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ライブの主催者は、誰なのか

 ライブ運営にまつわる諸問題について。様々なトラブルや不満、愚痴が、SNS上でまるで濁流のように流れてくる(特にコロナ以後)。「ミュージシャンの態度が」「店がギャラを」「集客が」「宣伝が」などなど。お店と演者、双方の不満の川底は見えぬほど深い。

 どちらが悪いか一目瞭然な場合もある。どちらもどちら、といったケースもある。個々のケースはあまりに諸条件が違い、一律に是非を判断することは困難だ。だが、根源的な「原因」ははっきりしており、それは非常に単純なことだ。それなのに、見抜いている者は少ないように思える。

 実は、原因というのは簡単で、「主催者(責任者)が一体誰なのか、それが分からない」、これに尽きる。どんな仕事であれ責任の所在が不明な仕事は、問題を引き起こすのは自明といえる。

「ハコ」なのか、「店」なのか、問題

 レディー・ガガが武道館でライブを行うなら、その主催者は当然、「レディー・ガガ」だろう(正確には、ガガのマネージメント会社か何か)。決して「武道館」が主催者ではない。また、例えば帝国ホテルが「ジャズの夕べ」というイベントを開催するならば、今度は主催者はミュージシャンではなく「帝国ホテル」自身となる。

 つまり、前者は「ハコを貸す」、つまり場所を提供するだけで特別な義務は無い。演者が=主催者、となる。また、後者では、ハコ(帝国ホテル)が=主催者となる。それは誰もが異論のないところと思う。

これが、基本的なライブビジネスのモデルだ。整理してみよう。

・ハコ(武道館や東京ドーム、レンタルホールなど。場所を提供するのみ)
・店(ホテルやレストラン、またCafeなど。店自身が企画し、主催者となる)

 だが小規模なライブ、特に近年、ジャズライブの世界ではこの区分けが曖昧になってしまっている。過去(私がこの業界に足を踏み入れた30年ほど前)は、主催者は大抵「店」だった。店はその店のテイストに合った演者をブッキングし、集客し、ギャラを払う(義務)。その代わり、店は様々な要望(スーツを着ろ、ステージは45分で、等々)を出す。つまり、クライアントと契約者の関係が明確だった。

 ところが、現代では「ハコ(場所)を貸す」スタイルのジャズバーが増えてきている。一体、「ライブハウス」「ライブバー」「ジャズクラブ」は「ハコ(ホール)」なのか、「店」なのか。「ジャズバー」「ミュージックバー」「ミュージックスポット」「ミュージックラウンジ」、、等々。これは何も店側が悪いだけでない。演者側も、誰も区分けがわからず出演しているのだから。もちろん私自身も、何が何だかわからない。

 つまり、最終的な責任者(=主催者)が誰なのか、それがわからない。それによって互いに責任と義務を押し付け合う事態が生じる。幸い、双方が誠実な姿勢であれば、「とにかく、共に頑張って集客しましょう」という共通認識に達し、それはある種「共同主催」のような形になり、事なきを得る。

 だが最悪なケースは、双方が責任を押し付け合い、挙げ句、「なんでこっちが」「そっちこそ、客集めろよ」「そっちこそもっと宣伝しろよ」といった醜い罵り合いに到る。

 そもそも、ハコでも店でもない「ライブバー」という存在自体が(半分は”ライブハウス”で、半分は”店”な訳だ)、そこで行われるイベントの性格を曖昧にしているといえる。ただ、2、30年前までは好景気だったので、店側がリスクと責任を負い、何となく上手くいっていた、というだけのことなのかもしれない。それが不景気になり、店が「主催者としての義務(つまりギャラなど)」を放棄し始め、問題が顕在化した、と捉えることもできるかもしれない。

 解決策はない。少なくとも、私には知る由もない。ただ、原因は、簡単なことだ。原因が分かったからといって、なんの解決にもならぬかもしれぬが、少なくとも、これ以上愚痴と酒の量は増えずに済むのではないだろうか。そう思ったので、この問題について少し書いてみた次第です。

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