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坂出市与島沖の海上タクシー海難

 小学生52名を含む全員が無事で何よりです。乗組員や引率の先生方、生徒さんたちの冷静な対応、そして周囲の船舶の救助義務履行とシーマンシップに敬意を表します。負傷された方々には心からお見舞いを申し上げます。また、生徒さんたちの心のケアを十分にお願いしたいと思います。

 海上タクシーは19トンとのことですから、小型船舶と考えられます。海技士ではなく、航海と機関両方を修めた小型船舶操縦士でなければ船長はできません。いずれにせよ船艇と人命・財産を預かる責任は同じです。海難を起こさないために全力を尽くすのは当然ですが、同時に、海難に際しても全力を尽くすのが当然です。今回は場所や水温、気象海象、時間帯など、恵まれていた面は多いですが、冷静に最後まで生存と救助に尽くした点は称賛に価すると思います。

 一方で海難原因の調査と再発防止策の確立は必要です。報道にある通り、漂流物との衝突なのか否か。10分程度で沈没していることから、瞬時にかなり大きなダメージを受けた可能性があります。それに適合する漂流物とは何なのかイメージがわきません。大型海洋生物との衝突海難は時々ありますので、その可能性も検討されるでしょう。衝突ではなく、座礁の可能性も排除できません。正確な海難座標がわかれば座礁の可能性を切り分けることができますし、物証である本船を引揚げ調査すればわかることです。ごく稀に、未知の岩礁や浅瀬が原因だったとわかることがあります。今回その可能性は低いと思いますが。
 海難原因の調査と再発防止の面では、運輸事故調査委員会の調査は入るでしょう。船員懲戒の面では、海難審判所理事官が判断することですが、海難審判が申し立てられる可能性もあります。刑事事件としては海上保安庁が捜査して送検を判断する流れになります。もし送検されれば刑事司法の流れに乗っていきます。民事としては被害者側次第です。海上保険は海損とP&Iの両方が関わることになろうかと思います。
 なお、自動車運転などでもお分かりの通り、夕暮れは操船者の視覚情報精度が大きく低下します。その影響も排除できません。ちなみに大型船の航海当直で日出没にかかる朝4時から8時と夕方16時から20時(いわゆるヨンパー直)をベテランである一等航海士が担当する理由の一つは視覚情報精度が低下する時間帯だからです。

 今回は幸いにして全員無事という結果になりましたが、海難撲滅に向けての努力が継続される必要性は変わりません。

実務海技士が海を取り巻く社会科学分野の研究を行う先駆けとなれるよう励みます。