことはないので自信はないが、本質的には当たらずとも遠からずじゃないかな…

なんともどっちつかずな結論になってしまったが、そういうもんな気はしていた。
ぼんやりした概念の集合を「デザイン力」「画力」と呼んで認識しているだけで、もともとハッキリ二分できるもんでもない。

考えるのが面白かったからヨシ!
おわり。

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