【ことば雑考】「AをAで表す」

 メタ数学 あるいは 超数学 と呼ばれる 研究分野がある

 「数学自体を研究対象とした数学」と 説明されるが トーシロー(素人)には 何のことだか チイパッパである

 簡単に言えば A×B=B×A であると決められたルール これを前提として 話は進められるのが 数学ではあるが この A×B=B×A というルールは そもそも どうすれば決まるのか という点にスポットを当てて 研究する というのが メタ数学 という訳だ

 メタ哲学 なる研究分野もある

 「哲学の哲学」とも呼ばれ 「哲学の本性・目的・方法を研究対象にする」モノであると 説明されるが もはや 好きにしな と こう来る

 学問上は 非常に重大な 研究テーマと なりうるであろう事は 想像出来るものの 筆者のような 言語遊戯の色眼鏡が 皮膚との一体化をなさんとする輩にとっては 洒落た気でいる悪ふざけ 良く言って 行き詰った大喜利回答の最終手段 という風に 捉える節は 無きにしも非ず


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 しかし こうしたいわば 「AのA」という形式

 じっくりと 目を澄まして 耳を凝らすと 興味深い内情を うかがい知る事が 出来る

 例えば以下のケース

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 クズ中のクズ この他 男の中の男 などと言った字面も お目にかかる事はあるが これらは 「数多ある A という集合の中でも 特に 想定数値の高い A」 という意味だ

 この 「Aの中のA」と 「AのA」は 同義か

 いや そうではあるまい

 全く異なるモノであると言える

 例えば 『歴史の歴史』は 「歴史のうちで特に理想的な歴史」 という集合からの一選出を 表すような事ではなく 「記録や資料の構築を研究する学問(歴史)の時代的変性(歴史)」という事になる

 では この「AのA」形式は 何にでも 通用可能か

 「アマビエのアマビエ」「乳酸菌の乳酸菌」「志村けんの志村けん」 などなどは 意味なんかない IN MY LIFE

 どうやら 全ての語句において 通用する形式では なさそうである

 では 「AのA」が 成立する語句の 必要条件とは何か


①「ことがら」にも「まとまり」にもなる

 先の『歴史の歴史』を見る

 前者の歴史と 後者の歴史は  それぞれ指し示す対象が 異なっている

 具体的に示せば 「ことがら(対象や活動)」 と 「まとまり(性質や原理)」 とでも言えよう

 『本の本』も 「著者が読んだ様々な本(ことがら)に対する批評を手当たり次第に集めた本(まとまり)」 とでも言う事が出来る

 この 「ことがら」と「まとまり」 両方の意味を 備えた語句が 「AのA」形式として ノミネートされ得る

 例:「写真の写真」「辞典の辞典」など


②ダブルミーニングである

 世に 同字でありながら 異義のもの ありけり

 日本と中国の熟語では 「手紙(文書・トイレットペーパー)」などの例を 序の口として 数多 このような語が 存在していると聞く

 英単語には bat(バット・蝙蝠・瞬きする)など このような語が多く存在しており 同綴異義語・同形異義語・ホモグラフ と呼ばれている

 しかしながら 同字かつ異義である としても ”異音”であるのは 如何なものだろうか という心持ちに 駆られはしないか

 例えば 「頭の頭(かしらのあたま)」「黒子の黒子(くろこのほくろ)」「お守りのお守り(おもりのおまもり)」

 字は同じであるものの 「哲学の哲学」「本の本」などと 比すると 手口は巧妙でありながら 若干の卑怯さは 拭いきれない

 音も同じであり かつ 字も同じく 義だけが異なる そうした語句を 選出してこそ 映えるのでは ないだろうか

 ただし その場合 圧倒的な厳選を 強いられる事にはなるが

 例:「面の面」(マスクの特定の広がりがある個所 あるいは 某アクションゲーム的に解すれば 鍵を持ち出すと 追跡してくる ”仮面キャラ”のいる”ステージ” とでも言えるだろうか)

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③前段階の連結である

「先生の先生」「基礎の基礎」といった 例の場合は 「(我々が教授を受けた)先生の(学生時分に教授を賜った更に以前の)先生」「(一般的なレベルの位置付けとされる)基礎の(更に初歩的な前段階となるレベルの)基礎」 という意味を有する

 解釈は難しいが 結局”表”だろ と頻繁に 批っ判(つっこ)まれる 「裏の裏」といった表現も この条件に 類しているかもしれない

 都市伝説や噂話の常套句で よく耳にする 「友達の友達」 などは この例と言えるだろう

 ところで 心霊写真に写り込む霊に対し 「これは霊に憑依(とりつ)かれて 亡くなった者の霊です」 と視るケースが 皆無なのは 何故だろうか

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(Mrs. GREEN APPLE『ロマンチシズム』の 歌詞内に 「愛を愛し」「恋に恋する」といった 表現が 使用されている)

 「AのA」形式の 主な種類は 大きく上記3種(ことがらとまとまり・ダブルミーニング・前段階)に 分けられると 考えられる

 何 もっと簡単な 方法は無いか?

 仕方あるまい 初心者にも出来る 入門技法を 伝授しよう


⓪名詞にも動詞にもなる

 「哲学」「意味」「イメージ」は それぞれ名詞であり 「哲学する」「意味する」「イメージする」といった 動詞にもなる

 このように 名詞・動詞 どちらでも 通用出来る語句は 「AのA」の形式として 成立し易い

 この場合 「AのA」 という代わりに 「AをAする」 という形式を とると 解り易いだろう

 例:「説明の説明」「要求を要求する」「実況の実況」「憤怒を憤怒する」など

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ボンバーガール公式アカウントより

 先に見た 「ことがら・まとまり」「ダブルミーニング」「前段階」の三叉路の紹介では 基本的に「名詞同士」(どちらも名詞で使用されているタイプ)の語句を 例として用いた

 だが お解りの通り 「名詞・動詞」タイプにおいても これら3種の条件が 当てはまるのである

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(歌川芳藤「五拾三次之内猫之怪」)



 「AのA」「AをAする」という この形式は 文面の枠を超越した 媒体へと豹変する事もある

 アニメ『てさぐれ!部活もの』では OPアニメーションの演出の説明が そのまま楽曲の歌詞として 展開されていく

 『MUSIC VIDEO』(岡崎体育)では 「MUSIC VIDEOにありがちな演出」を これまた楽曲の歌詞に 反映され 並べ立てられていく

 ある様式の性質や特徴を まさにそのある様式によって 表現する いわば 「AをAで表す」形式

 モノマネタレント・歌手:清水ミチコは 松任谷由実をはじめとした 様々な歌手の 「作曲法・歌唱法」を歌詞にし 更に当該歌手の曲調や歌声を真似て 披露するネタを有するが これも同様であろう

 これらは 「歌詞」そのものが 様式の構成要素でありながら かつ様式の説明をする役割を 担っている点が 重要なポイントとなっている

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 「AをAで表す」 この形式が 最もよく その威力を 発揮している例として アンサイクロペディアを 挙げよう

≠〃ャ儿文字`⊂レ£、日本σ女孑高生Tょ`⊂〃ヵゞ∋<イ吏ぅ携帯電言舌σ乂→儿Tょ`⊂〃τ〃文字を分解・変形±世τ文字を表王見£ゑ遊ひ〃・手シ去、маT=ξяёらσ文字ξσм○σσ口乎称★変形文寸象`⊂Tょゑσレ£主レニひらヵゞTょゃヵ勺ヵナτ〃ぁゑヵゞ、一部σ漢字м○イ扁`⊂旁を分解Uτ表言己UT=レ)、ラ〒冫了儿ファ∧〃ッ├м○変換£ゑTょ`⊂〃、ξσ表現レ£夕夕ψ支レニ渡ゑ★

アンサイクロペディア 『ギャル文字』項目
万葉仮名波、仮名乃一種天安留。日本語遠表記寸留爲仁漢字乃音訓遠借用之天用以良礼太文字乃己止天安留。眞假名止毛。

アンサイクロペディア 『万葉仮名』項目
やたらと、句読点が、多い、文章
こう、いう、句読点、が、とても、多い、文章、は、文章、の、流れ、を、つかみ、にくく、読み、にくい、上に、書く、人、も、労力を、要する。しかも、特に、パ、ソ、コ、ン、や、ワー、プ、ロ、など、で、書く、場合、は、紙の、スペースを、た、くさ、ん、使う、ため、現在、世界、中、で、進め、られ、て、いる、省エネにも、反、する。従って、句読点を、多用、しす、ぎるの、は、や、めま、しょう。

主語のない文章
省略されやすい。 しかし、大切である。 それなのに、この文章には存在しない。 わからなくなってしまう。 原因になって、生じるかもしれないので、やめましょう。

小倉百人一首風に書かれた文章
この様に 5・7・5で 書いてある 文章はマジ 読み辛いなり
もう少し 的確である 表現に 直さなければ どうしようもなき

アンサイクロペディア 『文の構造が原因で読みにくい文章』項目

 ある文字や文体について その文字や文体で説明する こうした構成は 時として 自己言及とも呼ばれる スタイルであり アンサイクロペディアでは かなり 多くみられる

 構成要素が構成そのものを説明する手法 という 重大な表現方法が 現代 静かに その胞子を 吐き散らしている

 その行く末は 進化か 枯渇か

 真摯に 見届けなければ ならない時代に 我々は 直面しているのかも 知れないが そもそも興味は無い ハナから聞いちゃいない

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(「ひらがな」「カタカナ」「漢字」「alphabet」)

 


 筆者 実はこの手のやり口に 因縁がある

 平成25年6月8日に 新宿ロフトプラスワンで 催された 『豆ナッツ~bean~』というイベントに 筆者がゲストとして 呼ばれた際 「ある言葉遊びのやり方をその言葉遊びの技法を使って解説する」 という (本来であれば)画期的かつ説得力 溢れるプレゼンを 披露した事があった

 「一見 難しく見える 言葉遊びに 臆する人達は 『作品としての出来』に 囚われ過ぎである 故に それを取っ払おう」と 試みたのが このプレゼンの趣旨では あったが 結果的に 出演者某一名から 「自転車に乗れる人の理論」と 辛辣に揶揄された覚えがある

 置く

 折角なので 以下に当時の 「言葉遊びを言葉遊びで解説する」ネタを 再出する事としよう

注意点

 イベント数年後に このネタを 筆者自身のホームページ(現在は消失)で 大幅な加筆と改竄を 施し公開していたが ネタ部分だけは 編集した記事(当時)を スクリーンショットしたものである事を ご了承願う

 中には 書き改めたい 箇所箇所もあるが そこは 稚拙な時代の 遺産として 戒めの意味をもって 晒す事とする


1⃣ あいうえお作文(アクロスティック)

 巷では 縦読みも あいうえお作文も 単なるアクロスティックの別称 という捉え方が なされているようだが 筆者は アクロスティックが 総括的カテゴリーであり それぞれ特殊な条件が付加される事で 細分化されたものが 縦読みやあいうえお作文 だという見解である

 ここで あいうえお作文を 「50音の 各行にある文字群を 頭文字に配置し その後ろに繋がる一文を創る アクロスティック技法の一種」と しておこう

 要は 頭文字に 「あ」「い」「う」「え」「お」を置いた 作文という訳である

 あいうえお作文の創り方を あいうえお作文で解説する

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2⃣ アナグラム

 アナグラムは 「ある言葉・文章の文字を並べ替えて全く異なる言葉・文章を新たに生成する技法」である

 アナグラムの創り方を アナグラムで解説する

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3⃣ リポグラム

 リポグラムとは 「特定の文字を使用せずに文章を構成する技法」である

 英語圏では 「英文の中で最も使用されるアルファベットは”e”である」 という事から 「e」を一切使用せずに 小説一本書き切る といった実例がある

 これを 更に増強化した例として 日本では 『残像に口紅を』(筒井康隆著)において 各章ごとに 「使用出来なくなる文字(音)が増えていく」構成となっており 注目を集めた

 ここでは 一文ごとに 各段(例:ア段→アカサタナハマヤラワ)の使用を 禁化していく形で リポグラムの体裁を 整えた

 リポグラムの創り方を リポグラムで解説する

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4⃣ 回文

 回文は 「正順でも逆順でも同様の文字の並びに構成する作文技法」 と言える

 「上から読んでも下から読んでも」などと説明しては 横書き文化のネット上では 虚偽の声明となる可能性が高く 訴訟に発展しかねない為 注意が必要である

 ことは厳密かつ 正確な記載が 重要であるが 誰も聞いちゃ居ないし

 回文の創り方を 回文で解説する

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5⃣ いろはうた

 いろはうたは ここでは「50音で示されている全ての文字を一度だけ使用して作文する技法」としておこう

 また「ゐ」「ゑ」の 旧かなを不使用とした 計46文字の 構成とした

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おわり

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