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壊れそうな我が家のはなし(17)

毎年、勤め先の健診を受けている。
検診車も来るのだが、それでは受けず、外部の病院にて健康診断してもらう。というのも、胃カメラをしてもらいたいからだ。もしバリウム飲んで検査してもらったときに何か悪いところが見つかった場合は、結局他の病院で胃カメラを飲むことになる。それならば一度で終わる方がいい。
自分で行きつけの健診先に電話して予約するのだが、会社の掲示板に健診の予約についての告知を見つけてすぐに電話しても早くて夏になる。胃カメラが順番待ちになるため時期が遅くなるのだが、胃カメラを受ける人は多いらしい。また、年に2度、仕事の繁忙期があるのだが、その都合で、7月に空きがあっても受診できない。この時の健診は8月中旬だった。

実父のことと、息子の進路のことなどで、この時の健診は睡眠不足で臨むことになり、あまり結果に期待できないなぁと思っていたが、9月初めに届いた健診結果は、初めて見る言葉が書かれていた。

要精密検査
血清検査異常です。医師にご相談ください。

結果を受け取ったその日の帰路にかかりつけ医を受診し、異常値を示している場所の専門外来が2日後にある地元の大きめの病院を受診する手はずを整えた。いつも明るく話すかかりつけ医が検査結果を見てシリアスな表情だったので、私の体の中で、得体のしれない何かが起こっているらしいのはわかった。翌日出勤して、次の日に控えた検査のための休みをもらい、仕事を片付けるも、何だかふわふわして仕事が手につかない。翌日の大きい病院での診察では、翌週午後からの造影剤CTとエコー検査が決まり、その数日後に外来で結果を聞くことに。そういうドタバタの最中も、実父は夜に徘徊をする。説明しても分かりようがなく、おとなしくしてくれることなどないので、健診結果については、夫と、実母だけに伝えた。

私には既往症があり、造影剤CTによるアレルギーが少々不安だったが、特に異常もなく、撮影は終わった。造影剤が入った後に体の下半分、背中から臀部にかけてがカァッと熱くなったのは不思議な感覚だった。

CTの部屋から、エコーの部屋まで移動する途中、病院の中を歩く年配の男性を見た。マスクをして表情はうかがい知れないが、実父と同じようなぼんやりした目をしていて、半歩下がったところを、奥さんらしき人が歩いていた。うちの両親もこんな感じに見えるんだろうかと思った。

翌日早朝。
部屋のスマホがLINEのメッセージが届いたことを伝えた。
こんな朝早くに、前日の検査で疲れている体を起こし、画面を見ると、階下にいる実母からだ。

「降りてきて」

眠気が飛び、階段を駆け下り1階へ。
実母が四つん這いになったまま動けずにいる。
ふすまを隔てて、介護ベッドの上の実父は高いびきだ。
動けない、と実母は言う。
元々、脊椎側弯症を持っていた実母は、ここのところの実父の介護であまり体の状態が良くない。「救急車、呼ぶよ!」
私の言葉に最初は近所迷惑だからと渋った実母だが、それどころではない状態だ。骨折でもしていたら。脳内出血でもしていたら。
どちらも私にはどうこうできない。

数分して救急車がきた。
玄関で、マスクと防護服姿の救急隊員が、土足にビニール製の靴カバーをしてから入ってきた。実母が動けない状態を説明するが、その騒ぎでも実父は眠っている。救急車には夫が付き添って、実母を搬送。受け入れ先を探してもらい、側弯症を診てもらっている病院に運ぶことになった。
残った私は息子に状況を説明した後、朝食をとらせて学校に送り出し、実父を起こしてこちらも食事をさせ、昨夜のうちに実母が書き込んでいたデイサービスの連絡帳に、娘です、との書き出しで、実母の搬送について追記した。現時点では実母の病状がわからないので、デイサービス中の実父に何かあったら私に連絡するよう、私の携帯番号を書き添えた。私の職場には、自分の検査に続き、実母のことでも休むことになって申し訳ないと電話を入れた。やがて、デイサービスの送迎車がやってきたので、簡単に経緯を話し、実父を託した。

家の中にひとり。出かける準備をして、実母の搬送された病院に向かったが、道中、ここのところの出来事を思い返していた。

実父の認知症が酷くなってきたこと。私の何か分からない病変。実母の搬送。
私の病変は、CTの結果が悪くなかったら、3カ月に1度ぐらい経過観察することになりそうだが、逆に悪かったら診察の時に詳細を決めることになっていた。

もし、私の状態が良くなくて、実母も今日から入院なんてことになったら、我が家はどうなる?

(続く)

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