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Virtual≠仮想!? 日本のVRが空想世界となった原因は「誤訳」?

当たり前のように使っている「Virtual」=「仮想」はなんと明治時代の「誤訳」だった!? そこには、日本のVR界が現実を超えた独自の「空想世界」を目指した驚愕の真実が隠されていた…!!

私は学会とちょっと意見が違くて、「誤訳」とかって言うよりは「Virtual/仮想」って概念自体いま進化している最中のもので、日本語だろうが英語だろうがぴったり当てはまる言葉があるわけないし、作っていくしかないのかなって思ってます。

日本と欧米の文化の違いとかVRに求めるものの違いとかも内包していて、紐解いていくとなかなか興味深いお話でした!

「Virtual」=「仮想」は誤訳だった!?

「Virtual」を「仮想」(実在しないもの)と訳したのは誤訳って説あるけど、英語でも普通にVirtual drive(仮想ドライブ)みたいな言い方するように「物理的には存在しないけど、実施手的には存在するのと変わらないもの」って意味もあるので、間違ってはいないような気もするんだけど、どうなんでしょう?

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(出典:英辞郎

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(出典:weblio

日本バーチャルリアリティ学会によると「Virtual」は「実質的な」なので「仮想」は誤訳

以下、学会サイトの文章を引用します。

バーチャルリアリティのバーチャルが仮想とか虚構あるいは擬似と訳されているようであるが,これらは明らかに誤りである.バーチャル (virtual) とは(中略)「みかけや形は原物そのものではないが,本質的あるいは効果としては現実であり原物であること」であり,これはそのままバーチャルリアリティの定義を与える.

(中略)

 仮想はあくまでもsupposedで仮に想定したという意味を表していて,これもバーチャルとは全く異なる概念である.一例を挙げるならば,仮想敵国は supposed enemy であって,バーチャルエニミー(virtual enemy)というのは,友好国のように振る舞っているが本当は敵であるという意味である.

(中略)

バーチャルは virtue の形容詞で,virtue は,その物をその物として在らしめる本来的な力という意味からきている.

 つまり,それぞれのものには,本質的な部分があってそれを備えているものがバーチャルなものである.

(以上出典:日本バーチャルリアリティ学会

日本バーチャルリアリティ学会では明確に「誤訳」としていますね! まあ、たしかに"Virtual"の第一義は「実質的な」なので、「仮の/想像上の」が第一義の"仮想"とイコールにしちゃうと日英でニュアンスが結構ズレちゃいそう。

日本のVR界が現実を超えた空想世界を目指しているのは「誤訳」が原因だった説

さらにここから発展して、Virtualが「実質的な」と訳されるべきところを「仮想」(そういう意味もあるけど第一義は「空想上の」)と「誤訳」されたために、日本のVR界が (欧米みたいに現実の再現ではなく) アニメの空想世界(二次元世界)の具現化に猛進してしまった説好きwww

真相 : "Virtual"=「仮想」は明治時代の新造語だった!

ホントに誤訳なのかな!? その源流をたどると、最も古い記載はなんと1928年。明治時代でした! 

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(出典:VR=バーチャルリアリティーは,“仮想”現実か

明治時代は、海外の色んな概念が輸入され、さまざまな新造語がうまれた時代。日本に存在しない概念を表現するために、それまでの意味を超えてさまざまな言葉が産まれました。有名なところだと「science=科学」「philosophy=哲学」とかですね。

「Virtual(=実質的/本物と同等の)」も、ぴったり合う日本語がなかったために「仮想(=空想上の)」を当てはめた結果として、「仮想」も徐々に「実質的な/本物と同等の」の意味で使われる様になっていった、というのが真相のようですね。(他の候補が「虚」とか「仮の」とかなので、本当に意味を誤解していた可能性もありますが)

有名な話として、明治時代に英語"dream"に「夢」の言葉が当てられて、本来日本語になかった「将来なりたい姿/目標」の意味が生じたように、「誤訳」というよりは、日英の言葉の並列化の結果として日本語の意味が拡張されたのだと思います。

というわけで、「仮想」の元々の意味が「空想上の」なので、ちょっとイメージの違う言葉を当てはめたことにより混乱を生んだのは事実ですが、「誤訳」というのはちょっと言い過ぎかもと個人的には思います。言語によって言葉は一対一対応しないし、時代の要請で存在しない言葉を無理やり新造するのは当たり前のことだし、言葉は流動的に移り変わっていくものですね。

"Virtual Reality"=「仮想現実」は1989年登場!

ちなみに、こっちは意外と最近ですね! 以下、引用します。1990年代から「Virtual=仮想」が一般によく使われているようになっていきます。

いちばん早くこの訳語を使った可能性がある専門論文は,1989年11月号の雑誌『OHM』に発表された「仮想現実感ネットワークVRNetの実現」であることがわかった。しかし,著者の1人に確認したところ,「仮想現実という訳語は,自分たちが作ったのではないと思う。おそらく,この分野で誰となく使い始めていた」とのことだった。

日経テレコンを使って検索してみると,一般紙におけるいちばん早い用例は,1990年6月16日の朝日新聞の記事「岩田洋夫さん 仮想現実を歩く」だった。1990 年代の初めは,専門家やメディアでも,まだ「人工現実感」ということばのほうがよく使われていたが,次第にVRということばと「仮想現実」という訳語が主に使われるようになっていき,現在に至っている。

(出典:VR=バーチャルリアリティーは,“仮想”現実か

「Virtual=仮想」の意味はこれからも変わり続ける?

このままいくと、そのうち日本語の第一義(想像上の)と新たに産まれた第二義(実質的な)の順番が入れ替わって完全に日英のニュアンスが一緒になっていくのかも?

でも今や日本の「誤解」の結果(?)として、VR界は既に現実を超えた「空想的な」世界に向けて突き進んでいるので、逆に英語の「Virtual」が日本語の影響を受けて「空想上の」という意味を持ちつつあるのでは、という考察もありました。

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(出典:weblio


普段当たり前に使っている「Virtual」=「仮想」という言葉も、ちゃんと調べると色んな発見がありますね! 面白かったので以上まとめました~


9/23追記:私の仮説「Virtual→仮想の誤訳によりVR界が空想世界を目指した?」から展開した、「sori」さんの長文考察エッセイが公開されました(*´∇`*) 言霊理論好きです♪


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