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横浜百景

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港横浜の写真とストーリー
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夕暮れ散歩

夕暮れ散歩

夕食の支度をしないといけないような時間に、散歩に出た。

こんな時間に出かけるなんて、主婦の、母親の、妻のすることじゃない、って目くじらを立てる人もいるだろう。そんなカビの生えた考えは、クッキーの空き缶に入れて、押し入れの奥にしまっておくといい。

散歩にでも行って来れば? そう言ったのは夫だ。餃子、作らないといけないから。そんな理由を口にすると、作っておくよ、と夫は言う。材料は、冷蔵庫にそろって

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月

ライトアップされた倉庫のうえに、
月が見えていた。

赤レンガ倉庫が建てられたのは、
明治の終わりから大正のはじめだったらしい。

長く廃墟になっていたのだと思っていたら、

保税倉庫としての役目は、
平成元年まで続いていたという。

関東大震災を乗り越え、
戦後は接収された。

はじめてきたのは、野外コンサートだった。

商業施設として再オープンする前のこと。
手付かずで荒れた印象だった。

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航海の安全を祈ります

航海の安全を祈ります

横浜が舞台のジブリ映画、
「コクリコ坂から」に登場した、

国際信号旗。

海のうえで、
船舶どうしが通信を行うために使われるものだそうだ。

映画が公開されてから、
港の見える丘公園と大さん橋に、

主人公が掲げていた、この信号旗がたっている。

航海の安全を祈ります。

行き交う船へ向けて、
無事に海を渡れますように、との願いが込められている。

残念ながら、映画の舞台となった時代のように、

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マンダリン・ブラフ

マンダリン・ブラフ

本牧ふ頭の付け根。

大きなトラックが行き交う広い道路の傍らに、
こんもりとした小さな山がある。

横浜が開港したころは、
ここまでが海だった。

外国からやってくる船は、
横浜の港へ入る目印として、

この岸壁、
マンダリン・ブラフを見つめたのだ。

マンダリン・ブラフという名前は、
岸壁の色が蜜柑色だったことから名付けられたらしい。

ペリーが持っていた海図にも、
その名が刻まれているそうだ。

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十字架が見えたら

十字架が見えたら

心が沈んだときに、
訪れる場所がありますか?

ただ座って、
時間をすごすことで、

自分を浄化してくれる場所がありますか?

横浜を見下ろす山手の丘に、
十字架が見えたら、

そっと扉をあけて、
歴史ある聖堂のなかへ。

そこは別世界。

静かに。
祈りのときを。

神さまは、
話してくれるわけじゃない。

探し求めていることを、
教えてくれるわけじゃない。

でも、ちゃんと答えを出してくれる。

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ずっとみている

ずっとみている

野口雨情による童謡、赤い靴。

 赤いくつはいてた女の子
 異人さんに連れられて行っちゃった
 横浜の 波止場から船に乗って
 異人さんに 連れられて行っちゃった

悲しげなこの歌の女の子は、
山下公園から、ずっと横浜の海を見ている。

晴れの日も、雨の日も、
いい日も、悪い日も、

ずっとみている。

沈んだ表情に見えるときもあれば、
少し微笑んでいるように見えることもある。

心を映す鏡のよう

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よい旅を

よい旅を

横浜の入り口はどこかと考える。

横浜駅、新横浜駅。
まず最初に思い浮かぶのは、駅かもしれない。

でも、横浜は港町。

港から世界へ開き、文化を受け入れ、
多くの人々が行き来してきた。

だから、大さん橋。
横浜の入り口は、大さん橋だと思う。

大さん橋は、大きな空港のようなものだ。
国内線と国際線が発着するターミナルのような場所なのだ。

飛行機のように急いた旅ではない。

移動すること、その

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湧き水

湧き水

元町公園近くの住宅街のなかに、
こんな池のような、プールのような、貯水池がある。

ジェラールの水屋敷と呼ばれているところ。

そもそも、横浜の中心地である、
中区、南区、いまの関内あたりも、古い古い埋立地。

吉田新田と呼ばれる、海を埋め立てた農地だった。

海だったなごりか、
開港当時の井戸水は、塩分が多かったらしく、

船への給水ができなかったとか。

湧き水はある。
打越とか、ワシン坂の下

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おとなりさん

おとなりさん

元町と中華街が、
川をはさんでおとなりさんだと気付いたのは、

かなり大人になってからだった。

子どもの頃も、
何度も来ていたし、

高校生の頃は、
何かと立ち寄った場所だし。

それでも、
地続きの感じがしていなかった。

おとなりさんなのに、別世界。

街の雰囲気も、もちろんそれぞれが
個性的だからなのだろうが、

その個性が個性であり続けるために、

この川が、
キチンと線引きをしているか

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