【詠み人知らず】

浮ついた恋心を
人知れず歌に詠んで春

いつの世も変わらず
世を捨てることもままならず

傷を負っても隠さず

淡々と
淡々と

ある日突然失って
気がつくくらいならもう

蛇も鬼も飼い慣らして

よしなに
よしなに

声にならない声を
名も記さずに書きつけて

読み解く者もない

忘形見のように
明日の私へと託すのはやめて

美しい色とりどりの
絵巻物の片隅の
市井の人になり
栄華を讃えて
感嘆を詠んでみたいだけ

詠み人知らずの恋歌を
書き連ねては
笹舟に花と流して
物思いに耽るだけ

ゆらゆらと
ゆらゆらと

返歌がなくとも
柔らかな陽射しが
頬に暖かい

今は春

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