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ボールを持たなくても「超攻撃的」になれる【2023年J1第4節 北海道コンサドーレ札幌vs横浜F・マリノス】

2023/3/12に行われた北海道コンサドーレ札幌vs横浜F・マリノスは、2-0で札幌が勝利した。今季初勝利である。

あらかじめ断っておくがこの文章は、いわゆる「マッチレビュー」ではない。しいて言うなら感想文、イメージとしては試合を見た上で書いた「日記」のようなものだ。

前回書いた日記はこちら。

ちなみにこの試合は現地(札幌ドーム)で観戦した。

いいときのコンサドーレの見抜き方

この試合、特に前半は札幌にとって会心の出来だった。先制点を挙げ、マリノスはシュート0に抑えたのだ。

札幌が普段の3-4-2-1ではなく、マリノス対策のために3-1-4-2を用いて見事にかみ合った特殊性もあるが、間違いなくこの試合の札幌は「いいとき」の札幌だった。

では札幌にとっての「いいとき」とはどんな状態だろうか。

ひとつは「陣形がコンパクト」であることだ。コンパクトには2つの意味合いがある。

まずはDFラインとFWラインの間隔が狭いことである。これは陣形全体がコンパクトであることだ。

もう一つは、近くの味方同士の距離が離れていないことだ。ボールを持った相手DFに最前線の選手がプレスをかけたとき、後続の選手が出遅れることなく後を追ってプレスをかけていた。このため選手一人一人の距離が広がることがなく、相手を狭い範囲で囲うことができていた。選手間の距離がコンパクトだったのだ。

二つ目は「自陣でボールを持つ時間が短い」ことだ。

おそらく札幌は自陣でボールを持ったらできるだけ素早くハーフウェーラインを越えて、敵陣でパスを回して相手を崩しシュートを打つことを目指している。現状の札幌は自陣でボールを回す時間が多いためにボール支配率が高くなっているが、本来は自陣では素早くボールを離し、敵陣でじっくり崩すことが理想なはずだ。

余談だが守備面が不安視される福森がミシャに重用されるのは、ワンプレーで自陣からハーフウェーラインを越えるキックスキルがあるからだと思われる。

この日の札幌は自陣でボールを回す時間が普段よりも少なく、素早く敵陣にボールを運んでいた。よってボール支配率は相手より下回っていても、シュートチャンスを多く生み出せたのだ。

三つ目は「選手の矢印が常に前向きである」ことだ。矢印が前向きとは、選手が動く方向が相手ゴールに向いていると言い換えられる。

自陣でボールを回す時間が長いときの札幌は、パスを横や後ろに頻繁に戻す回数が多い。つまり選手の動く方向が後ろ、自分のゴールに向く頻度が増える。

この試合はスピードのある選手が前線に多く、相手DFラインの裏にボールを出しやすかったこともあったが、ボールを持っているときも持っていないときも札幌の選手は常に相手ゴールに矢印を向けて動くことができていた。

「陣形がコンパクト」、「自陣でボールを持つ時間が短い」、「選手の矢印が常に前向き」、これらは札幌に限らず調子のよいすべてのチームにも共通する点かもしれない。チームの良し悪しを判断するときの材料にしてほしい。

現地で観ないと分からなかった中島のスター性

札幌は78分からFWの中島を出場させた。僕が驚いたのは試合中に中島がボールに向かってダッシュした瞬間である。ゴール裏のみならず、僕が座っていたバックスタンド(カテゴリー3)周辺も含めてスタジアム全体がどよめいたのだ。

元々バックスタンドはゴール裏のように声援を絶えず送る方が座る席ではない。にも関わらず、中島のダッシュに僕の周囲の観客が皆思わず声をあげたのだ。ダッシュひとつでこれだけ観客をわかす選手はなかなかいない。

中島がサポーターからの期待が高いのは分かっていたが、ここまでのスター性を持っているとは札幌ドームで現地観戦していなければ分からなかった。アウェイ観戦では決して気がつかなかっただろう。

ちなみに坊主頭のストライカーが日本では妙に期待されるのは、ブラジルのロナウドと高原の影響だと思うのだがいかがだろうか。

ファン・ハールからミシャの「超攻撃的サッカー」を改めて考察してみる

試合後のミシャの会見を読むと、彼がこの日のサッカーに結果にも内容にもご満悦だったことがうかがえる。

私はこの17年、日本で仕事をしてきた中で、今日の試合が最も洗練されていた。モダンでアップテンポ。最も優れていたと評価できると思っている。私は内容を求める監督。その意味でも、内容も結果も素晴らしかったと思っている。

【公式】札幌vs横浜FM監督コメント

つまりこの試合で見せた札幌のサッカーがミシャにとっては理想に近いものだと考えられる。確かにシュート数は17、そのうち枠内シュートは10でゴールは2。かなりのチャンスを作っている。反面、ボール支配率は38%となっており、マリノスにボールを持たれている状態である。

ミシャが就任してから札幌は「超攻撃的サッカー」をうたい文句にしている節がある。ミシャ本人が言っていたかは定かではないが、経営陣やメディアは積極的にこの言葉を使っている印象だ。

だがこの「超攻撃的サッカー」という言葉、よく考えるとどうとでも解釈可能である。そもそもボールをなかなか持てない状況でも「攻撃的」と呼べるのか疑問ではないだろうか。しかし、ミシャはこのボールが持てない状況が続いた試合の内容に満足している。これはどういうことか。

ここでアヤックス、バルセロナ、オランダ代表、マンチェスター・ユナイテッドなどを率いた名将ルイス・ファン・ハールに登場してもらう。彼の考える「攻撃」について、ジョナサン・ウィルソン『バルセロナ・レガシー』には以下のように記されている。

マンチェスター・ユナイテッドを筆頭に、ファン・ハールのサッカーは攻撃的とは程遠いと主張する人はたくさんいるが、「攻撃」という単語はサッカーにおいてはあいまいなものである。最もスリリングなゲームとは、攻められていたチームがあっという間に攻撃に転じるカウンターアタックである。ファン・ハールにとって攻撃とは、ボールを保持するにもプレスでボールを奪い返そうと狙うにも、常に積極的な姿勢で向かうという意味なのだ。

ジョナサン・ウィルソン『バルセロナ・レガシー』より

このようにサッカーにとって「攻撃」という単語はあいまいな緩さを秘めている。僕があまりクラブが主導で「超攻撃的サッカー」と声高に叫ぶのを好まないのもそこである。いくらでも解釈のしようがあり、耳ざわりだけがよい言葉をつい怪しんでしまう。

だがファン・ハールにとっての攻撃の解釈は、今回のマリノス戦で札幌が見せたサッカーと一致するのではないだろうか。僕は「常に積極的な姿勢」という言葉に「常に相手ゴールに向かって動く」というイメージを想起した。つまりボールを持っていても持っていなくても「攻撃」はできるのだ。

ファン・ハールとミシャが似た哲学を持っているようには外面からは見えないが、少なくともファン・ハールの解釈に従えばミシャが見せたいサッカーはボールを支配するしないに関係なく「超攻撃的」と言えるのではないだろうか。

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