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【本】『水の精(ウンディーネ)』 (フケー、識名 章喜 (訳)/光文社古典新訳文庫)

こんにちは、『猫の泉 読書会』主宰の「みわみわ」です。

今日は、『水の精(ウンディーネ)』 をご紹介します。
例によって、寝る前にnoteを書き上げたかったのですが、腑に落ちなくて考えるうちに眠ってしまって、いまごろ書いております。

いや、この作品が幻想文学であって、腑に落ちるような話であるはずがない! のは分かっているのです。
ただ、読者としては、ちょっとでいいから納得したい。

現代的な理詰めの納得でなくて構わない。せめて「これが愛だな!」とか。なのに純愛物語と思っていたら、主人公が不実きわまりない男になったり、若者の愛を応援すると言っておきながら、邪魔ばかりする男が出てきたりと、いろいろねじくれていてすっきりしなかったです。

一晩寝て気が付いたのですが、この物語では二つの世界が共存していて、互いの裂け目から相手に触れようとしてせめぎ合っている話だったのです。

 世界1.品行正しいキリスト教徒の世界
 世界2.妖しの森に象徴される、キリスト教が出来る前の原始的で荒々しいが純粋な世界

世界1での純愛は、世界2での不純な愛です。その逆もあります。
二人の美女はそれぞれの世界における純愛の象徴です。

一人の男が、二人の美女の間をよりどりみどりに、ただただ、ふらふらする話と思って読んでいたときは納得いかなかったですが、こう考えるとちょっと納得できます(笑)。

二つの世界が混ざっているのだとわかると、作者はうまいことバランスを取って物語を書いていたのだと納得できました。

整理するために、物語を、ざっくりですが時系列に、出来事が起きた順に、まとめてみましょう。


1.領主の養女Vは、美しい騎士Fと相思相愛になる。

2.美女Vは騎士Fの本気度を測るため、騎士Fに近隣の妖しい森を探索してこいと命じる。

3.騎士Fは妖しの森へ深く入り込み、信心深い漁師の小屋に泊めてもらう。漁師夫婦とその養女である美女Wと出会い、恋に落ちる。

4.美女Wは可愛らしく魅力的だが、どこか奇妙なところがある。老夫婦の実の娘が行方不明になった後、ひょっこり現れた娘だという。

5.老夫婦の家の周りが氾濫し、水が引くのを待つ騎士Fと美女Wは親密になってゆく。そこへ、遭難して逃れてきた牧師が訪れる。騎士Fは美女Wとの結婚の儀式を頼む。

6.二人は結婚し、美女Wは一晩で、人の気持ちの分かるしとやかな人妻に豹変する。若い二人は、老夫婦の家を出て、妖しの森を抜けて、町で暮らすことになった。以後、美女Wの伯父を名乗る水の精が、美女の愛を応援すると言って、ときおりまとわりつく。

7.美女Vはずっと行方不明だった騎士Fを心配していた。騎士Fが、見知らぬ美女Wと結婚して帰還してきたと知ってショックを受ける。

8.美女Vは、美女Wと仲良くなる(なぜだ!)ものの、Wの人間離れしたところを恐ろしいと思うようになる。

9.しばらく時間が経って、騎士Fは妻の美女Wを疎んじ、美女Vを密かに愛するようになっていた。(ひどい!)

10.美女Vは、美女Wを育てた老夫婦の娘だったことがわかる。領主の娘ではなく、貧しい漁師の娘だったと知らされて、美女Vは美女Wを逆恨みする。

11.FとVとWは街を出て一緒に暮らすようことになった(なぜだ!)ますますFの愛は、妻Wから元カノのVへ移ってゆく。

12.Wがないがしろにされているので、Wの伯父が怒ってFを成敗しようとするのを、Wが必死になだめる。にもかかわらず、FはWの努力を無にする行いをしたため、Wがいなくなる。

13.FはVと再婚しようとする。牧師は重婚の可能性を示唆してたしなめるが、Fは再婚を決行し、誓いを破った報いを受ける。

すっかり、長くなりました。
わたしが考えたことをまとめます。

はじめに騎士と愛し合っていたのはWではなくて、Vでした。
もしもVが騎士の愛を測るために妖しの森へ冒険に行かせなかったら、この悲劇的な物語にはなりませんよね。
愛を試すな、という警告に読めます。

さて、初めて会った頃、騎士はWの前でVのことを話しながら、自分はVのことは何とも思っていないと力説していました。おかしくないですか? 本当になんとも思っていないのなら、わざわざ妖しの森へ踏み込んだりしないのじゃないでしょうか。
騎士としての力試しに過ぎなかったとしても、その名誉は領主のいる街で通用するものなのですから、やはり領主の娘狙いとしか思えません。
もしも、同じ場所にVが現れたら騎士は同じ様に振舞えたでしょうか。
百歩譲って、その時はWに向けての真剣な言葉だったとしても、騎士は目の前にいる女のことしか考えていない、軽薄な性格だったってことですね。

そんな二人の前に、棚ぼたのように牧師を連れてくるのは、Wの伯父です。牧師が来なかったら、二人は結婚できないのです。だって騎士は敬虔なキリスト教徒だから。
一体全体、この伯父は何を考えているのでしょう。設定は「伯父」ですが、本当は、Wのことが本気で好きで好きでしょうがない元カレだったのでは? と私は勘ぐっています。
ともあれ、「伯父」は、強い心に宿る真剣な愛以外は、本物の愛ではない! と考えていたに違いありません。騎士は弱い心の持ち主でしたので、絶対にWを裏切ると見越していたのでしょう。

騎士は森ではWを愛おしく思っていたのに、結婚して街に連れてくると、その人間らしからぬところを我慢できなくなり、Vへの愛を思い出すようになります。ここからわかるのは、Wは生まれ育った森を離れて、街というアウェイに行ってしまったために愛を失ったってことです。自分が輝ける場所はうかつに離れない方がいいかもしれませんね。

以上、ついついわたしは、純粋でお行儀の悪い美女W:ウンディーネに共感していたのですが、人間世界の傲慢で性格も悪い美女V:ベルタルダが騎士の愛を得ました。残念ですね。

ラストで、騎士は、浅はかにも水の精であるウンディーネと結婚の誓いを破った報いを受けました。

でも、報いを受けた騎士を可哀想だとは思わない。喜んで報いを受けるくらいなら、真剣にウィンディーネを愛して幸せにしてやりなよ! と腹が立っていました。でも、もういいです。どうしてこういう物語になったのかが、これ書いてようやく腑に落ちましたので。

この本には、作者フケーの生涯について解説があって、彼の人生と作品との関係がわかってとっても面白かったです。お薦めです♪


■本日の一冊:『水の精(ウンディーネ)』 (フケー、識名 章喜 (訳)/光文社古典新訳文庫)


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