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LSHTM〜Term2後半〜

(作者不明の作品。分かりづらいですが、学校を西側から描いた絵。校内に飾られていますので、ぜひ探してみてください。)

※このシリーズは、Public Health(General Stream)に属する純ジャパがお送りしています。

 「LSHTM〜Term2前半〜」で書いたように、2学期には前半2つ、後半2つの計4つの科目を受講します。
 私が後半に選んだ科目は「Epidemiology of Non-Communicable Diseases」と「Reviewing the Literature」。略して、ENCDとRTLです。ENCDには疫学コースの学生が4割ぐらいを占め、あとはPublic healthやその他のコースの学生がチラホラ。RTLはPublic healthの学生が多かったかな?
 2学期後半はDistant learningの学生も1ヶ月だけロンドンに留学されて1年コースの学生と同じように勉強をします。今年は5-6人の学生が日本から来られてました。

 さて、ENCDとRTLの内容を紹介していきましょう。まずはENCDから。感想としては、「授業は楽しかったが、試験の難易度はトップクラス」です。
 内容は、「授業23コマ」「演習6コマ」から成り立っており、「政策提言、ポスター発表、ヘルスプロモーション提案のいずれか」をグループワークで行います。試験は2時間30分のペーパーですが、ネイティブでも試験後に「時間が足りなーい!」とチャット上で盛り上がるくらいに難しいです。成績はペーパーのみで判定。

 授業では非感染性疾患の世界的なトレンドが学べます。「循環器疾患」「がん」「メンタルヘルス」「認知症」「肥満」などの病気を見ていき、次に原因となるRisk Factors(環境問題、タバコ、寄生虫、遺伝子)を学び、データの収集の方法(ウェアラブル端末、ヘルスレコード)などにも目を向けます。
 授業を聴いていて「へーっ」と思えることも多かったと記憶しています。例えば、「喫煙率は減少傾向にある。しかし、人口が増えているので喫煙者の数自体は増加している」や「経済学的な観点から見ると、影響が大きいのは循環器疾患よりも精神疾患」等など、面白い話を毎回の授業で聴くことができます。
 授業を担当する講師陣もゲストが多く、ケンブリッジ大学の教授が来たり、「Sir」の称号が与えられた教授先生(LIam Donaldson)も来ました。

 話が逸れますが、LSHTMに通う博士課程学生の話を聴くと、「うぉーっ!あの教科書の著者じゃん!!」とテンションが上がることもあるらしく、講師陣は著名な方である場合が比較的多いのかも知れません。そのような高名な方々と繋がれるチャンスが得られることが、この学校に来る1つのメリットですね。
 LSHTM所属の先生方も「これは最近私達のチームがLancetに発表した研究で〜」や「これは私の研究ですが〜(掲載がNature)」と、負けてはいません。

 試験は本当に難しかった…。2時間30分の試験時間は過去最長(大体2時間)でしたが、全然足りない。授業で学んだことが3-4割、応用問題が6-7割って印象です。大問4つから2つを選んで回答なので、自分の得意な分野を選んで回答すればいいのですが、甘くない。
 対策を立てるのが難しいのですが、「授業で学んだことを完全に頭に入れて、学んだことの『強みと弱み』を整理しておく」はやっておいた方が良いです。前年度の試験を事前に配布されるので傾向は掴めると思いますので、読者の皆様のご武運を祈ります(『試験時間は今までは1時間30分だったの。だから充分に問題を解く時間はあるはず』と講師は説明していましたが、私も他の学生もいくつか問題を飛ばさないといけない状況に陥りました…)

 ところで、非感染性疾患は感染性疾患と比べて年々その重要性が高まってきているように思えます。以下はGBD(Global Burden of Disease)のデータですが、

(世界全体で見たDALYsの原因となっている疾患ランク。感染性疾患の順位が1990から下降している)
(こちらは死亡原因。感染性疾患は下降傾向)

 やはり非感染性疾患の公衆衛生への影響が高まって来ていると読み取れるのではないでしょうか。

気になった方は上記リンクからデータを確認することができます。

 もちろん、オニールレポートで指摘されているような問題もあり、今後も感染性疾患への対応は重要です。ただ、公衆衛生への影響力の観点で言えば、「しばらくは感染性疾患が非感染性疾患を逆転する可能性は低いのでは?」と個人的には考えています。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000189799.pdf

興味のある方は、ぜひ2学期後半に受講されてみてください。


 次にRTLの説明です。RTLは「ホワっとしている」科目でした。5週間でシステマティック・レビューについて学び、自分が1から書いたシステマティック・レビューをレポートとして提出します。
 個人的には「保険」の意味合いでこちらの授業を取りました。それは、卒論に対しての保険です。卒論は4月から8月末で完成させないといけないのですが、「データが取れない、集まらない」「問題が起きて研究が進められない」場合には、当初考えていたプランを破棄する必要があります。そして、違うプランで卒論を書かないといけません。そこで重宝されるのが、システマティック・レビューです。なぜなら、人を対象としていないので倫理審査も通りやすく、個人で完結できるので問題が生じにくいから。
 
 話をRTLに戻すと、「(レポートに対して)あまり野心的になるな」「我々は君たちの2回目のシステマティック・レビューが上手くいくことを期待している」と言われ、良いクオリティのレビューは期待されていない(できないだろう)との考えが透けて見えます。確かに2学期後半は「卒論の倫理審査」への対応もしなくてはならず非常に忙しく、授業や勉強に割ける時間も限られます。また、「レビューするテーマ」が簡単に見つかれば良いのですが、知人は4週目辺りまでテーマ探しに苦労されており、運要素もあります。

 授業は全8回で、木金のみの開講。各授業で学んだことを、すぐにその後のセミナーで演習する流れになります。授業は、

1.イントロ(S.Reviewとは?)
2.文献の検索方法について
3.文献の質の評価方法(AXISやCASP、GRADE)
4.文献統合の方法(量的・質的研究)
5.メタ・アナリシスの方法

 大まかに分けると上記のようになります。文献検索のコマでは図書館の職員が事細かに説明をしてくれるのですが、「AIによるリサーチはあるが、まだクオリティが…」と話したり、「P◯d◯edはなぁ...」「あそこの検索エンジンはどうもなぁ」みたいな話が聞け、中々興味深かったです。
 統合の部分はやや不満。時間的制約があり深堀りできないのは承知だが、「サラッとし過ぎでは…?」という感想。

 レポートに対しては「タフだ」「時間がかかる。最低でも50-60時間は取る必要がある」と説明があり、確かに時間はかかりました。授業も4週目には終了しますし、それまでの週も「レポート作成のための時間」が取られ、「質問があれば時間内に講師に相談」という形が取られます。
 
 S.Reviewのやり方は一通り学べるので有益ですが、入学前から卒論のテーマが決まっていて、さらに大きな障害や問題もクリアしていれば、卒論でレビューに切り替える可能性も低いでしょうから、この授業を取る必要性はそこまでないのかも知れません(問題が生じてレビューに切り替えなければならない場合でも、講義の録画と資料+受講してた学生からのサポートでなんとかなる気もします)。
 個人的には興味のある授業でしたが、どうも「サラッと」「広く、浅く」な感じが…まぁ、個人的な感想です。

感想

 以前にも書いたかも知れませんが、ここの試験で求められるのは「知識の統合」です。
 中〜高校生のような、「一問一答」のような試験問題はほぼ皆無で(少しはあります)、授業で学んだことを「ほぼ完全に頭に入れた状態」で、それを元に答えを自分なりに導き出すイメージです。なので、付け焼き刃の知識だと頭がこんがらがって時間内に回答が作れません。
1学期は「各授業で学んだこと」を一生懸命整理し、記憶しておけばなんとかなったのですが、2学期は「1学期で学んだことも踏まえて」の試験になってくるので、1学期の勉強が疎かだと、高得点は望めません(今回のENCDでの試験では、ここで躓きました)。
 3学期に受講する唯一の授業ですが、「授業は、修士課程全体での学生の学習を統合するように設計している」と説明があるので、授業においていかれないように、春休みの残り3週間は1〜2学期の復習に努めたいと思います。

 では、また!


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