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ニンニク同盟

 夜は新入生歓迎の宴会。当然の如く酒!酒!酒! 広い宴会所のありとあらゆる場所を酒が陣取る。間もなく私の手元のグラスにもビールが注がれたが、勿論私は飲むつもりはない。身体が弱いから飲めないことにすればいいのではと思われた方もいるかもしれないが、それでは嘘を吐いたことになる。未成年の飲酒と異なり犯罪行為ではないが、虚偽申告も言うまでもなくいけないことである。

 私が酒を飲まないのは、親が人付き合いで絶対飲むことになると言ったのに対し、それでも飲まんと返したら、絶対無理と言われた為でもある。絶対にないなどと安易に言われたら、意地でも不可能を可能にしてやろうとして人生を懸けて実行する。それこそ生きるに相応しいとさえ考えていた。

 しかしグラスに注がれた液体は空にせねばならない。飲む以外の方法で空にするとすれば…

 乾杯の掛け声から数秒して、私は手元のビールを班長の顔…ではなく自分の頭にぶっ掛けた。

 当然ながら場は凍りつく。中学時代に自己紹介でキレた時のように、これからまたクラスで孤立していくのだろうか。東大じゃないと友達できないと言われ、その東大でも友達ができぬまま終わってしまうのだろうか…

 そんな不安がこみ上げてきたが、どうすることも出来ないので仕方なく目の前の食べ物にありつくことにする。刺し盛り…山梨という名の海無し県だからか鮮度が落ちていて美味くない。郷土名物が食べたい。枝豆…これだけは美味い。塩を振っただけの豆がどうしてこんなにも美味いのか。先日の居酒屋もこればかり食べていた。菓子…中高時代、寮に菓子類持ち込み禁止だったので菓子を食べる習慣が無い。お腹が空くなら米をたくさん食べるに限るが、おにぎり等は用意されていなかった(夕食ではないので仕方ないことであるが夕食が提供された記憶がない、恐らく自主的に食べることになっていたがお金が勿体なかったから何も買わなかったのだろう。)。

 …そうこうしてると、例の彼、哲ちゃんがこちらにやってきた。彼は既に出来上がっていたが、意外にも発言は明瞭。何でもない会話を少し交わした後、奴は急にこんなことを口にした。

「俺とニンニク同盟結ばない?」

はて、何故にニンニクなのか?

「ニンニクは嫌われる。ドーテーも嫌われる。」と続く。

 つまりは敢えて貞節を貫こうという同盟ということらしい。

 私ははっとした。変な奴だなと思っていたのだが、急に彼に親近感を感じるようになったのだ―親近感、それは私が未だかつて誰にも感じなかった感覚。

 私は酒を飲まないことを決めたのと同時期に、異性と関係を持たないことも決めていた(理由はそのうち話すことになるだろう)。どちらも、生きていくうえで”必須”のこと(後者は特に)と社会的に見なされていることである。

 生きていくうえで”必須”なことが誤りなことは明白である。然ししばしば、これは本能的に当然と言われる(本能であるなら、どうしてそれを望まない人間が少なからざるいるのだろうか?)。

 当然と思われていることをやらずに生涯突き通したらどうなるだろうか。私は試してみたかった。”凡庸なるもの”との闘争である。

 酒の席である(そして、異性もいる)のだから、必然そんなことに思いをふけらせていた。そこに急に同盟の話が出てくるのだ。全くの偶然ではない、彼は少なからず私がどんな人間で、今何を考えているかを泥酔に近い状態で見抜いてるのだ。驚かざるを得ない。全くもって、思わぬところに戦友がいるものだ。勿論私は彼の提案を快く受け入れた。

 彼は続けた。「世の中可愛い娘がいます。おっぱいが大きい娘もいます。(地位と名声、ついでにお金を手に入れて)そんな女が皆俺に言い寄ってくる。それを一辺に振る。(こんないいことはないだろう)」(括弧内のところは彼の実際の発言を覚えていないが、同様の内容)。

 彼はそう言って立ち去った。何と口のデカイ野郎だ。だが案外この男ならやってのけるかもしれない。彼の体からはそんな非凡なオーラが発されていた(なお、間もなく彼は酒に呑まれていった模様。「おい!○○が倒れたぞ!」の声で察した。)。

 翌日朝。四月だというのに外は真っ白な銀世界。九州人の私はあまりの風景に仰天したものだ(本来はバーベキュー大会が予定されていたが天候のため中止。お肉食べたかった。)。雪で帰れないのではと不安になるも、バスは遅れながらも到着。そして再び元の場所へ。

 思い出はろくでもないもの。そう考えてた時期があった。この旅はまさに、いつまでも覚えていたい思い出。その思いが、この文章を綴らせる…。

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