三鷹の森アニメフェスタ2019 〜アニメーション古今東西その16〜

2019年3月2日に三鷹の森アニメフェスタ2019 〜アニメーション古今東西その16〜という短編アニメーションの上映会に行ってきました。実は過去にも度々申し込んだことはあるものの、なんらかの事情でキャンセルし続けてきた上映会です。ようやっと行けたのですが、内容が素晴らしかったので、記録に残しておこうと思います。

上映作品(上映順)
①『One Small Step』
アンドリュー・チェスワース ボビー・ポンティラス/2018年/アメリカ

②『トプティーシカ』
ヒョードル・ヒートルーク/1964年/9分/ソ連

③『This Way Up』
アラン・スミス アダム・フォークス/2008年/9分/イギリス

④『The Basket』
スレッシュ・エリヤット/2017年/15分/インド

⑤『水の精ーマーメイドー』
アレクサンドル・ペトロフ/1996年/10分/ロシア

⑥『おにしめおたべ』
今林由佳/2011年/4分/日本

⑦『ひな鳥の冒険』
アラン・バリラーロ/2016年/6分/アメリカ

⑧『サムライエッグ』
百瀬義行/2018年/16分/日本

全体への感想
各作品の感想前に全体の運営について。一言で言えば素晴らしかったです。8作品のうち4作品が終わったところで休憩を挟んでくれたので、会場にたくさんいたこどもたちも疲れることなく最後まで見れたと思います。
また何がいいって、各作品の前にジブリの方(お名前忘れてしまったけどメディアでお顔を見たことあるような…)が、少し作品の紹介をしてくださるのですが、その内容が絶妙なのです。
作品によっては、え?そんなに話しちゃていいの?と思うものがあったりしたのですが、いざ見始めてみると、あの解説があったらかこの作品についてはロシア語がわからなくても絵のままに理解していけばいいんだな、とか、ちょっと怖い表現があるけどこれはブラックユーモアとして捉えておけばいいんだな、などとてもいい導きとなっていました。
また作品のラインナップですが、アートに寄りすぎず、エンターテインメントに偏りすぎず、まさに私が一番好きな、人を椅子に縛り付けてまで見てもらうアニメーションとしてのおもてなし精神が宿った、それでいてありふれていないものが多かったです。

では、次からは各作品への感想へ。

①『One Small Step』
アンドリュー・チェスワース ボビー・ポンティラス/2018年/アメリカ

宇宙飛行士を目指す女の子と靴職人のお父さんの父子家庭を描いた3DCG作品です。ピクサーから独立した人たちが、ピクサーではできないことをしたい!ということで作った作品だそうです。

が、正直まさにピクサーな内容の作品でした。動きはさすがとしか言いようがない感情の表現力なのですが、物語の展開などは簡単に読めてしまいます。THE王道の短編アニメでして、擦れてしまった大人の私には少し物足りなかったのが正直なところです。でもこのあと紹介する『ひな鳥の冒険』と比較するのにとてもいい材料となりました。

②『トプティーシカ』
ヒョードル・ヒートルーク/1964年/9分/ソ連

かの有名なユーリー・ノルシュテインのお師匠に当たるヒョードル・ヒートルークの作品です。ロシア語のナレーションがついていましたが、わからなくても全然問題ありません。
かの有名なノルシュテインの『霧の中のハリネズミ』と同様の切り絵作品です。本当はこっちが元祖ですね。

ストーリーは、冬眠中のクマの親子、先に目が覚めてしまった息子は外に遊びに行ったところでうさぎのこどもと友達になります。二人は仲良くそりすべりなどして遊びます。が、ある日うさぎの親子は雪解けの川に流され、それを見つけたクマのこどもは追いかけようとしますが、川におぼれかけ…最終的にはうさぎとクマの親子は仲良くお隣同士として暮らします。めでたしめでたし。

と全部ストーリーを書いてしまいましたが、大丈夫です。この作品のすばらしさはそんなところじゃないので。もうとにかくひとつひとつの造形が愛おしいほどに暖かい手の温もりを放っています。お母さんクマの掛け布団はそのまま布きれを使っていて、素材感がたまりません。また動きもフィルム時代の切り絵ならではの緩急つけた独特のリズム感で、次の瞬間どんなふうに動き出すのか、常に楽しみが待ち受けています。さらには造形がいいです。クマのお母さんが全然優しそうじゃないんです。むしろ怖い。まだ寝てろとこどもに乱暴に毛布をかけなおすあたり、現在2歳児の母親として、かなり共感できるものがありました。でもいざこどもが川で流されそうになってる時の半狂乱ぶりときたら、もうこんなにも母親の心境を再現できるのか、という動きをしています。まさに魂を吹き込むアニメーション作品です。
対してうさぎのこどものつぶらな瞳といったら!これまたうさぎちゃ〜ん!と叫びたくなるような、うさぎという生き物の可愛さを内面から表尽くしているようなお顔をしています。
とにかくすべての要素が古き良きソ連時代のアニメーションの風合いを伴っていて、とても惹きつけられる作品でした。

ユーリー・ノルシュテインさんが日本では有名ですが、ヒョードル・ヒートルークの名前、しかと心に刻んでおこうと思います。

③『This Way Up』
アラン・スミス アダム・フォークス/2008年/9分/イギリス

こちらは3DCGのブラックユーモアの作品です。葬儀屋の息子(成人済み)と父親(結構な年配)の二人が幾多の困難を超えておばあさんの入った棺桶を運ぶというストーリーを、ブラックユーモアをふんだんに盛り込んだ内容となっています。

それまでの2作品が可愛らしい造形だったのに、なんだか人物の造形が気持ち悪くて、最初はあまり凝視したくないなぁと思ったのですが、ストーリーが進むに連れてこのキャラ造形ではなくてはいけなかったことがわかってきます。何かと起きるトラブルが全てブラックな方向なのです。おばあさんが途中で棺桶から飛び出しちゃったりするわけです。これ、かわいい造形だったらおもしろみが変わってしまうよなぁと思いました。ちょっと気持ち悪いくらいだからかえっておもしろく見えるってことがあるんですね。

さらにポイントとしてはイギリスで作られているということです。アメリカでは生まれないな、この皮肉は、と思いました。昨年末から我が家も世間と同じくボヘミアン・ラプソディの影響でクイーンを聴きまくっているのですが、クイーンとかビートルズとか、イギリスっていうのはアメリカとは違う独特の皮肉っぽさとインテリジェンス感がありますよね。

この作品、ラスト近くでパレードっぽくなるところ以外はとても静かでわずかな効果音のみで「間」を楽しむ構造になっています。個人的な好みですが、パレードのところもその雰囲気のままでつっきってほしかったな〜というのが唯一の難点です。もっとあの空気にどっぷり浸からせたままで最後までもっていってほしかった、と思います。

④『The Basket』
スレッシュ・エリヤット/2017年/15分/インド

人形コマ撮りアニメ作品です。制作年数なんと8年!私はコマ撮りもかじっているので、見た直後からこいつは大変だ〜と思いました。でも一緒に見ていたちびっこたちにはそれは伝わらないかな?

車の往来がとても多い通りの一角に住む、貧乏ながらも幸せそうな3人家族の中で起きたふとしたハプニングを描いた作品です。この車の往来というのがすごいんですよ、インド行ったことないですが、あ、たぶんこんな感じなんだろうなという交通量の多さをコマ撮りで再現しているわけです。それはもうたくさんのいろんな種類の車が行き来しています。

さらに家の中の小物もものすごく細かく丁寧に作れらてます。コマ撮りって一定のクオリティ以上になるとかえってその苦労が伝わらない、CGでいうところの不気味の谷みたいなものがあるんですが、見事にその苦労の谷を越えちゃってるんですよね。

そんな技術的な素晴らしさもさることながら、物語の展開や間合い、音楽、SEも素晴らしい作品でした。特に、ラストの希望が一瞬見えてくるところがインドらしくてよかったです。あまり書くとネタバレになっちゃうので避けますが、ハッピーエンドを願ったたの時間、この作品に自分は飲まれていたんだろうなぁと思います。

⑤『水の精ーマーメイドー』
アレクサンドル・ペトロフ/1996年/10分/ロシア

ロシアの巨匠、ユーリー・ノルシュテインの弟子にあたる、アレクサンドル・ペトロフさんの油絵による作品です。ちょっとした自慢ですが、私はバイト時代に行った広島でペトロフさんと夕ご飯をご一緒したことがあります。特に何も話せず、同席しただけですが。

こちらはガラス板の上に油絵の具で描いた絵を、少し消しては新たに描き足して…を繰り返す手法をとっています。ペトロフさんの作品って男性が女性に翻弄されるのが多い気がするんですが、ロシア文学っていうのがそもそもそういうのが多いんでしょうか?そういえばカラマーゾフの兄弟にもそんな女性が出てきますね。とはイワンのばかくらいしかロシア文学を読んだことがないので、わかりませんが、ひょっとしたらそうなのかな?

さてペトロフさんはご存命の方ですが、こちらの作品はとにかく古い。フィルムの風合いに油絵の具の複雑なマチエールが加わって、結構何が何だかわからない状態になっている部分もあります。が、それがかえって味わいにもなっていました。

話は逸れますが、最近webサイトにもレトロなものが生まれてきて、時代が経るってこういうことかぁなんて思ったりすることがあります。私くらいの年代だと自分でHTMLをポチポチと入力して、自分でサイト作るのがクリエイターやるならまず第一歩みたいな部分があったんですが、その後はいいソフトが出てきて、さらには今はSNSでアカウントさえ持っていればいい時代になりました。名刺交換したあとに、その人のサイトを見てHTML時代の構造になっていると、あ、この苦労を経験した人なんだななんて思ったりします。よく聞いているラジオのパーソナリティが80歳のおばあちゃんと作るには80年の歳月が必要です、と言っていますが、(本当はクラシックカーの話)それと一緒である程度の時間が経たないと生まれないものというのがあって、この1996年に作られた『水の精ーマーメイドー』にはまさにそんな時間の経過が作る何かが凝縮されているような気がしました。

⑥『おにしめおたべ』
今林由佳/2011年/4分/日本

この作品は今林さんが修了されるときに藝大の上映で一度見たきりだったのですが、そのときかわいいなーと思い、ずっと印象に残っていたものです。8年ぶりに見たわけですが、やっぱりリズミカルで可愛くて、ちょいと寄っていきたい美味しい立ち食いそばのような短編でした。

⑦『ひな鳥の冒険』
アラン・バリラーロ/2016年/6分/アメリカ

今回の上映で一番印象に残った作品です。こちらはピクサーから独立しないで、ピクサーの中で作られた作品です。あらすじは海鳥の雛が海での漁ができるようになるまでの成長を描いた作品。たったこれだけです。

でも、とにかく見ていて飽きません。これまたピクサーならではの動きの妙位によるものなのですが、それ以上に大きいのが大変リアルは描写によるものだな、と思いました。1番目に上映された『One Small Step』は、大きく人物たちがデフォルメされているのに対し、こちらの作品はとことん親鳥や海の波、風、砂などがリアルに再現されています。主人公のひな鳥だけがぎりぎり目が大きくなって少しアニメっぽい表現になっています。あとちょい役で出てくるヤドカリもちょっとだけアニメっぽい。

このリアルさが、この作品ではとてもポイントになっていました。あくまでも展開はコミカルなのですが、一瞬だけひやりとする場面があります。そのとき、誰もが「ひやり」とするのは、たぶんこの作品のリアルさのせいだと思うのです。もしこもこれがいかにもアニメの絵だったらみんな安心して見てしまうと思うのです。でもそれまでが徹底的にリアルだから、思わず「ひやり」の方向に、観客を思い切り“不安”の方向に引っ張っていくのです。そしてそこからどっと訪れる“安心感”。この2段階を経て、観客はすっかり作品の味方にさせられてしまうのです。

『One Small Step』が独立した少人数で作られているのに対し、こちらはピクサーで作ったということは、たぶんより多くのチェックの目が入っているんだと思います。普段仕事をしていて、いろんなチェックが入ることでどんどん作品がおもしろくなくなっていくなぁと思うことの方が多いのですが、多くの目が入ることで防げる暴走のようなものもあるのだと思いました。『One Small Step』はおもしろいのですが、どこか独立した勢いで突っ走った結果、よくあるものに収まってしまった感がありました。でもこちらの『ひな鳥の冒険』は多くの目が入ったからこそ、たどり着けたありきたりのことをしつつ、新しい表現に行き着いた感じがしました。

⑧『サムライエッグ』
百瀬義行/2018年/16分/日本

これまた心が擦れまくっている私にはあまり響かなかったのですが、終わった瞬間隣に座っていた8、9歳くらいの男の子が「感動したー」と言っていたので、よき作品だったのだと思います。

玉子アレルギーを扱った作品でした。うちの息子はアレルギーがないのですが、もし私もアレルギーの子をもつ母親だったら感じ方は全然違ったかもしれません。ただやっぱり声優は声優さんを使ったほうがいいなぁとは思いましたが。

おしまいに

そんなわけで、ずばばーと全体の感想を書いてきました。長かったですね。ここまで読んでくれた人が何人いるのでしょうか。今回一番の学びは絵柄とストーリーの関連性の強さを新ためて実感したことでした。
あとはピクサーという組織が組織としてあることの大切さです。短編アニメ見まくって擦れまくってる私みたいな人間にも響くもの、新しいものを出してくる組織がもつたくさんの目というのはやっぱり偉大だなぁと思いました。
私もクライアントからのリクエストに文句ばかり言っていないで、ステップアップ・ブラッシュアップのチャンスと思うようにしようっと。

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