男性恐怖症だった私が22歳年上彼氏とセックスできるようになるまで~プロローグ~
プロローグ
ーーこんな日が来るなんて、思ってもみなかった。
背中にマットレスの冷たい感触を味わい、私は天井をぼーっと見つめて思う。
全身に入っていた力はいつの間にか抜けて、時折くる振動に身を任せるように息を吐く。
音も、匂いも、熱も、月明かりも、世界を構成する何もかもがなくなってしまったかのような錯覚さえある。
ただ、目の前にいる彼の存在だけが、この世界の全てでもいいと思える。そう思えるほど、胸の中を愛おしさが駆け巡っている。
もっと、もっと、彼がほしい。彼の全てが欲しい。
恥ずかしさも、怖さも、何もかもが感じられなくなっていた。
「……っはぁ」
何度目かわからない股への愛撫に、思わず声にならない声がもれる。熱に浮かされたような浮ついた声。本当に自分の声なのかと疑いたくなるが、まさしく自分の口からもれた声だ。
「気持ちいい?」
愛撫を続け、頬が上気している彼が問いかける。
正直、声を出すのが苦しかったが、頷きとともに返事をする。
「……っく」
返事をした口が、彼の唇によって塞がれた。
お互いの舌が絡みあい、押し合い、混ざりあい、何度も何度も交差しあう。
互いの細胞が相手を愛おしむように、満たすように、何度も何度も交差する。
無意識に動いた手足が彼の身体に絡みつき、彼の愛撫も一段と激しさを増す。
どうやらクライマックスが近いようだ。
「……イっていい?」
「いいよ」
彼の問いに答えた瞬間、一際大きな衝撃を残して……彼が弾けた。
ドクン、ドクンと私の中で脈動する感覚。幸せな気持ちが全身を満たしていく。
お互いに息を吐いて、キスをする。余韻に浸るように、終わりを寂しがるように。
「ありがと、すごい気持ちよかった」
「どういたしまして。私も気持ちよかった」
最後に一つキスをして、私たちの愛撫の時間は終わりを告げた。
彼の寝息を聴きながら、一人パソコンに向かう。この物語を書き残すために。
カタカタとキーボードを打ち込みながら、これまでの28年間を想う。
ーー冷めた家庭に生まれ、父からのセクハラを受けた高校生活を経て、それに伴って発症した男性恐怖症。そして、22歳年上の彼に出会って、セックスできるようになるまでの28年間を。
辛い時もあった。死にたくなる時もあった。元凶となった父に殺意すら湧いた時もあった。
「自分のこの身体は醜く汚れている」そう思った。
もう誰にも愛されないし、愛してはいけないと思って、今までを生きてきた。
でも違った。違ったんだ。
私の身体を「きれいだ」と言ってくれる人がいる。全てを知った上で、同情とか哀れみとかそんな感情すら抱かずに、ただ「きれいだ」と言ってくれる人がこの世界にはいる。
生きてていいんだ。私たちは。
「ーーだから」
同じ境遇を持っているであろうあなたに届いてほしい。
独りで闘う必要はないのだと。あなたはけして、汚れた存在なのではないと。
ーーあなたの過去の全てを、愛してくれる人はいるのだと。
この行動で、何を残せるのかはわからない。
好奇な目で見られるかもしれないし、心ない言葉に傷つけられるかもしれない。
誰にも届かないかもしれない。
それでも、同じような境遇を持っている人にわずかな光になることを祈ってーー
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