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作品紹介『トレジャーハンターの部屋』

トロポコのコレクションルームで起こった事件を描いた作品です。


『トレジャーハンターの部屋』


ノーチラス海岸にて。——スロリ先生


「あはははは!わーい!いっぱい拾うぞ!」

「ちょっと君たち、そんなに走ったら怪我するぞ」


潮風が波音とともに、若者たちの笑い声を運んでくる。

空も海も、絵の具を溶かしたかのような美しい青だ。

今日は絶好のビーチコーミング日和だ。

久しぶりに研究所のメンバー4人揃って出かけるので、トロポコ君とウォンバ君は大はしゃぎだ。

まだ玄関を出たばかりなのに、両手を広げて砂浜を駆け回っている。


「だいじょぶだいじょぶ!今日はトロポコ、貝殻を踏んでも痛くないもん!」

いつも靴下のまま出かけてしまうので靴を作ってやったのだが、今日はそれを履いてきたようだ。

「まってぇ、おいてかないでよぉ。」

ウォンバくんが負けじと、のそのそ追いかける。

「ウォンバくんこっちこっち!なんか面白いものが落ちてるよ!」

「ぼくも見たい!…あ!」

どさっという音とともに、ウォンバ君の顔が砂に埋まる。

砂に足を取られてバランスを崩したらしい。


「ほら、言わんこっちゃない。」

私の隣で、ナヤメリ君が肩をすくめた。

「やれやれ。あのふたり、あんなにはしゃいじゃって。少しは落ち着きというものを知らないのかい」

「しかし、とても楽しそうで良かったではないか。ナヤメリ君もあのふたりに混ざってきたらどうかね?」

「…なっ!ぼ、僕は別にいいよ!」

「そうかね。羨ましそうに見ていたから、一緒に遊びたいのかと思ったのだが。」

「もうスロリ先生!からかわないでよ!」

言いながら、ナヤメリ君はすっかり赤くなった顔を両手で隠している。

彼は少々素直になれないところがあるようだが、そこがまた、皆に愛されている所以でもある。


「いたた…」

「ウォンバくん大丈夫?」

トロポコ君もUターンして、砂まみれのウォンバ君に駆け寄った。

「帽子が落ちちゃったよ。かぶせてあげる」

「ありがと」

砂が入ったベレー帽を頭にのせられ、ウォンバ君は再び砂まみれになったが、当の本人たちは特に気にしていないようだ。

「おーい君たち、大丈夫かね?」

「まったく、君たちは子供だなあ」

私達もようやく追いついた。

「そういえばトロポコ、さっき何かを見つけたって言っていなかった?」

「あ、そうそう。向こうに青くてぶよぶよしたものが落ちてるのが見えたんだ」

トロポコ君に連れられて、私達は例のものの在り処を訪ねた。

たしかに、青い物体が打ち上げられている。

「これはカツオノエボシだな」

「カツオノエボシ?」

「そうだ。猛毒があって危険な生物だから、直接触ってはいけないぞ」

羽根の先で突っつこうとしていたトロポコ君は、慌てて翼を引っ込めた。

「カツオノエボシは、クラゲのように見えるが、ミズクラゲなどの一般に言うクラゲとは異なる、クダクラゲという生き物の仲間だ(※)。ヒドロ虫と呼ばれる小さな生き物がたくさん集まってクラゲのような形になり、役割分担しながら生活しているのだ。」

(※)あくまで一説。カツオノエボシが何の仲間なのかという議論は続いており、図鑑でもそれぞれ解釈が分かれています。

「真っ青で、とってもキレイだね。先生、この子、持って帰って標本にしてもいい?」

「そうだな。カツオノエボシの標本は作るのが難しいし、何より危険だからな。私と一緒に作ろうか」

「やったぁ!」


トロポコ研究員のコレクションルームにて。——トロポコ


スロリ先生のおかげで、きれいな標本ができたぞ。

ここは、トロポコのコレクションルーム。

島中で拾い集めたお宝がたくさん並んだ、研究所で一番ステキな部屋。

それも、全部トロポコが見つけたお宝だ!

どれも最高にキレイなお宝だけど、さっき拾ったカツオノエボシは、中でも特にキレイだ!

真っ青な風船みたいなのがプカプカ浮かんでで、そこからこれまた真っ青なひらひらがたくさん伸びてて、よく見ると、黄色い点々やピンクのところもある。

ずっと見ていても飽きないほどキレイで、面白い形だ。

コレクションルームの一番よく見えるところに置いておこう。

空いている棚はあの高いところだな。

モードクがあって危険だってスロリ先生が言っていたから、飛んで運ぶのはやめよっと。

そのへんにあった木箱を積み上げて登っている時、急に思い出したことがあった。

「ところで、モードクってどういう意味なんだろ…あ!」

考えながら登っていたら、足を踏み外した。

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今回のお話はこれで終わりです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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