見出し画像

極東から極西へ30:カミーノ編day27(Foncebadon〜Ponferrada)

前回の粗筋
フォンセバドンで贅沢をした。



前回


今回はフォンセバドンからテンプル騎士団のお城があるポンフェラーダまで。「鉄の十字架」という場所を通る山越えルートなのだが、無事に次の街に着けるのだろうか?



・Foncebadon〜Cruz de Ferro


 個室なので心起きなく目覚まし時計をかけたのだが、目が覚めたら6時15分ピッタリだった。
 昨日はしっかり食べてすぐに休んでいるので、調子は幾分戻ってきているのだが、身体の怠さは抜けきらない。ひとまず水を飲み、準備体操をして、CW-X(ワコールの着圧サポータータイツ)を履いた。
 最近タイツは履いていなかったのだが、今日は高低差がかなりある。それにフォンセバドンまでの道は途中かなりがれがれのざれざれだったので、膝を痛めないようにしたかった。

 鍵を鍵置き場に返して(多分日本語で、キーはここと書いてあった)、建物を出る。時刻は6時50分。何時もより5分遅い。
 さあ、スタートだ。
 昨日怖くて入れなかったドネーションのアルベルゲには灯りがついていた。暗くなければ、あまり怖くない。もうお化け屋敷には見えなかった。


灯りが点くとホーンテッドマンション味は薄れる。


 暗い中昨日に引き続き登り降りを繰り返した。スペイン人(多分)のとても速いおじさんにあっという間に追い越された。ヘッドライトを点けずに軽々浮石だらけの道を降りて行く。でも、星を観たり、フォンセバドンの村を振り返ったりしながら楽しんで歩いているようで、すぐに追いつける。
 オレオは食べてしまったので、ついにスペインのグミを食べてみることにした。

「あっっっま!」


ハリボーなのに。
熊の陽気さが、なんとも海外。


 日本のと違う。
 ジャムを固めて更に周りに砂糖をまぶしたような甘さだ。2個食べておしまいにした。

 クルス・デ・フェロー(鉄の十字架)に着いた時はまだ日は昇っていなかった。
 山の中、満点の星の下で十字架が佇んでいた。家から石を持ってきていれば、十字の下に置くのだけれど持ち合わせていない。
 十字架の下でそっと手を合わせた。
 宗教的な理由じゃなく、単に習慣なのだと思う。旅の無事や家内安全をついつい願ってしまう。


鉄の十字架。
近くにハーミット(隠者)の家がある。


・Cruz de Ferro〜El Acebo


 スペイン人のおじさんが、明るくなってきたねぇ。カミーノ良いねぇ(多分)と言いながら深呼吸している。本当に良い空気だった。
 時刻は8時前なのに、早朝の爽やかさを味わえるのが良い。

 しかし、やっぱり山の中。
 道は見易くなったけれど、がれがれのざれざれは変わらない。浮石に足を取られないようにしつつ、慎重に歩みを進める。
 何人かはあまり足場の良くない巡礼路を嫌って、車用の舗装路を歩いていた。

 丁度誕生日で、LINEやSNSのメッセージに小休止ごとに返事をして歩いた。

「!」

 すると、SさんからLINEが。
 あれ? 誕生日だって覚えていてくれたのだろうか。確かに巡礼中に迎えるよとは言ったけれど、まさかの人からのメッセージ。わくわくしながら開いてみると……。

「10月末にスーツケースを取りに行きます。帰りの便は同じなんで宜しくお願いします」

 慎重に歩いていたのに、すっ転んだのだった。
 尻もち程度だけど痛い、痛過ぎる。スマホの画面は無事だった。
 いやいや取りに戻るって。またしてもイレギュラー事態だし、実行するにしても私に合わせなくても良いことだろう。散々心配した後で、帰りの便10時間以上宜しくしようという気分には流石になれない。だってブルゴスからのことを絶対説教してしまう。
 それにどの道このまま行けば、私は航空券の日程を変更するスケジュールだ。

「多分、帰路は航空券の日程変更するから一緒じゃないよ」
「11月になりそうですか?」
「わからないー」

 それだけ送るのがやっとだ。
 私が難しい顔でLINEしていたので、スペイン人のおじさんに心配そうな顔をされた。

 山の中の峠の茶屋を通り過ぎて(昨日前倒しで贅沢したしね!)、山を今度は降り続ける。遠くに今日の目的地であるポンフェラーダが見えている。
 ほぼ同じペースだった多分ドイツ人のおじさんが、テンプル騎士団のお城があるんだよ!と通訳ソフトを使って教えてくれた。

こんな賑やかなアルベルゲも。
牛がゆっくり草を食んでいる。長閑。
峠の茶屋。
この灯りに釣られて入りそうになる。


 途中で、あやさん達と出会った。絶対にSさんとのLINEの後で微妙な顔をしていたと思う。言い訳したいのだけれど出来ないもどかしさ。
 思わずタイミング良くLINEをくれた病院の後輩と電話で話した。いつもの調子にほっとする。


スペインのおじさんが写真を撮っていた。
なんだろ? と思ったらベニテングダケ。食べたらダメだよ、毒あるよ、とジェスチャーで教えてくれた。
ポンフェラーダが見える。

 エル・アセボの村で、開いていたカフェで休憩を取った。ツナパイとカフェ・コン・レチェの朝ごはんを食べる。追いついたあやさんに、「誕生日おめでとう!」とビスケットをもらった。
 もやもやしていたのが一転、あったかい気持ちになった。


じわじわ残りが少なくなっていく。


ポンフェラーダ手前のモリナセカの街に、
産まれたての子鹿のようなあしで辿り着く。
橋から見たモリナセカ。
滞在したい誘惑にかられる綺麗な街。
街を過ぎたところに日本語が。

・El Acebo〜Ponferrada


 ポンフェラーダの街には迂回路ではなく真っ直ぐに入った。7kmと3kmの差は大きい。7km行っても良かったのだけれど、がれがれのざれざれが続いた所為で、産まれたての子鹿のような脚になっていた。下り坂は苦手なのだ。

ポンフェラーダに入る。
街の標識が見えるとほっとする。



 街に入ってから割とすぐのところにある大きなアルベルゲに入る。そこは14時オープンとアプリに書いてあったのだが、13時に既にオープンしていた。まだ大丈夫だとは思うけれど、少し焦る。
 宿の確保はかなり重要で、巡礼最初の方で、野宿している人を見かけたこともあった。

「寝袋を頭から被って道端で寝てたでしょ。でも今朝は気温が低かったから心配で、思わず声かけちゃった。ハロー、ご機嫌いかが? 大丈夫ー? 死にそうになってないわよね? って」

 カリマさんは思わず近寄ってつついてみたと言っていた。みんな見かけたけれど、声はかけなかったそう。私も、声はかけられなかった。
 そんな訳で野宿もあり得るし、つつかれる可能性もあるので、なるべく宿は確保したい。


おばけや……じゃなくて、綺麗なアルベルゲ。


 3kmの道で先を歩いていた女性が先にチェックインしていた。
 順番通りに並んで座り、説明を受ける。日本人だと知ると、すごくゆっくり英語で話してくれた。それなのに、ベッドが無いと困ると言う焦りから、カタコトスペイン語で、「ベッド、アリマスカ?」 と聞いてしまった。「あら! スペイン語。大丈夫よーあるから!」と、宥められた。
 料金はドナティーボで、いつ支払っても良いのだという。昨日のドナティーボの場所が頭の片隅にあったので、今日のところは設備が整っていて明るくてほっとした。

 中に入りベッドを決めてシャワーと洗濯。
 シエスタ時間に入る前だったので、スーパーに買い物に行く。
 洗濯石鹸と、食べ物を少し買おうと思っていた。

 カリマさんから連絡があった。
 どうも風邪をひいてしまったらしく、ポンフェラーダまで着けそうもないという。手前の街に泊まることにしたそうだ。手前の、というと橋のあったモリナセカか。
 次の日も距離を歩くのは諦めたと言っている。

「大丈夫? よく休んでね」
「ありがとう、ちょっとくらいの熱なら歩くのに良いくらいよ」

 そう言えば最近、咳をしている人が多い気がする。考えると喉がイガイガしそうなので、持参の葛根湯を念のため飲んでおく。

 スーパーで洗濯石鹸とビスケット、レンチンのグラタン。そしてずーっと気になっていたカップヌードル? YATEKOMOカレー味を買ってきた。
 カップヌードルを食べてみたのだが……。
 味は、ご想像にお任せで。


これが、ヤテコモ。
しれっと、日本食や韓国食ですよー的な感じで置いてある。


カップヌードルサイズ。


 スペインの仲良しおばちゃん二人も一緒の宿だ。にこにこ手を振ってくれた。
 そういえば、早朝に会う仲良し三人組のおばあちゃん達にはまだ会えていない。

・ポンフェラーダのテンプル騎士団


 教えてもらったテンプル騎士団のお城を見に行く事にする。
 テンプル騎士団は、12世紀頃十字軍で活躍した修道士の騎士団。聖地に行く巡礼者の保護もしていた。赤い十字がトレードマーク。テンプル騎士団への入団方法は秘密だったそうで、それが一つの原因で最終的に異端ということにされてしまった。
 スペインのおばちゃん以外に知り合いがいない誕生日。まあそんな事もあるだろうなあと思いながら異国の街を堪能する。


赤い十字でなく、Tの字。

 マップで検索するとお城は10分くらい離れた場所だった。のんびり歩いて行くと目の前にドラクエで見たようなお城が現れた。


The! 西洋のお城


 RPGのお城描いてと言ったらこの形にするだろうなあと言う形。どうもサービスデイだったようで入場料無料でぐるりと中を見られた。カリマさんがいたら、大興奮で写真を撮るんだろうなと思う。
 大丈夫かなあ。
 ちゃんとチーズとサラダ、食べられただろうか(ヤテコモやハチミツ食べてる私より健康的)。

 日本のお城のように狭間があった。
 また、投石機の見本が置かれていた。


狭間?
このサイズの石が飛んできたら脅威だな。
でもチャージは遅そう。
あのカクカク部分の内側。


 満足してアルベルゲに戻る途中、あやさん達に会った。前の街で終了にしようとしたら宿が空いていなかったらしい。
 宿問題は切実なのだ。

・泥棒? の話

 
 アルベルゲに戻り、食事をしたり日記を書いたりした後、そろそろ寝ようとベッドに横になる。
 すると同室の女性二人が泥棒の話を始めた。一人はオルタナティブルートで先を歩いていた女性だ。

「なんか調子の良いイタリア人の二人組よ。男性の方は背が高くて、女性は少しぽっちゃり目。二人とも一見感じがいいわけよ。どっかのアルベルゲで盗難騒ぎがあってね……」
「へぇ、怖いわね」
「バッグ用の鍵を買ったわ」

 やっぱり悪いことをする人はどこにでもいるのだろう。丁度部屋に戻ってきた韓国の女性と顔を見合わせた。

 一応貴重品を寝袋の中に押し込んでから休んだ。
 
「金曜日から雨だって」
「知ってる? あそこの大きなアルベルゲ閉まってるらしいわ」
「山をそんなに越えたくないの」

 そんなお喋りを聞きながら、眠りに落ちた。


次の話


この記事が参加している募集

旅のフォトアルバム

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?