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シャイな私が満を持してボケてみた



帰国が今週末にせまり、銀行口座を解約しに行った。

大体の場所は覚えていたが、正確なアドレスはメモしていなかったし、銀行からのメールは消してしまい微かな記憶をたどり同じ場所をぐるぐる。

その銀行はたくさんのお店が立ち並ぶショッピング広場のようなところにあるのだが、私が探しているオフィス(支社)の他にメインオフィス(本社)がある。

メインオフィスは見つけられたのだが、目的のオフィスが見つからない。
雨が降り出したので探すのを諦めてメインオフィスの受付で聞くと、花屋の向かいにあるとのこと。

そうだった。花屋の向かい、そっと建っているあの建物だ。
何度かこのあたりは訪れたけどいつも素通りだったからすっかり忘れていた。

無事自動ドアを入り受付を済ませ、ソファで待つ。
スタッフは全員オランダ語と英語を話す。2言語以上話す人もいる。
銀行員だからというわけではなく、オランダは街を歩く学生からお年寄りまで不自由なく英語を使いこなし、そして発音もきれいなのでいつも驚く。

オランダ語を話す人にはオランダ語、駐在員や留学生など英語で話し始めたら瞬時に英語に切り替えてオランダ語と同じスピードで会話を続ける
スピード感が落ちない、瞬時に切り替えられるのはほんとにすごい。



いろいろな人が次々に来る中のんびり待つこと20分。
私の名前が呼ばれた。

Dutch ? English?

と聞かれたのでEnglish と答える。
担当の方は
「君の苗字、間違えて発音していたらごめんね」
と謝ってきたので
「大丈夫だよ、それに正しく呼んでくれたよ」
というと、
「よかった。君の苗字があの会社の名前と同じだったからどきどきしたよ」

そう、私の苗字は海外にも進出している有名な日本企業の名前と同じなのだ。
トヨタ、ホンダ、みたいな。(どちらも違う)

私「お、気づいてくれた?それ私の家族の会社なんだ」
担「え、そうなの!?すごいね!!」
私「うそ、冗談だよ」
担「あははははははははは」


私の話が冗談だと言うと担当の方は大爆笑。そんなに爆笑する要素はないが、とりあえず嬉しい。

実はアメリカでも初対面の人、特に大人にこの話題を持ちかけられていた。
日本製品、ということまで知っているかわからないが「馴染みのある名前だ」と認識してくれるのが嬉しい。
しかしいつも私は上手く返事ができず、「そうだね」と笑って済ませていた。
私はこれが悔しかった。
せっかく会話の糸口を見つけて話しかけてくれたのに、それに上手く答えられない。
なんでもない見知らぬ人同士の時間が少しだけ楽しく、心が近くなれるはずだったのに。

この機会を無駄にするもんか、と次に同じ会話が来たときのために今回の渾身の返しを用意していた。

「同じ苗字なのは当たり前、だってその会社は私の家族のなの」

たったこれだけ、でも何回もイメージトレーニングして、使える日を待っていた。
冗談だと伝えたときの相手の顔、笑いは忘れられない。

シャイで自分の英語に自信がない、内気な私が精一杯用意したボケだ。

マニュアル道理の完璧な接客は素晴らしい。
しかしその中に人間味が出ると親近感が持て居心地がよく感じるのは私だけではないと思う。
人間味、人間臭さ、それは接客において不必要なものかもしれないが、初対面の人間が一瞬で笑顔になる大切なものだ。
外国の飾らない、肩の力を抜いた接客が好きなのは対等に話ができ、お互い完璧を求めない居心地の良さが好きなのかもしれない。

担当してくれた方は私の手続きが終わると、すぐに次に待っている人を呼びに行った。
大きな手続きが一つ終わりまた少し寂しくなった。


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