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いなづま海難

 新年早々の1月10日正午過ぎに、海上自衛隊の汎用護衛艦いなづま(DD105 むらさめ型5番艦、2000年就役、三菱重工長崎造船所建造)が周防大島沖のセンガイ瀬に座礁しました。
 JMU因島造船所での定期修繕の最終段階である海上試運転をしている最中であり、主機試験をしていたようで、全速力とされる30ノット(32ノット出ていたとの情報もあります)でセンガイ瀬にほぼ真正面から突っ込んだようです。
 報道されている範囲では、艦首底部にあるソナードーム外板に亀裂、艦底に凹損と亀裂(場所不詳)、右舷プロペラ変形・損傷・脱落(まるごとか一部の翼のみか不詳)、左舷プロペラ翼変形・損傷、両舷プロペラ軸変形(曲損と思われます)、右舷舵柱損傷(舵板と操舵機にも損傷があると思われます)、艦尾から油流出(主として、船尾管シール油と可変ピッチプロペラの作動油と思われます)といった損害が発生しています。
 ネット上でも広く出回っていますが、AISデータによる航跡から、この座礁は他船を緊急的に避航したり、艦の推進機関や航海機器に不具合が生じた結果として不可避的に生じた可能性は極めて低そうに感じます。一直線に迷いない航跡です。さんざん報道されていますので、書く必要もないのですが、「プロの船乗りとして考えられない」の一言です。
 ドックマスターが同乗していた可能性ですが、今回は発表されていませんので私見ですが、自衛艦の海上試運転には同乗しないのが一般的であると聞きます。理由は、試運転の内容が一般商船とはまるで異なること(戦術的な航法や武器・電装品といった兵器システムとが組み合わされる試運転なので、ドックマスターは門外漢であること、試運転期間が一般商船の数時間とは異なって相当に長く、ドックマスターの業務に支障が出ること等)のようです。ドックマスターが乗っていても船長(今回は艦長)責任は何ら軽減されませんので、大して意味のある議論ではないですが。座礁航路の確信的な航跡を見ると、ドックマスターは乗っていなかった(もし乗っていた場合は、JMU因島の離着岸操艦以外は全く無関与)と考えるのが自然です。
 もちろん、主機・電装品・武器といった重要機器のメーカーサービスエンジニアや造船所の各分野(船体・機械・電気・武器)の責任者・技師・作業員・営業担当者達は必要に応じて同乗しますので、今回も乗っておられました。しかし彼らは航路選定等には関与しません。
 海難原因は、海上自衛隊事故調査委員会(組織自身)、海上保安庁(刑事司法)、国交省運輸事故調査委員会(海難事故の原因究明と再発防止策提言)、海難審判所(自衛艦は船舶職員法対象外ですから受審人がいないので、どうでしょうか、、、)等の調査結果がいずれ公表されますので、控えます(KAZU I 海難2で書いたとおりです)が、人災でしょう。
 まさかとは思いますが、あってはならないことですが、少し心配になった憂いを2つほど。タイトル上の見出し画像にしました海図を見てください。

 ・センガイ瀬は孤立障害標識(灯柱)位置のみで、*マークは暗岩だと思わなかった(なんか別のもんだと思った)

 ・小文字の6が少し下がって記載されているセンガイ瀬の水深表記「16」を見て、「1.6m」(1m60㎝)と思わずに「16m」と思った

 まさかとは思いますが、、、どちらが可能性高いかと考えれば、後者のほうがあり得る気がします。なぜなら、すぐそばに34m表記があり、さらに流速表記は小数点を付して「1.8kn」「1.5kn」と表記されているからです。航海士官や艦長としては致命的な誤解あるいはミスではありますが、もし、陸上勤務等で航海科業務から長く離れていて、、、の可能性はあり得るかもしれません。それでも、艦橋航海当直に入直する士官下士官の誰かが上申すべきでしょうが、そのあたりも気になります。この憂い2つは絶対に外れていることを祈ります。そこまで基本海技能力が侵食されているとは思いたくないのです。
 先程、いなづまは深田サルベージさんに曳かれてJMU因島に到着しました。これから長い入院生活の延長です。修繕するとすれば、です。修繕するのか廃艦除籍にするのか、それはこれから防衛省が決めることです。防衛の専門家集団として。

実務海技士が海を取り巻く社会科学分野の研究を行う先駆けとなれるよう励みます。