たまには犬も呟きを。
皆さん、今晩は。
ワタクシは「犬」です。
「ミニチュアダックスフント」という種別らしいですが、それが何を意味しているのかは正直ワタクシにはわかりません。
ワタクシは「犬」であって、それ以上でも以下でもありません。
数ヵ月前に、猫石家という家に越して参りました。
ここの家の住人はワタクシの方を見ながら「こてつ」という言葉を何度も発します。
どうやらワタクシを呼んでおるようです。
これが俗に聞く「名前」というやつなのでしょうか。
今まで、名前というもので呼ばれた試しがないので、どうにもこそばゆいものですな。
まぁ、悪い気はしませんが。
ワタクシは猫石家に来る前には、別の所で暮らしておりました。
ワタクシの前職は「繁殖犬」です。
自覚はあまりありませんが、ブリーダーから保護されたという状況らしいです。
ワタクシと同じような仕事をしている仲間も一緒に暮らしておりましたが、ほとんど交流はございませんでしたので、正直あまり記憶がございません。
小さなケージというものがワタクシの世界の全てでした。
ですから、現在の住まいに越してきてからは、正直戸惑ったものです。
知らぬ事ばかりで、随分失敗もやらかしました。
何しろ、今までの住まいの何倍も広いのですからね。
何をどうして良いかわからない。
トイレひとつ取っても、どこでして良いものなのか、とんとわからないし、好きな場所で昼寝をして良いと言われましても、どこで寝て良いものやら皆目検討もつかない。
今でこそ多少慣れましたが広すぎて落ち着かなかったのですよ。
まぁ右往左往したものです。
前いた所では、何かをしくじると大きな音や声で脅されましたし、時には棒を持ち出される事もあったので、それはそれは怖いものでした。
いつも声を潜めて身を縮めながら、息を殺して暮らしておりました。
おかげで、今でも大きな物音や棒は苦手です。
今も猫石家でも粗相をしたりと、あれこれしくじってしまうのですが、ここの家の者はどうやら呑気者らしく、脅されたり叱られる事がございません。
いや、この母親という生き物は一応怒っておるようなのですが、どうも迫力に欠ける。
そろそろ老犬の域に入ろうというワタクシに、「アップップでしょ!」と言われましてもなぁ。。。
あ、申し遅れましたが、ワタクシ御歳(おんとし)6歳。
人年齢で言えば、立派な中年でございます。
見た目がだいぶ若作りなので、母親はつい赤ちゃん言葉で怒るのでしょうが、お恥ずかしい。
実はもう、良い歳のおっさんなのですよ、ワタクシは。
先ほど「繁殖という仕事をしてきた」と申しましたが、猫石家に来ても、ワタクシはその仕事を継続するのかと思っておりました。
要は、派遣されたのか、と。
ですので、この家の住人に、前職と同じように気合いを入れた繁殖モーションを、初日から仕掛けて見せたのです。
それはもう、一生懸命やりましたとも。
だって、仕事をきちんとこなさなければ、追い出されてしまうかも知れないじゃないですか。
それは困りますから。
しかし、この家の住人は、皆口を揃えてこう言うのです。
「こてつ、もうそんな事しなくていいんだよ」
その時、ワタクシは思ったものです。
「ならば、ワタクシは何をすればご飯を貰えるのでしょう?どうしたらこの家にずっと住まわせてもらえるのでしょうか?」
そしたら、母親が言いました。
「こてつのこれからのお仕事はね。毎日可愛いこてつでいる事だからね」
うーん。「可愛い」とは?
正直よくわからず頭を抱えましたが、とりあえず繁殖の仕事はもうやらなくて良いって事はなんとなく理解できました。
まぁ、あとは野となれ山となれです。
何をどうやれば良いのかはわからないが、とにかくやってみるしかないな、と腹を括って4か月。
どうやらワタクシは、ちゃんと新しい仕事をこなしているようです。
その証拠に、家族全員が毎日ワタクシを「カワイイカワイイ」と誉めてくれてますから。
抱っこされに行けば「カワイイ!」
ご飯をねだりに行けば「カワイイ!」
寝ててイビキをかけば「カワイイ!」
トイレをすれば「カワイイ!」
時々、この家の住人は「カワイイ」以外の言葉を忘れてしまったのではないか?と心配になりますが。
まぁしかし、誉められるのは気分が良いものです。
うん、悪くない。
おっと、おしゃべりが過ぎましたな。
歳を取ると、つい話が長くなる。
さて、今宵も家族を癒すべく、もう一仕事してきましょう。
では、皆々様、またお会いしましょう。
良い夢をみてくださいね。
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