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富永啓生とネブラスカ大

ネブラスカ大リンカーン校(University of Nebraska–Lincoln)

University of Nebraska–Lincoln
アメリカのまさに真ん中に位置する

富永くんが所属するネブラスカ大学リンカーン校はその名の通りアメリカの中西部ネブラスカ州にある州立大学である。学生数は学部生と院生を合わせて2万5千人ほど、ネブラスカ州の人口が200万人弱なので人口の1%以上を占める学生の影響は大きそうだ。
なお、アメリカは人種のるつぼと呼ばれて色々な人種が大学のキャンパスにいると思いがちであるがそれは西海岸、東海岸及び大都市での話なのだ。アメリカの中西部などはアジア人をほとんど見ない。実際にネブラスカ大学リンカーン校では学生の75%以上を白人が占めておりアジア系や留学生は1割に満たない。

コーンハスカーズ(CornHuskers)

・概要

マスコット

実はネブラスカ州には北米4大スポーツ(フットボール/バスケ/野球/ホッケー)のプロチームが所在していない。
従って必然的に州民たちは地元のスポーツチームを応援しようと思うとカレッジスポーツを応援することになる。
そういうような事情もあって、ネブラスカ大学リンカーン校のスポーツチームは愛称コーンハスカーズ(コーンを剥く人の意:略してハスカーズとも呼ぶ)と呼ばれ地元の人に親しまれている。

・本拠地

Pinnacle Bank Arena

ネブラスカ大学のバスケ本拠地はピナクルバンクアリーナと呼ばれ、バスケだけでなくバレーボールなどの他の競技でも会場として使用されている。
また、収容人数は15500人となっておりネブラスカ大関連以外にも有名歌手のコンサートなどでも使用されており、ネブラスカ民に愛されるアリーナなのだ。
ちなみにバスケットの試合ではこのアリーナが満員になることも多く、Bリーグのアルバルク東京の代々木体育館が10000人収容なのを考えるとカレッジスポーツでありながらこの集客力は驚かされる。

上のツイート:富永選手がネブラスカ大の収容人数について富樫選手/河村選手と話しているところ。富樫選手の「やばぁ..」が凄まじさを表している。

ビッグテンカンファレンス(BIG TEN)

ビッグテンカンファレンス現所属校一覧

・概要

ネブラスカ大学は2011年よりNCAAディビジョン1の主に中西部の大学で構成されているビッグテンカンファレンス(BIG TEN)に所属している。
カンファレンスとは日本で言うところのリーグ(例:東京六大学野球)のようなもので、アメリカは国土が広大で相手本拠地への移動が大変なため比較的距離の近い大学同士がカンファレンスを形成し、バスケ以外の他のスポーツも基本的に同じカンファレンスに所属し、リーグ戦を実施している。
なお、スポーツによって様々だが基本的に全米No1を決める全米大会(NCAAトーナメントなど)への出場のためカンファレンスで優勝するなど一定の成績を収める必要がある。

・ビッグテンカンファレンスのレベル

パワー5カンファレンスのマップ

BIG TENはハイメジャーと呼ばれる強豪カンファレンスの一角を占めている。そのうち以下のカンファレンスをパワー5と呼び、大学アスリートなら一度はこのカンファレンスで競技したいと思わせるカンファレンス群なのだ。

Atlantic Coast Conference (ACC)
Big Ten Conference
Big 12 Conference
Pac-12 Conference
Southeastern Conference (SEC)

https://binballtrip.com/high-major-conference/

・近年の動き

BIG TENとの呼称ではあるが、発足当初10校から増えて現在14校が所属している。さらに2024-2025年のシーズンからはUSC、UCLA、ワシントン大学及びオレゴン大学の4校が追加加盟し、大所帯18校でのカンファレンスとなる予定だそうだ。
新規参入校は全て西海岸に位置しているため地理的にかなり遠く対戦のための移動も負担となることから現在EASTとWESTに分けられているものをさらにPACFICの3つに分ける可能性が高い。
この新規参入に伴い事実上ハイメジャーのカンファレンスの中でも最もレベルの高いカンファレンスと看做されるのではないかと個人的に思っている。

TENを$1Bに

これほどまでに拡大を続ける背景には全米屈指の注目度を誇るパワーカンファレンスであること、それに伴う巨額の放映権料などの収入が影響している。NEWYORK TIMESの報道によると当カンファレンスと放送局であるFOX SPORTSとが7年$7B(約1兆円)の契約を結んだとしている。
プロスポーツでも驚くような額の放映権料がカレッジスポーツに払われているのである。如何にアメリカにおいてカレッジスポーツが人気かを知らしめるものだ。
なお、先日9/9に行われたコロラド大vsネブラスカ大のフットボールの開幕戦では全米で870万人が視聴していると言うから驚きだ。

で富永選手の何がすごいの?

実はこのBIG TENにおいてネブラスカ大バスケ部は近年弱小校として悪い意味で有名である。特にヘッドコーチのホイバーグ就任後は3シーズン続けてカンファレンス最下位に甘んじていた。2022-2023年シーズン後半そんな悪い空気を一人の男が変えたのである。

・富永選手と2021-2022年シーズン(2年生)

富永くんは2021年にRanger College(いわゆるコミカレ=短大)での活躍が評価され、2年生としてネブラスカ大に編入/チームに加入した。
日本男子のバスケ選手でパワーカンファレンスに所属するチームにフルの奨学金付きで加入するのはおそらく史上初の快挙であった。(なんでもっと話題にならなかったのか…)
ネブラスカ大学1年目である2021-2022年シーズンは活躍が期待されたものの主に控えからのスタートで出場時間(平均16分)も限られ目立った活躍ができなかった。
これにはそれぞれ富永くん手自身の問題と選手層の問題があったと考えられる。

パデュー大のザックエディーに代表されるフィジカルなカンファレンス

前者の富永自身の問題はフィジカルコンタクトが激しく、体格の大きい選手が揃ったBIG TENでの戦いに適応できず、シューターとして厳しくマークされたため、代名詞であるの3ポイントショットも成功率がシーズン通して33%に終わってしまった。
これはNJCAAであるものの全米のジュニアカレッジの強豪との対戦を通して48%の3ポイントショットを誇っていたRanger College時代と比較しても極めて低く、如何にBIG TENがレベルの高いフィジカルなカンファレンスかを物語っている。
また、ディフェンス面でもフィジカルで軽く吹っ飛ばされたり、身長差のギャップを作られ明らかにディフェンスの穴として狙われたりとかなり課題が残るデビュー年であった。

リムアタックスするBryce McGowen

後者について実は2021年はネブラスカ大に初めて全米でもトップクラス(five stars)の高卒新人と評価されたSG/SFであるブライス・マクゴーウェン(Bryce McGowens) が新入生として加入してきたのである。
BIG TEN所属であるものの弱小校でもあるネブラスカ大にトップクラスの選手であるマクゴーウェンが加入してもらうため、ヘッドコーチ(HC)のホイバーグはマクゴーウェンにスタメンと(ある程度の)自由を与えたと考えられる。
そのためポジションが被る上に、オフェンス特化型にも関わらずオフェンスでの優先度が下がるとボールを持てない時間が多くなった富永くんは必然的に出場機会が限られるシーズンとなってしまった。マクゴーウェン自身は素晴らしい身体能力と得点能力を見せAll-Big Ten thirdチームに選出されるのだが、一方でどうしても攻撃のファーストオプションとなり仕方がないこととはいえセルフィッシュなプレイが目立ち、チームを勝たせることはできず結局ネブラスカ大は2021-2022年のシーズンもカンファレンス内最下位という結果に終わってしまう。
また、当のマクゴーウェンはそのままNBAドラフト全体40位で指名されチームを1年で去ってしまっている。
後にHCホイバーグは「セルフィッシュな選手がいるとチームのバランスが悪くなる」とリクルート/チーム戦略の誤りを認めている。

・余談 HCホイバーグの事情

HCのFred Hoiberg

元NBA選手でありブルズのHCを務めていたホイバーグはブルズを解雇されると元々出身だったカレッジバスケットボールの監督業へ戻ることを決める。2019年から出身地であるネブラスカ大の指揮を執ることになったのだが、2021-2022年シーズンまで3シーズン続けてカンファレンス内最下位となっていた。
この低空飛行の成績を受けてホイバーグも給料カットを呑まざるを得ないという憂き目にもあっており、2022-2023年シーズンはHCホイバーグの進退を懸けたシーズンに突入する。

・富永選手と2022-2023年シーズン(3年生)

実はシーズン開始当初は前年と同様控えからのスタートが多かったが、昨年と違いベンチからのスタートでもその攻撃力を見せつけることができた。前半戦のハイライトとしてはカンファレンスは違うもののACCカンファレンスに所属するボストンカレッジ※戦と同カンファレンス最強のパデュー戦があげられる。
※2024年よりテーブスルカ選手が所属する予定

・ボストンカレッジ戦

ボストンカレッジ戦ではFG7-8 3PT4-5 23pts と印象的なスタッツを残している。なお、NCAA男子のルール上ショットクロックが30秒だったり、前後半各20分だったりとNBAルールに比べポイントが入りにくいルールとなっているため、個人的にはNCAAで20ptsを取るとNBAで30ptsを取るようなイメージ・感覚になる。

・パデュー戦

惜しくもOTで敗戦したものの土壇場で同点スリーを決めるなど印象的なプレーでネブラスカ大での富永人気を不動のものにしたと言っても過言ではない一戦であった。成績はFG8-16 3PT4-8 19pts

上記2戦でネブラスカでの富永の評価・序列は確実に上がっていたが、調子に波がありスターターに定着はならない状況であった。しかし、主力ガードの一人が怪我でシーズンが終わることになり、期せずして1月よりスターターに昇格するのである。

・2月のブレイクアウト(大躍進)

2/6のペンステイト戦の30点を皮切りに6戦連続20点以上を記録し一躍BIGTENのスターダムに駆け上がることになる。富永によるとスターターに昇格したのはディフェンス面が安定してきたからとHCに言われたと告白しているが、実際には富永を入れる以外のスターターの選択肢がなかったことが大きいように思う。だが、主力の相次ぐ離脱による苦肉の策と思われたこの陣容が皮肉なことにシーズン最終盤となり実を結ぶ。富永をエースとして据え置いた2月以降6勝3敗と嘘のように勝利することができるようになったのである。最終的にはネブラスカ大は16-16(9-11)の成績でシーズンを終え、フレッドホイバーグHCの元では初の負け越しを逃れるという結果になった。

・2023 Honorable-Mention All-Big Ten &2023-24 Preseason All-Big Ten Team

シーズン終了後BIG TENで活躍した選手に対しNBA同様優秀者の選出が実施される。特にALL-BIG TENファースト・セカンド・サードチームの各5人計15人に選ばれるとドラフト有力候補と看做される。実際、同カンファレンスからは同年に8人のドラフト選手を輩出していることからも分かるだろう。残念なことに富永君はファーストからサードには選ばれなかったが監督・メディアが選出する2023 Honorable-Mention All-Big Ten(いわゆる敢闘賞)を受賞することができた。また、今シーズン前に発表される2023-24 Preseason All-Big Ten Teamの10人の中の1人に選出されるなど大学バスケ界での注目度は日本人としてゴンザガ時代の八村と肩を並べるかカンファレンスを加味するとそれ以上と言える。

終わりに


上記2つの動画はそれぞれ
・NBAドラフトのプロセスから離脱しネブラスカ大学に戻ると宣言した後に出された動画
・W杯後にネブラスカ大学のあるリンカーンに戻った際に出された動画
である。
動画の力の入れようから如何に富永が期待されているのか理解できるだろう。

エースとして迎える最初で最後のシーズンであると同時にNBAドラフトへの最後のチャンスである戦いが今始まる。

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