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オンデマンドバス『のるーと』がルート検索結果に出る意味とは? ~開発の舞台裏~

こんにちは、ぬまお(MaaS事業部マネジャー)・co-yarn(経路探索エンジンの研究開発)・とっきー(バスデータの作成・運用)です。

今回、ナビタイムジャパンの『NAVITIME API』にて、新たにオンデマンドモビリティの運行時間帯を考慮したルート検索が可能になったことで、トヨタファイナンシャルサービス株式会社が提供するマルチモーダルモビリティサービス『my route』にてAI活用型オンデマンドバス『のるーと』に対応したルートの提供が可能になりました。(※ 対応エリアは、福岡県東区のアイランドシティエリアです。)
本記事はその機能をAPI提供するに至るまでの開発の裏側の一部をお届けします。

なんと! ゲストに『のるーと』を担当している西日本鉄道の「西さん」にお越しいただき、当社エンジニアとの対談も実現できましたので、その様子も合わせてお話しします。

はじめに

本題のまえに「オンデマンドバス」とは?

知らない方もまだまだ多いかと思いますので、オンデマンドバスについて簡単にご紹介いたします。

オンデマンドバスとは通常の路線バスとは異なり、予約があるとき・乗客がいるときにだけ走るバスです。誰も乗っていないのにバスが時刻表通り走ることがないため効率の良い運行が可能です。
オンデマンドバスにはいくつか種類があります。

オンデマンドバスの種類
「地域公共交通と連携した包括的な生活保障のしくみづくりに関する研究」(https://www.iatss.or.jp/common/pdf/research/h2298.pdf)をもとに作成

アイランドシティエリアの『のるーと』はダイナミック型にあたります。
利用者のメリットとしては、路線バスでは近くにバス停がなく、行きづらかった場所や、乗換が必要だった場所に直接行けるようになるといったことが挙げられます。

教えて、西さん!! 

ぬまお: なぜ、『のるーと』はオンデマンドバスなんでしょうか?

西さん: バス事業は大きな課題として「乗務員不足」と「赤字路線」があります。一方で、免許返納の流れなど、地域の移動手段となる公共交通への期待は高まっています。その中で、いかにして、バス事業だけでなく公共交通体系を維持していくかを考えていました。
バスの運転には大型二種免許が必要ですが、その人材が不足してきています。『のるーと』で採用している車両は普通二種免許で運転が可能なので、運転手が確保しやすいという利点があり、バス事業の課題解決につながるのではと考えオンデマンドバスに取り組んでいます。

ぬまお: 普通二種免許で運転できるとのことですが、運転している方はどのような方ですか?

西さん: 始めた当初は西鉄タクシー、繁忙期等の兼ね合いからグループ会社の観光バスの運転手からも来てもらっています。最近は『のるーと』を運転したいという方も来ています!

co-yarn&とっきー:  そういう方も出てきてるのは凄いですね!

ぬまお: 『のるーと』が会社としても新たな選択肢になっているんですね。

西さん: おっしゃるとおりで、長年勤務され高齢になって、都心部でのバスの運転に不安がある方でも運転が可能なので、そういう方にとっても受け皿になると良いなと思います。

ご参考

参考までに西日本鉄道のサイトに記載されている内容も抜粋します。

AI活用型オンデマンドバス『のるーと』は、予約制の乗り合いバス。利用者はスマホアプリからいつでも予約できます。

現在の福岡県内の運行エリアは以下の4カ所。

  • 福岡市東区・アイランドシティ(※今回『my route』で対応したエリア)

  • 福岡市西区・壱岐南

  • 宗像市・日の里

  • 古賀市・日吉・花鶴・美明

『のるーと』について、もっと知りたい方は西日本鉄道のサイトをクリック!

ルート検索結果に表示されることの大切さ


ぬまお: 今回なぜ、ルート検索結果に出そうと思ったんですか?

西さん: ルート検索の結果に出てくることはとても大事なことだと捉えています。まず知ってもらう必要がある。知ってもらうことで使ってもらえる。
知ってもらわないと移動の選択肢に入らないと考えています。

西さん: PR活動も行っているので、住んでいる方に『のるーと』があることは徐々に認知されてくる。しかし、バスや鉄道を組み合わせた移動を考えたとき、全体の計画を立てることが難しい。
住んでいない方は知る由がない。検索アプリで行き方を調べるので、候補に上がることで知ってもらうきっかけになることが重要であると考え、ご相談いたしました。

ぬまお: 責任重大ですね。経路探索事業者として身が引き締まる思いです。

co-yarn: 知ってもらうことに加えて、使ってもらう体験も重要だと思いました。使うことで初めて便利さに気づきます。

西さん: そうですよね。はじめの頃は新しい乗り物なので使ってくれるだろうと思っていましたが、なかなか想像通りにはいきませんでした笑 なので、使ってもらうために説明会なども行っています。

ルートが表示されることの大切さを再確認できたところで、このアツい思いをどのように実現していったのか、開発の裏側をお話できればと思います!

西さん:(ドキドキ)

開発の裏側

要件を一緒に整理してみたはなし

ぬまお: 『のるーと』の対応についてご相談を受けた際にルート検索結果画面のUIについては説明いただいたのですが、開発に向けてルート検索後のことだけでなく、ルート検索するまでのユーザーストーリーも考えて整理したほうがよさそうだなと思い、一緒にアプリの開発内容も含め要件を整理したんですよね。

西さん: 改めてどういった機能が必要なのか振り返る良い機会になったかと思います。利用される方々がどういった動きをするのかは普段大切にしていて、よくペルソナと言っています笑

ぬまお: カスタマージャーニーを考えていただきました。『のるーと』を利用するユーザーがどのような行動をするのかを踏まえ、どのような機能が必要になるかを整理していきましたね。

西さんとの検討イメージ

ぬまお: 実際に必要な要件としてルート検索だけではなかったので、一緒に整理することでどのような開発アイテムがあるのかを把握でき、西さんとだけでなく、当社エンジニアとも内容のすり合わせがスムーズにできたと思います。皆が参加した打ち合わせの前に、実は一緒に整理していたんですよ。

co-yarn&とっきー: 知らなかったです笑

西さん: 住んでいる方がどこかへ移動するとき、帰ってくるときの行動を想像してどんな機能が欲しいかを整理しました。

西さんと一緒に整理した要件をもとに、どのように検討・開発が行われたのかを当社エンジニアに聞きたいと思います。

『のるーと』のデータを作成したはなし

ぬまお: 今回、データ作成で大変だったこととかあります?

とっきー: 実は、『のるーと』以前にもオンデマンドバスのデータを作成したことがあり、ある程度の技術的な下地はありました。ただ、『のるーと』の導入にあたって新たな試みが3つありました。

西さん: 思ったより多いですね!

ぬまお: わたしもそう思いました笑

とっきー: 1つ目は運賃です。これまで作成したデータでは、無料か均一運賃でした。区間ごとに運賃が変わるものは初めてだったため、考慮が必要でした。

とっきー: 2つ目は乗降制限です。 

西さん: 確かに珍しいかもしれません。

とっきー: すべてのミーティングポイント(※『のるーと』の乗車・降車ができる場所。路線バスのバス停に相当)を総当りで結んでデータを作成しています。そのままだと乗車できないところから乗ってしまうルートがでてしまうため、考慮が必要でした。今回のアイランドシティエリアでいうと、御幸町⇔千早駅間では乗り降りできないなど、いくつか制約があります。

西さん: オンデマンドバスの業界でもあまり聞かないかもしれないですね。

とっきー: 3つ目は運行時間帯の制御です。これまで作成していたデータでは24時間365日オンデマンドバスが走っている状態でした。今まではフロントエンド層で制御していましたが、今回はAPIとして提供するため、バックエンドで制御をする改善を検討しました。最終的にはco-yarnの協力を得て、制御ができるようになりました。

西さん: ありがとうございます!ミーティングポイントが多かったと思いますが、分量的にはいかがでしたか?

とっきー: 余裕でした笑 過去には10倍くらい多かった案件もありました。

西さん: その分量はかなり多いですね!

『のるーと』の運行時間を考慮したはなし

とっきー: 運行時間帯の考慮については、経路探索エンジン(※最適な経路を検索するためのプログラム)の方で制御した部分も多いですが、大変だったところとかありましたか?

co-yarn: そうですね、まずそもそもなんですが、経路探索エンジンの中で「時刻表がある列車・バス」と「時刻表がない列車・バス」を混ぜて検索すること自体が難しいんです。

ぬまお: あるものとないものを混ぜて検索するというのは、言葉で聞いてもすごいことですよね。

西さん:
想像できないくらい凄そうです笑

co-yarn: 混ぜて検索することに関してはすでに仕組みはあるんですが、時刻表がないものに使える時間を制限することが初めての試みでした。そのため、経路探索エンジンで経路を出すために細かい箇所の仕様を決めていく必要がありました。

ぬまお: 例えば、「18:00まで運行」といったとき、18:00ちょうどだと乗れるのか、乗れないのかといったことがありますね。

仕様検討時に書き出した図(一部)

co-yarn: ですね。また、今回の『のるーと』のケースであれば、出発側の運行時間だけを考慮すればよかったのですが、今後、着側で運行時間を決めたい場合がでてくるかもしれませんでした。そういった変更にも対応できるように、とっきーと何度も議論をして検討を進めていました。

西さん: オンデマンドバスにも到着時間指定の運行をしているものあるので、不確実性がでてくると様々考慮しないといけないんですね。

co-yarn: もちろんすべてのパターンを洗い出すことは難しいので、実際に試作して経路結果を見ることでも検討していました。始発より早い時間に駅に到着しても仕方がないので、オンデマンドバスに乗る時間も遅らせたほうがいいかどうかかが話にでてきました。

西さん: 確かに、乗継先で待たされるなら今出発しなくてもいいよ、など様々なケースがありますね。

ぬまお: リリースされた後、もっとこうしたほうがいいというパターンが出てくるかもしれないので、改善は繰り返していくつもりです。

西さん: チェックしましたが、結構いい感じに経路がでていました!

co-yarn: それを聞けて安心しました笑

実際の対談では、もっと多くのことを話していますが、それはまたの機会に!交通事業者がどういう思いでサービスを作っているかを直接伺え、大変良い機会になりました。

まとめ

今回は依頼主の西日本鉄道の西さんをゲストに、依頼背景からAPI提供に至るまでの開発の裏側を対談も交えお届けいたしました。

決まった時刻がなく、停まるミーティングポイントは無数にあり、運賃も区間によって異なる「オンデマンドバス」。今までも対応したことはありましたが、新規で対応することも多くあり、経路探索エンジンにとっても良い経験になり、成長につながったと思います。

とりあえず「オンデマンドモビリティをルート検索の結果に出す」だけであれば実現は簡単かもしれません。

しかし実際には「経路を出す」には細かな条件があったり、モビリティの特徴やシステム的な制約もあります。そのため、ただ言葉どおりのことをそのまま実現するのではなく、要望の内容を確認しつつモビリティの運行形態やシステムの実装状況等、様々なことを考慮しながら、お客様が実現したいことを正確に捉えることが大切だと思っています。
当たり前のことかもしれませんが、とても大切なことだと思い、書かせていただきました。

ちなみに、ルート検索結果には下の画像のようにでます!
(博多駅から千早まで移動し、そこから『のるーと』を利用して目的地に移動するルートがでています。)

『my route』アプリでルート検索すると出てきますので、一度お試しいただけると幸いです。その際には、是非『のるーと』も予約して乗ってみてください!

博多駅から福岡市総合体育館へのルート検索結果

※ 『my route』アプリについてはこちらをご覧ください。

最後に

西さんとお話することで、ルートに出すことの重要性や私たちの仕事が移動手段の認知に関わっていることを改めて確認することができました。
記事作成にご協力いただきました西日本鉄道様に大感謝です!

これからもナビタイムジャパンでは、様々な運行形態や移動手段に対応できるよう技術開発を進めてまいります。

最後までお読みいただきありがとうございました!!