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小さな命のために私たちができることを|ミルクボランティア・墨田由梨さん

生後間もない“乳のみ猫”を保護して、育てる「ミルクボランティア」。

今回、話を伺った墨田由梨(すみたゆり)さんは「NPO法人ゴールゼロ」に所属し、多くの保護猫活動に携わりながら、ミルクボランティアとして活動しています。

ミルクボランティアは、生後すぐの猫たちを育てる活動です。猫にとっては最初に関わる人間であり、生まれたばかりの命を預かる大切な役目。

そんなミルクボランティアの活動を耳にすると「大変そう」「やってみたいけど私にできるかな?」と不安を感じる人が多いかもしれません。

しかし、墨田さんからいただいたのは「どんな人でもできる」という言葉。今回は、墨田さんが心血を注ぐミルクボランティアの活動について、大変なことや意外な言葉の意味を交えながらお話しいただきます。

プロフィール

墨田由梨(すみた ゆり)
2008年より東京都動物愛護推進員を務める。主にミルクボランティアとして幼猫の保護譲渡活動を続けながら、NPO法人ゴールゼロ理事として奄美大島で保護されるノネコの譲渡活動にも従事。飼い猫と一緒にJAHA(日本動物病院協会)のアニマルセラピー活動にも参加。

生まれたての繊細な“命”を預かるミルクボランティア

ーーミルクボランティアでは、具体的にどんなことをしているのでしょうか?
ミルクボランティアは仔猫を預かり、ミルクを与えて育てる活動です。

生後間もない仔猫にはシリンジで、ある程度大きくなったら犬猫用の小さい哺乳瓶を使います。猫用の粉ミルクをお湯で溶いて、人肌くらいに冷まして与えるなど、要領は人間の赤ちゃんと同じです。

また、生後21日頃までの仔猫は自力で排泄ができないため、排出を促す必要があります。母猫は肛門付近を舐めて刺激しますが、人間が刺激を与える場合は、お尻をトントンと叩いてティッシュで拭きとります。

あとは仔猫の体調管理です。仔猫は体温調節ができないため、寒い場所に長時間放置されれば低体温症で命が危険な状態になります。温かいミルクをこまめ与えることで、脱水症状にも気を付けています。

ーー墨田さんがミルクボランティアを始めた経緯を教えてください。

猫に関わるボランティア活動を始めたのは、約16年前です。ボランティアを始めた当初は野良猫を捕獲し、去勢・不妊手術をして元の場所に戻すTNRの活動が中心でした。

TNRについてはこちらの記事で解説しています▼

今は東京23区内の野良猫が減少したため、ミルクボランティアの活動にシフトしています。動物病院や愛護団体に持ち込まれた仔猫を預かり、離乳まで育てています。

もともとTNRの活動中に母猫のいない仔猫を保護したり、捕獲して手術に持ち込んだ猫が出産したりなど、仔猫と出会う機会が多くて。自宅で仔猫を保護しながら譲渡先を探す、なんてこともよくありました。

多くの猫を育ててきたからわかる「大丈夫」の感覚

ーー最大何匹くらいの仔猫を預かるのでしょうか?

私の経験では最大6匹ですね。3~4匹のきょうだい猫を預かることが多いです。ただ、授乳期の仔猫6匹を育てているタイミングで、新たに仔猫を迎えることはあります。仔猫10匹の授乳は、さすがに少し大変でした(笑)。10匹なら10匹分のミルクを用意して、なるべく均等に飲ませる必要がありますから。

ーー10匹は大変そうですね!1日何回くらいの授乳が必要ですか?

生後10日までの仔猫は、1日8回から12回の授乳が必要です。2~3時間ごとのペースで、夜間も授乳します。生後2週間ぐらいになれば昼間は2~3時間おきに1回、夜は6時間程度あけても大丈夫な状態になります。

今まで多くの猫を育ててきて「少し時間をあけても大丈夫」のような感覚というか、お世話の塩梅が分かってきて。健康な子猫であれば、細かすぎる時間管理はあまり必要ないと考えています。

ただ、未熟児で生まれた仔猫や健康状態が良くない仔猫がいるときは例外です。夜中に起きて様子を見ながら授乳するなど、臨機応変に対応します。

ーー仔猫が相手では、思うようにいかないことも多いのではないでしょうか。

お湯でミルクを溶いて人肌に冷ましたりするのは、忙しい日はもどかしさを感じますね。ミルクをあげて哺乳瓶を洗って、トイレの世話をして……あっという間に次の授乳時間なんてことも珍しくありません。

でも仔猫が体を冷やさないように、ミルクの温度には気を付けています。寒い時期は湯煎にかけたり、なるべく温かいミルクを与えるように工夫をしています。

ーー笑顔で話されていますが、すごく大変そうです……(笑)。

もちろん大変なこともありますが、猫の授乳期間って生後1カ月程度なんですよ。生後5週目を過ぎると離乳し始めて、少しずつ歯が生えてきたら離乳食に変更です。

ちょうど同じ頃、自力でトイレもできるようになります。少し大きめのクッキー缶に猫砂を入れておくと「砂かき」を始めて、そのまま排泄を覚える仔猫もいます。

最初は失敗もあるのでペットシーツを敷いたり、工夫は必要ですが、生後6~8週目になればトイレも完ぺき。だから大変な時期はあっという間です。「3週間乗り切れば、なんとかなる!」と思っています。

猫の繁殖期は冬至を過ぎた頃に始まる

ーーそんな仔猫が増える、猫の繁殖期について教えてください。

猫の繁殖期は、昼の時間が延び始めた1~2月頃からです。日の長さに影響を受けやすく、生殖ホルモンは冬至を過ぎた頃から活発に排出されます。
たとえば繁殖期のオス猫はメス猫を熱心に探したり、スプレー行動が増えたり。メス猫は「ウォーン」と大きな声で鳴いたり、体をくねくねさせたりしますね。

猫が交尾をして受精すると、だいたい2カ月で出産します。早ければ3月頃から出産が始まり、4~5月が第1次ピークです。6~7月に少し落ち着いて、8月頃に第2次ピークを迎えます。秋になり日が短くなるとともに、猫の繁殖期も落ち着きます。

ーー冬に出産する猫はいないのでしょうか?

まれに12~1月の寒い時期に出産する猫がいますが、自然界ではあり得ないことです。そういう猫は高い確率で、多頭飼育崩壊の現場で妊娠しています。

多頭飼育崩壊とは未手術の猫が室内飼いで繁殖し、適正な飼育ができなくなった状況です。ほとんどの場合十分な管理が行き届いておらず、自然界では考えられない時期に出産します。

多頭飼育崩壊についてはこちらの記事で解説しています▼

ミルクボランティアに大切なのは、適性より「柔軟に対応できること」

ーー墨田さんが考える「ミルクボランティアに向いている人」ってどんな人ですか?

心がけや適性よりも、条件さえ整っていればどんな人でもできると思います。みなさんが思うより、意外にハードルは低いですよ。

あまり細かいことにこだわらず、柔軟さというか、臨機応変に動ける人が向いていると思います。

ーー意外ですね!保護猫活動って、もっと厳しいイメージがありました。

もちろん仔猫のうちは毎日体重を計って、ちゃんとミルクを飲めているか、成長しているかチェックする必要はあります。ただ「きっちり2~3時間ごとにタイマーをかけて」というより、何かあった場合に対応できるかが重要です。

仔猫はお腹を壊したり猫風邪をひいたり、成猫に比べて体調を崩しやすいです。ひと通り対処して改善する気配がなければ、病院に連れて行くべき状況もありえます。

ーーなるほど。そのほかに気を付けたほうがいいことはありますか?

衛生面の管理も重要です。衛生状態は猫の体調に直結するので、掃除や消毒はこまめに行います。

とくに捕獲したばかりの猫は、ウイルスや寄生虫を持っている可能性が高いです。仔猫であっても最初の2週間は別部屋で隔離するなどの対応が必要ですね。

ーー「衛生面には配慮しながら柔軟な対応ができる人」ということですね。

基本的なルールは守るべきだと思いますが、あとは意外に何とかなります(笑)。

自然界で暮らす仔猫だって、母猫とずっと一緒ではありません。母猫がエサを探しに出かけたり、数時間~半日帰ってこない状況は日常茶飯事。それでも仔猫は、ちゃんと元気に待っているものですよ。

ミルクボランティアが命を救うカギになる

ーーミルクボランティアになるために、まず何から始めたらいいですか?

ミルクボランティアを始めたい人は、最初にセミナーを受けてみるといいと思います。私も滝川クリステルさんが設立された「クリステル・ヴィ・アンサンブル」という財団の「Foster ACADEMY」のセミナーの講師を務めています。

あとは地方自治体や動物愛護センター主催のセミナーや講習もおすすめです。

例えば千葉県の動物愛護センターは「子猫の一時飼養ボランティア講習会」を開催しています。講習会を受講し活動の流れや子猫の飼育管理の方法を勉強し、ボランティアの登録申請が受理されれば、正式にミルクボランティアとして活動できます。

ミルクボランティアの需要はかなり高いので、近くの動物愛護団体に直接問い合わせてみるといいかもしれませんね。

ーーミルクボランティアが足りないという話をよく聞きますが……。

そうですね、かなり不足していると感じています。私は2022年4月から栃木県の動物愛護指導センターから仔猫を引き取っていますが、2021年度まで生後2週間以内(200g以下)の仔猫はすべて殺処分していたそうなんです……。

その理由がまさに、ミルクボランティアの不足です。仔猫以外に犬や成猫もいる状況で、職員の数には限りがある。「とてもじゃないけど仔猫の世話をしている余裕はない」ということで、手のかかる仔猫は殺処分されていたと聞きました。

こうした状況は、おそらく栃木県だけではないと思います。全国の殺処分の半数以上が、生後間もない仔犬や仔猫です。

いろんな人たちが「動物の殺処分を減らそう」と努力していると思いますが、私はミルクボランティアが1つのカギになると思っていて。

1匹でも2匹でも保護してくれる人が全国に増えれば、殺処分される仔猫は劇的に減る。もっと助かる命が増えるんじゃないかなって思っています。

私たちが目指すのは「不幸な命が生まれない世界」

ーー今後の活動について目標などあれば教えてください。

私たち「NPO法人ゴールゼロ」の活動を続けていくことです。NPO法人ゴールゼロは、獣医師を中心に、猫の殺処分ゼロを目指して活動している団体です。会員は30名弱の小さな団体ですが、本当に多くの方々に支えられています。 

私たちの活動についてはFacebookやInstagramで情報を発信しているので、ぜひ見てみてください。定期的に譲渡会やボランティアに関する講演会も開催しています。

NPO法人ゴールゼロは「小さな命が粗末に扱われることのない世の中」を目指して、今後も活動を続けていきます。


ミルクボランティアは、猫の保護活動において欠かせない存在です。生後1~10日の仔猫は体温調節や自力の排泄ができないため、授乳だけでなく温度管理やトイレ訓練も行います。6匹以上の仔猫を同時に預かるような状況も多く、とくに猫の繁殖期は毎日慌ただしく活動されています。

今回お話を伺って、我が家の愛猫たちをミルクボランティアさんから引き取ったときのことを思い出しました。

人間から愛情をもらって育てられた愛猫たちは、人が大好き。もちろん猫により差はあると思いますが、人とのコミュニケーションに慣れていて、関係性を築きやすいと感じます。

墨田さんがおっしゃるように、ミルクボランティアが増えれば、助かる命が増えるのはもちろん(私のように)猫の魅力に取りつかれる人も増えるかもしれませんね。


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