お酒が飲めない、の話。

お酒が飲めない、の話

 とりあえずビール、と言う言葉はよく聞く。飲み会、と言う言葉もよく聞く。が、それはなんだか、そっと触れる事くらいしか出来ない世界なのだ。
 おれはお酒が飲めないのです。
 これはもう遺伝ですかね、先天的にアルコールを分解する酵素が少ない。
 厳密には、先天的なアルコール分解酵素と後天的なアルコール分解酵素の2種類があるらしく、後天的な分解酵素はアルコール摂取によって量が増えると言うことらしいが、おれの場合はそれさえもイマイチ増えなかったようだ。
 世を忍ぶ仮の中学生時代に思い知った。反面、弟は多少は飲めるようで、自主的にお酒を買うと遥か昔に聞いた。
 憎むべきはモンゴロイドの血である。
 下戸はモンゴロイドにしかないそうなのだ。しかもなんだか下戸遺伝子なる物を背負ってまで。なんだそれ。なんらかの理由があって、そんな進化をしてしまったようだけど、そんな進化は要らんかったんや、まったくもう。
 ところでモンゴロイドって、初めて聞いた時、なんかモンゴル人のアンドロイドみたいなイメージじゃありませんでした?『メタル朝青龍』みたいな。
 閑話休題。
 そんなわけでお酒が飲めない体質のまま生きて来たのであるが、これがもう不便極まりない。
 とにかく、酒飲みに囲まれたらオシマイである。アルコールハラスメントなんて今時の物はずっと無かった訳で、「そんな事を言わずに一杯くらいはさあ」とあらゆる場で言われて来た。仕事、遊び関わらず。
 そんで、飲んだらもう赤くなる事もなく、それを通り越して顔面真っ青で倒れ込みである。
ビールをグラスの半分くらいで吐き気がくるレベル。
 そんな感じだから、周りは慌てちゃって次からは飲ませようとはしなくなる。
 ある程度、年を重ねてからは、このパターンを逆手にとって、初対面の人に強く勧められた時は「本当に迷惑かけますが良いですか?」と言って率先して一度ダウンする所を見せてしまう、と言う方法を覚えた。
 一度やってしまうと、次からは飲まされないだけじゃなく、他のメンツが居ても「こいつは飲めないヤツだから」と庇って貰えるからだ。
 我ながら肉弾特攻もいいところですな。
 ただ、会話にしろ実態を見せつけるにしろ『飲めない』が通じた時点で酒の席には呼ばれなくなるのである。
 酒飲みって、なんかお酒を飲まない人に気を使うよね、「自分だけ飲んじゃって」みたいに。
 こっちとしては、そんな気を使わなくても良いのに、って感じなんだけれど、そういう部分もあって、酒飲みとはいまいち仲が結ばれないのです。これは残念を通り越して問題と言っても良い。
 『酒を飲む』という行為で『酔っ払う』という状態になり、それがストレス解消だったり現実逃避だったりするようなのだが、その能力が欠落しているだけでなく、『酒を飲む場』によるストレス解消や癒し効果、絆の深め合いなんて物すら取り上げられてしまうのは、非常に残念極まり無い。男同士のそれも、男女混合のそれも、どちらも機会が極めて少ないのだ。
 当然それを把握している以上、無理に参加したって邪魔者、腫れ物扱いになるのは間違いないし、合コンやら街コンやら、そんな物はおれにとっては架空のイベントだろ、的な感じすらある。
 出会いも減れば、男女の関係にすら大きな影響を及ぼすのだ。アルコールの臭い(飲んだあとに身体で分解された後の方の)が気になっちゃうとかね。

 そう言った感じで、おれはお酒が飲めない事に非常にコンプレックスのような物がある。
今の時代の若者だったらそういう感覚でも無いんだろうか?
 でも焼肉屋とか行くと若者がちゃんとビール飲んでたりするしな、酒税がどうの、金額がこうのでビールがストロングゼロになったりしてるみたいだけど、やっぱり世の中からお酒の話は無くなってないしで、変わらないんじゃないかと思う。
「別に飲めなくても良いんじゃない?」
だとか、
「飲めない方が良いよ」
などと気楽に言ってくれる輩も居る。
 いわく、「お酒はお金が掛かるからさ」だとか、「身体にも良くないしさ」だとか。
 分かってない。まったく分かっていない。それがどんなに大上段からの言い方であるのかを。
 それはなんだね、ちょいと極端な言い方であるが、生まれつき片腕の無い人にビデオゲーム一般がほぼ出来ない事に向かって、「片手でも出来るゲームあるじゃん」「ゲームなんて出来ない方が良いよ、お金かかるからさ」だとか、「目が悪くならずに済むじゃん」などと言ってるような話なのだ。
 聞いてる方からしたら、「はいはい、ゲーム脳になれなくて便利ですねー(ゲラゲラ)」と嫌味中傷罵詈雑言のようにも聞こえるぞ、と言われても無理の無い話ではなかろうか?
 ともすれば「酒飲みの方が多く税金を払っているんだぞ」と開き直られる事すらある。
 その分、お酒が原因の病気で医療費にお金掛かったりしてるんですよ、さすがに飲み過ぎちゃおりませんか、ってな具合である。
 そういう言葉はちょっと飲み込んで置いて欲しい、帰り道に駅のホームで出しちゃう物と同じで。
 さすがに表現が過激になりすぎたきらいもあるが、実際まあそんな感じである事を分かって頂きたい。
 酒飲みの肩身は狭い、みたいな話も聞いたりするが、酒飲めないの肩身はもっと狭いのである。
 酒飲みは日本酒の瓶を見たらたまに思い出して欲しい。お酒が飲めない人間は、あなたがお酒を飲んでいる間、どこかで日本酒の瓶みたいな姿勢でしゅんとしているのである。

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