月光

花鳥風月と、海月っていうことばが好きなの
と私が言うと
花鳥風月と海月を好きな人に
悪い人はいないんだよ

あなたは言った
どうして
と尋ねると
うつくしいものと
決して焦らないものが好き
という人で
悪い人に会ったことがないのだと言う
そういうあなたの好きな四字熟語はなに
と聞くと
乾坤一擲
と即座に答えて笑う目が
どことなく少年のようだった

私達は手をつないで海岸を歩いていて
もうそろそろ黄昏時だね
そうだね

お互いのぬくもりの確かさを
てのひらでつつみあっていた

そういうあなたは
海月のこと、好きなの
と私が訊けば
海月を見るためだけに
遠い街の水族館の年間入場券を買ったんだ
とあなたは答えた
あなたってばかね
ばかかもね

あなたが
手をほどいて後ろから抱きしめてきたので
私はあなたにからだを預けた
100年経って
生まれ変わって
あなたから溢れ出る愛が
100でなくなって
0になったとしても
私はふわふわと彷徨いながら
確かにあった背骨を探すのだろう
人間であった時の骨を

ねえ知ってた?
うつくしいものは儚くてもろくて危うい
なんて
うそ。
ほんとうは
力強くてたくましくて丈夫なのよ
あなたの両腕みたいに

私がそう言うと
あなたはそっと
私に口づけをした

夜の海に満月が昇り
光の道が出来ていた


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