見出し画像

有事における海上貿易交通に関する一考察                 ー用船契約と海上保険の観点からー

日本海洋政策学会『日本海洋政策学会誌 8号』pp.82-93 2018年11月

要旨

 平和安全法制で武力攻撃事態と定義される安全保障上の直接的な有事において、日本の国民生活の生命線を担う海上貿易交通は、海戦法規、船員雇用、又は運航関連の契約その他の面で平時とは異なる制限を受ける。国際海運はあらゆる点において国際化を深めており、日本商船隊も例外ではない。本稿では運航関連の基幹的な契約である用船契約と海上保険の観点から、そのような有事での海上貿易交通に対して想定される制限を検討する。制限の根拠として、用船契約では戦争条項を始めとする幾つかの規定が、海上保険では再保険システムに起因する解除規定と自動終了規定とが指摘される。これらは、商船の運航に関わるプレーヤーの多国籍化と経済性の追求を推進してきた現代の国際海運の構造的な問題であって、一国で抜本的な解決ができる訳ではない。しかし、海上貿易交通の制限や中断のリスクを低下させるために、日本政府は、そのような有事でも効力を発揮する用船契約の検討や国営再保険制度の準備を平時からしておくことが望ましい。現時点では、そのような有事において、日本商船隊が日本国民の生命線を維持するための運航を継続できる保証はない。

実務海技士が海を取り巻く社会科学分野の研究を行う先駆けとなれるよう励みます。