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ホストパーティ❤プリキュア #precure #デパプリ

『ホストパーティ❤プリキュア』

 『デリシャスパーティ❤プリキュア(デパプリ)』はプリキュア作品をホストクラブに変えた、『ホストパーティ❤プリキュア』というべき内容だった。男のみがストーリーの軸を担い、本筋と関係ないところでもいかに男を捻じ込むか(無意味な誕生日ケーキ作りで一話を潰した19話、終盤に品田拓海とともに急にダンスパーティに参加し出した20話、親族どまりで学校にとって部外者にもかかわらず妹の生徒会長送別に関係した33話、それぞれでのジャニーズがそれである)に情熱が傾けられた。デパプリでは歴代で描かれてきた、女の子のキラキラした憧れ対象である“プリキュア”は全く問題とされていない。例年、それなりの話数に渡ってかっこいい無双期間が与えられる追加戦士――キュアフィナーレでさえ、男性お助けキャラ:ブラックペッパーの引き立て役として、僅か3話で弱体化させられた有様である。

品田拓海の虚無

 では男キャラは見事に描かれているか――キービジュアルにも映っており、大きな話題を巻き起こした男性レギュラー戦闘員:品田拓海/ブラックペッパーの人格的魅力はデパプリ作中で十分に引き出されているか。答えは――否である。メイン男性キャラである彼も女性(決して、プリキュア想定視聴層である“女児”ではない!)にとって都合の良い男性表象としか扱われていない。

 制作陣の発信として、デパプリ主人公の和実ゆい/キュアプレシャスについてこう語られている――「身近にいる格好良い男の子が、実は自分のことを好いているというのは子供達にとっても夢なんじゃないか」――この発言内容が現実社会での女子・女性側に対する旧弊のジェンダーバイアスの強化・再生産という大きな問題を孕んでいるのはもちろんだが、デパプリ作中での当の男性キャラ――品田拓海の人格をも否定し去り、女子キャラのステータス的位置付けにまで存在が貶められていることのこの上ない裏付けになっている。

 デパプリ作中、品田拓海の人格、生活描写は皆無である。例えば趣味、学校の男子友達の交友関係に関して、部屋のベースギター存在、本間ともえの回想である程度“察する”ことができる程度で、具体的には何も描かれない。プリキュア主人公の幼馴染男子としての先例:ハピネスチャージプリキュアの相楽誠司の空手稽古描写、野球部同級生に対する気さくな勉強の教え、幼い妹に付き添っての子供会での潮干狩り引率活動……と比べてあまりに虚無である。品田拓海に一個の自立した人間としての人格描写機会はほぼ与えられていない。「格好良い男の子に好かれるのが子供達(女の子)の夢」の通り、主人公幼馴染(和実ゆい)に対する赤面の繰り返し、都合良く呼ばれては雑用を押し付けられて帰される役回り(25話キャンプ回)が関の山である。珍しくゆい達以外との交友関係が描かれた22話クレープ回も、ゆいの「拓海はお料理得意なんだ」の一言で、突如として「幼馴染に好意を寄せる、“料理ができる”イケメンハイスペ男子」にランクアップする設定更新機会に過ぎない。伝説のクレープをもお手軽に再現する“料理上手”のハイスペ設定更新が主眼だから、もちろん実際のクレープ作り描写は虚無である。いつの間にか、短時間のうちに絶賛を博するクレープが再現されてしまう(その合間には、もちろんお定まりの赤面芸である)。

“男”を描く以外の一切の効率化

ジェントルー/菓彩あまね/キュアフィナーレ

 デパプリは男(“プリキュア”ではなく、モチーフたる“食”ではもっとなく)を描くための作品であるから、その他は全て効率化が優先される。ジェントルーとも、素の顔たる菓彩あまねとの対話も満足になされないままキュアプレシャスの「あなた本当は良い人なんでしょ」の台詞によってジェントルー洗脳解除への道筋が作られてしまい、その後数話置いたうやむやのうちにキュアフィナーレ覚醒へと繋がる。そしてその間に差し挟まれたエピソードは男キャラ密度が歴代プリキュア最高潮に達した13話含む、都合よく女子を陰ながら“守って”くれるブラックペッパー登場である(いや、それこそが本義なのだ――デパプリは男を描くための作品なのだから! 本末転倒は許されない! 枝葉末節たるプリキュアのキュアフィナーレなど覚醒後3話でさっさと弱体化させてしまえばいいのだ! イケメンキャラ:ブラックペッパーを引き立たせるのにこれほど良い捨て駒もないだろう!)。

ナルシストルー

 品田拓海/ブラックペッパーとともに話題を博した敵幹部ナルシストルー。彼は初めのうち、端正な顔立ちで見せる冷酷さを強く印象付けていたが、徐々に彼の冷笑の仮面の裏に隠された、“食”に対する憎悪が露わになってくる――キービジュアルですでに作品性質が喧伝されていた通り、“男”目当てでデパプリを観ている大人の女性は彼に熱狂した! 冷酷に見える彼にも不幸な過去が! なんとお可哀そうなナルシストルー様! ――いや、デパプリに大きな関心を抱いているのは男に夢中な大人の女性だけではない。それはデパプリという作品に対して失礼というものだろう。何と言っても“食”モチーフのプリキュア作品だ。食がメインでない歴代プリキュアでさえ、数多くの見事な食育回を視聴者に届けてきた。偏食はプリキュア想定視聴層たる幼児・児童期に直面しがちな事態だ。“食”モチーフのデパプリがついに食のそうした面と真っ直ぐ向き合った――これは偏食経験がある人や、育児面から偏食に関係する・あるいは関心を持つ親御さん、あるいは単純に歴代でのテーマ・モチーフの見事な取扱いに酔いしれてきたプリキュアファン視聴者層を大いに惹きつけた。いかに説得力ある着地を見せてくれるだろう!

 結果は――またしても否である。マリちゃんの説教によって牢に放り込まれたナルシストルー(彼との対話にプリキュアたちが何ら関与するところがなかったのは驚くべきことではない。デパプリの主役は彼女たちではないのだから)は、何話か後の脱獄後に無理矢理押し付けられたりんご飴を通して(りんごはアレルギー表示品目で、決して無理に他人に押し付けてはいけない!)、「これがうまいというものか…」と、食の肯定面に目覚める。過去の彼の「俺様にはドルチェが似合う」発言との整合性や、クッキングダムにりんごが存在しなかったのかというもっともな疑問によってたやすく矛盾が生じてしまうが、最も大きな問題は、偏食はそう簡単に克服できるものではないということだ。もちろん環境の変化によって味覚意識の変化もまたもたらされるということはありうるが、あまりに唐突で――“都合が良すぎる”。こうした事態に我々はデジャヴを覚えないか――? そう、ジェントルー洗脳解除後、数話作中で全く触れずに置き、時間がたったうやむやのうちに“何となく”問題解決・進展を見てしまうというパターンである。――いや、デパプリは初めからストーリー目的の視聴者を想定していないし、“男”目当ての大人女性は顔のビジュアルと声演技にしか関心がないから問題はないのだろう。

効率化手法

 “男”を描く以外の一切の効率化は、話のパターンの繰り返し(ここらん回での「みんな違ってみんないい」)、著名ゲストで話題作り(らん回はくまモン、ギャル曽根回でもあった)、言葉による空虚な説明(山倉もえ生徒会副会長による菓彩あまね生徒会長が学校と生徒のために尽くしたという言葉、また、おいし~なタウン住人による和実ゆい祖母ヨネの具体的エピソード無しの無内容な称揚)、一切の背景設定や脈絡の無視(ドラマ無しの単なる時間経過と食事だけで成長し、獣耳と巨大尻尾のまま人前で平気で活動するコメコメが典型)によって達成されている。多くの視聴者の関心を惹きつけた“拓ゆい”恋愛要素でさえ、40話でのキュアプレシャスの急な泣き出しによって、“何となく良い雰囲気”に唐突に着地したが、メインはあくまで「格好良い男の子に好かれるのが子供達(女の子)の夢」のステータス面であって、双方の人格・絆描写が最重要となる“恋愛”そのものではないという考え方なのだろう。

“男”が第一で、“食”はおまけ

 デパプリに“食”に関するプロ監修がついておらず、そのため作中一切の食・料理描写が薄くなってしまっているというのは多く指摘されているところだが、製作者発信として、デパプリで男の戦闘員を入れることはあらかじめ決まっていた上で、「『ご飯』モチーフに年齢性別は関係無いから」という理由で、デパプリの(“食”)モチーフが決まったという。これで明らかなように、デパプリは初めから“食”を描く情熱などなかったということだ。“男”を捻じ込むための方便として行き当たりばったりに“食”を選んだに過ぎない。この一点を以てしても、歴代プリキュアでのようなモチーフとテーマに関する情熱的なメッセージ性が一切感得できないことに関して説明がついてしまう。

 また、「年齢性別は関係無い」のは、歴代プリキュアのテーマ・モチーフたる『日常』『夢と希望』『絆』『博愛』『大好き』『音楽』『スイーツ』……全てに関して当てはまるが、当然これらの作品で男性キャラがメインのプリキュアの活躍を異常に阻害したり、彼女たち以上に出張ったことなどない。「『ご飯』モチーフに年齢性別は関係無いから」という男性レギュラー戦闘員捻じ込みの詭弁は明らかだろう。

デパプリの驚異と『プリキュア』シリーズの今後

 すでに触れた通り、デパプリのメインストーリー軸を担うのは全て男である。ジンジャー、フェンネル、シナモン、マリちゃん、品田拓海ブラックペッパー……ここでは主人公たるプリキュア女の子たちへの関心は一切捨て去られている。彼女たちは物語軸の端に立ち入ることさえ許されていない。『女の子だって暴れたい』モットーによって強い意志と想いを描き続けてきた“プリキュア”に於いて、これは驚異的な事態と言えるだろう。今後、プリキュアシリーズがどういう方向に進んでいくか、関心を持って見守りたい。


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