卑怯な大人29

中岡のお通夜には無理をして

お母さんが挨拶をしていた。

しなびたきゅうりの様に

顔色が悪く風が吹いたら

そのまま倒れそうなぐらい

フラフラしていた。

麻紀が横で寄り添い赤い目をしていた。

小堀さんはショックで倒れてしまい

そこにはいなかった。

俺はお母さんに挨拶をした。

お母さんは弱々しく俺の手を握りしめ目を

真っ赤にしてわんわん泣いていた。

しわしわでガサガサの手だった。

俺はその時中岡との色々な

出来事が頭を駆け巡り、歯を食いしばって

我慢していたが、涙が止まらなくなった。


自分もいつか死ぬ。

でも人の死というものがこんなにはかなく

あっけないものだとは思ってなかった。


お通夜の夜があけ葬式の日どこから聞いたのか

喪服を着てない場違いでガラの悪そうなやつらが

やってきた。

そのなかに中岡が〇くざを辞めると言って

組の事務所に行った時、俺に絡んできた奴がいた。

元々の中岡の組の人でなく中岡の組を吸収した方の

組員だった。

そいつがお母さんと麻紀に向かって低い声で言い放った。

「すんまへん 中岡に金貸してまして、返してもらいたいんですけど。。」

言葉は丁寧だったが目つきはトカゲの様にぎょろぎょろ

して嫌な感じだった。

「はい」「うちの息子が迷惑おかけして申し訳ありません」

「それはいくらですか?」

お母さんは消え入るような声でそう言った。

「お母さん お兄ちゃんもう死んでおらんし」

「そんな意味わからんお金なんか払う必要ないやろ」

今度は麻紀が怖い顔をしてお母さんの前に立った。

「あんたら何もこんな時に取りたてすることないやん」

「そやし、そんなかっこ葬式に来るかっこちゃうやろ」

麻紀は精一杯強気でそう言った。

トカゲ目の隣の奴が怒鳴り散らした。

「なんや ねえちゃん ワレはすっこんどれ」

いくら麻紀が夜の仕事をしていると言っても

お母さんの薬代や入院費や諸々で大変と言ってたのを

聞いたことがある。

俺にはどうすることもできない

「20万やしさっさとはろたりーな」

お母さんは香典から払おうとしていた。

「すみません いま10万しかないので残りは待ってください」

「ねえちゃん なんとかしたりーな」

俺は横で見ていてついに我慢の限界が来た。

「お前ら川島さんとこの若い衆やろ」

そう言うとトカゲのような乾いた目が更に鋭く

俺を睨んできた。

(どっかで見た目やなぁ)

なんかその爬虫類のような目は事務所以外のどこかで

見た事のあるような気がしたが思い出せなかった。

「なんや がき ワレ」

「ワレ どっかで見たのう」

トカゲ目の奴がそう言った。

俺はその言葉を無視し言い返した。

「そんな金、実際借りとった証拠でもあんのか」

「なにー」「ガキの出る幕ちゃうぞ コラ」

「じゃかましい」「ドチンピラ いなんかいや」

心臓がドキドキしてきた。

(あー もうあかんわ)(やられてまうわ)(3対1やー)

何故いつも後先考えずに動いてしまうのか、でももう遅い

「中元君 やめてー」

麻紀が俺の袖を引っ張っている

「表でてみい クソガキ」

トカゲ目が俺を睨みながら言った。

そう言えば中岡と朝まで話した時に

中岡が言ってた事を思い出した。

新しい組で先輩の〇くざたちからいかさまみたいな

博打につき合わされて勝手に借金みたいに

なってると

(もしかして その金ちゃうんか。。)

心臓バクバクは最高潮に達していた。

続く。。。

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