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HIT! あの夏、いちばんヤバいアート

No.012
表紙写真・著作者 Jesse Clockwork


2012年、季節は夏。
僕は5年ほど住んだ東京を離れ、故郷滋賀に戻っていた。

最高気温が35℃以上の猛暑日が続き、大阪での個展の制作がまったく捗らないで苦しんでいた時期。アトリエの近所に大きなスーパーマーケットができた。

この地域の商店街も現在はシャッター通りと化し、馴染みのあった書店や食堂も立ち退きを強いられて次々に店を閉めている。食料品、日用品、衣装品、家電や家具などを買う時には総合スーパー。洋服はユニクロ、GAP、H&M、ZARAなどのファストファッション。週末家族との食事は大衆レストランか回転寿司、と全国平均スタイルの流れにわが町も飲込まれてしまったのだ!

そんな町の変化に少しメランコリックな気分になりながら、僕はその新しくできたスーパーマーケットへ買い物に出掛けた。

暑い! アイスモナカを食べないと死んでしまう!

僕はチョコモナカジャンボとコーヒーミルクを買って、駐車場のベンチに腰掛けて、それらを平らげた。とにかくもうアトリエには戻りたくなかった。

ふと、老婦人が僕に近づいてきて、何かを渡してきた。

それはうちわだった。これは“社会を明るくする運動”という、法務省主唱の啓発運動なのだそうだ。犯罪の防止と犯罪者の矯正および更生保護についての正しい理解を深め、犯罪をなくして社会を明るくしよう、ということらしい。

ふむふむと老婦人の説明を聞きながら、うちわのデザインを見てドキッとした。これがまた「夏感」を全面に押し出した、凄まじいものだったのです。


向日葵の大群が列をなしてガンガンこちらに迫ってくるではないか!? 虹が画面左右からレーザービームのように奥側へと突き刺さっていく。よく見ると左側は明るい丘なのに、右側の世界は漆黒の闇に染まっている、これはゴッホの絵よりもヤバいんじゃないか!!!

あの夏、僕はそのうちわに一番やばいアートを感じてしまったのでした。


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