見出し画像

#011 空気のようなサウンド実装 - 『リターナル』を遊んで

こんにちは。ノイジークロークの金井です。
最近僕は『リターナル』というゲームを遊んでいます。高難易度なローグライクTPSというようなジャンルのゲームなのですが、何度も繰り返すうちに自分の腕が上達した気になって、死ぬたびにもう一回もう一回と辞め時を失ってついつい遊んでしまっています。

そんな『リターナル』を遊んでいるなかで、なんとなく思ったことを今回記事にしようと思いました。ちゃんとしたテーマではないので、かるく読んでくれると嬉しいです。完全に準備不足でネタ不足の裏返しのような記事ですがご容赦ください。

またゲームについて話していくので楽しみで事前情報を一切入れたくないぞっという方はまたの機会に読んでくれますと。

武器が豊富な『リターナル』

『リターナル』で出てくる武器の種類は結構豊富で、基本となる武器は10種類あるそうです。そのどれもが個性豊かで、どの武器が手に入るかは完全にランダムなので、新鮮な気持ちでその武器を毎回使うことが出来ます。

今回話したいのはその武器の中の1つ、「エレクトロパイロン・ドライバー」です。まずは動画をご覧いただくのが一番手っ取り早いと思いますので、どんな武器か、見てみてください。雰囲気がわかればいいので、最初の30秒ぐらいで止めちゃって問題ないです。

名前の通り電気をまとったパイロン(柱)が発射されるという武器です。発射されフィールドに刺さるとその弾はそのまま一定時間残り続けます。

この武器の面白い特性として、パイロン同士が一定距離以上近づくと、そのパイロンとパイロンを繋ぐかのように電流が流れ始めるというところです。この電流にももちろん判定があるので、敵が触っているとダメージを与えることが出来ます。

この電流は1本だけでなく、パイロンを何本も建てることで複数の電流のラインを生み出すことが出来ます。ものすごく便利な武器です。最高です。

ただ僕がこれを見てすぐさま思ったことは、「この音の実装すごく大変そうだな…」ということでした。一気に現実に引き戻されました。

ここから何が大変なのかということについて説明していきます。

大変に感じるポイント

まずこの武器で使われているSEをリストアップしていくと、だいたい次のようなSEが使われていることがわかります。

1.パイロンの発射音
2.パイロンが刺さる音(ないかも)
3.パイロンから鳴る持続音
4.バイロンが消える時の音
5.バイロン同士を繋ぐ電流の持続音

かなり細かく音がつけられていて、丁寧な作りとなっていることがわかります。この時点で結構凝った(大変な)作りだなと感じます。ただ何よりも本当に大変なのは一番最後の5番です。「5.バイロン同士を繋ぐ電流の持続音」です。

動画をよく聞くとわかるのですが、なんとなく電流の方に定位があることがわかると思います。

そうです。プレイヤーがどこに撃ったかによって動的に変わる電流のほうで、この5番の音は聞こえるのです。この動的に位置が変化するエフェクトに対して音を実装するというのは大変なのです。少なくともサウンドデザイナーだけでは決して完結できない仕事です。

そして、よりにもよってパイロンをいっぱい撃てば、その電流のラインはいくつも発生するのです。動画の後半で試していますが、ちゃんと綺麗に撃てばいろんな図形を描くことが出来ます。本数を増やすと電流のラインはますます複雑になっていきます。

そのように電流の本数が増えていった時、プレイヤーが真ん中に移動したとしたらこの電流の音はどこから聞こえるのが一番良いのか、ということが新たに問題になってきます。

もちろん定位が都度動くと違和感があるので、一定距離以内は定位がなくなるように設定をしているようですが、それにしてもその調整も大変なんじゃないかなと感じます。少なくとも検証回数が多くなりそうです。

そして、一定時間経つとこのパイロンは音を立てて消えるのですが、そうするとまた動的に電流の形が変わっていきます。動画の後半ではパイロンが消えた直後電流の形が変わりますが、その瞬間定位が右へと写っていることがわかります。

ややこしいな、と素直にそう感じます。

またSEの再生方法も、電流が発生するたびにSEを再生する単純な仕組みと音量が非常に大きくなるため、何らかの制御が入っているんじゃないかなと思います。(電流のエリアとプレイヤーの最短距離にエミッターが動くように処理するのがいいんじゃないかなとか思うのですが、どうなんですかね。実際に実装するわけでないのでなんともです。)

SEが再生される必要のある箇所が短時間に増減すると、音量であったり定位であったり、複数個のSEが再生されることによるフェージングであったりと、いろいろと考えなきゃいけないことが出てくるので、余暇で遊んでいるときもこのような仕様が出てくると「うわっ…」となってしまいます。

アビリティ豊かな武器たち

『リターナル』では基本武器にアビリティがつき、そのアビリティによって武器の挙動が変わるようになっています。そのため、同じ武器であっても遊ぶたびに新しい楽しみ方が生まれるなぁと感じます。

さて前項で話した「エレクトロパイロン・ドライバー」ですが、もちろんこの武器にもアビリティが存在します。そのアビリティによってその武器の挙動が変わるので、どんなアビリティなんだろうと試すのも非常に楽しいのです。今回紹介するアビリティは「パイロン・ウェブ」です。動画をご用意しましたので、一度ご覧ください。

一度の発射で全てのパイロンを蜘蛛の巣のように発射するというアビリティです。

これを見た時、僕は震え上がりました。

動画を見てわかるように、通常時と比較にならないほど電流のラインが繋がったり、パイロン自体の持続音が再生される必要があるのです。

音が増えちゃうからといって単に発音数を絞れば良いわけではなく、見た目の量感に音量感や音色がマッチさせる必要があると思いますし、実際、大量に撃った場合とそうでない場合には音に変化がつけられているように感じます。

持続音は一番近い位置で再生されるようにしているとしたのならば、制御はそこまで大変じゃないのかも知れないですが、パイロン自体から再生される音の調整はひたすらに大変だったんじゃないかなー…と。

おわり

ここまで、大変そうだぞ!これは辛い!と書いてきた電流の持続音ですが、かなり音量は控えめに設定されているように感じます。音量の変化や定位感はどちらかというとパイロン自体の持続音のほうで作られているように感じました。

実際にどのようにして実装されているかは全く謎なわけですが、定位変化が極端になる恐れのある電流の音は控えめにし、そこまで違和感が生まれづらいパイロン自体の音をメインにするのは、非常に上手だなーと感じます。挙動が安定している部分でサウンドの土台を作り、動的な要素が加わる部分は付加的に鳴らすというのは、なかなか応用が効くのではないかなと感じます。

効果音は気付かれないのが一番いいんだということが良く言われますが、この『リターナル』から分かることは、すごく面倒くさい仕組みを作ったり調整をしたとしても、あくまでもおまけ程度に音量を調整しないと違和感が簡単に生まれちゃう可能性があるということです。「気付かれない」というところから、ある種の虚しさみたいなものを連想しがちですが、その虚しさを感じるレベルに持っていくのですら、ものすごく大変なんだよな、頑張ろう…と自分を戒めたところで、今回の記事は終わりにしたいと思います。

ちなみにこの『リターナル』の武器のサウンドは、海外のサウンド制作会社 Sweet Justice 社が手掛けています。スパイダーマン マイルズ・モラレスだったりデモンズリメイクだったりと、どのタイトルでも期待を裏切らないサウンド作っていて本当にすごいです。

#ノイズなアカデミー #ゲーム #ゲーム業界 #効果音 #サウンドデザイン #環境音 #サウンド実装 #リターナル

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?