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【良い話】殺伐とした通勤ラッシュで...

殺伐とした朝の通勤ラッシュでのちょっと良い話です。

僕は電車で座ったときスマホを股の下に置いて寝落ちしてしまうという癖があるのですが、その日もこれをやってしまいました。朝の通勤時間帯。仕事(←行きたくない)に行く前の唯一の自分の時間。運良く座ることができたのでスマホで漫画を読んだあと、股の下に置いてそのままスヤスヤと寝てしまったのです。

目が覚めると乗換駅。すでに扉が開いており、間も無く発車メロディが流れようとしているタイミングでした。会社はルーズなので別にいくらでも遅刻して良いやのスタンスなのですが一応ちゃんと行かなきゃという意思もあります。慌てて席を立って大量の乗客の合間を縫って扉にたどり着き、プラットホームに抜け出しました。

気付いた時にはもう発車メロディが鳴り終わろうとしているところでした。スマホを股下に置いていたせいで、座席にスマホを置いてきてしまったのです。なんで股下なんかに置いてしまったんだ。膝上に置いておけば気付けるのに、なぜか盗難のリスクを考えて股下にいれてしまうんですよね。激混みの車内で座りながらスマホをズボンのポケットに入れるのってちょっと面倒じゃないですか、と面倒くさがってどう考えても忘れる位置にスマホを置いた自分を憎みながら扉に向かう刹那、発車メロディが鳴り終わりました。

終わった。もう絶対に間に合いません。無防備に座席に置いてあるスマホ。次に停車する渋谷駅でスマホ盗難確定です。そんな時、扉からサラリーマンの腕がひょいっと伸びてきました。なんと、手には僕のスマホが握られているのです。僕のスマホを魔窟のような通勤電車のなかで発見し、わざわざ人をかき分けて扉まで運び、持ち主であろう僕に向かって閉まりかけの扉から腕を伸ばして、僕にスマホを届けてくれたのです。

「あ、ありが…」そう言いかけたところで扉が閉まりました。僕にスマホを届けてくれた腕はそのまま殺伐とした通勤電車の海の中に消えてしまいました。お礼を言うことも出来なかったし、恩人の顔さえ見ることができませんでした。

長々と書きましたが、実際は3秒ぐらいの出来事です。3秒の間に、奇跡的に僕のスマホは魔窟電車から救い出されて、僕の手に還ってきてくれました。殺伐とした世の中だと言われますが、僕はこの3秒間は偽りなく世の中の美徳だと思います。さながら、それはバトンのようでした。名前も顔も知らないサラリーマンと僕との間に3秒だけ絆が生じたような気がしたのです。まさに、情けは人のため為らずですね。僕はサラリーマンにお礼を言うことが出来なかった代わりに、いつか座席に置き去りにされたスマホを持ち主にダッシュで届けてバトンを繋ぐという使命を果たしたいと思っています。

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