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【最速解説】「Ultimateトラッカー」どのへんがアルティメット?

ベースステーションのないスタンドアロンVRゴーグルでも高精度なフルトラができる「VIVEトラッカー (Ultimate)」 (英語表記:VIVE Ultimate Tracker、以下「Ultimateトラッカー」)が遂に本日11/29(日本時間)にHTC社より発表&発売開始しました! ソーシャルVRの住人の間で大きな話題になり、フルトラ用の3個セットが瞬く間に売り切れになってしまいました。今後「アルトラ」などと呼ばれて親しまれるようになるといいですね。

この記事では、HTC公式VIVEアンバサダー「バーチャル美少女ねむ」がその魅力をどこよりも早くヘビーユーザー目線で徹底解説。そもそもフルトラとは何なのか? どのへんがアルティメットなのか? なぜVR住人が驚喜しているのか? 住人の声と併せて紹介します。

「HTC公式VIVEアンバサダー」とは、HTC公式に認定された一般ユーザーがユーザー目線でVIVEの魅力を自由に発信するプログラムです(今回私はVIVE公式から一切事前情報を貰っていません。本記事は全て公開情報を元に執筆しています)

※12/22追記:実際に入手したので動画にしてみました!

※12/1追記:こちらの記事「リアルサウンド テック」様・「Yahoo!ニュース」様にも掲載頂きました!(読みやすく書き直した改訂版)


11/29「VIVEトラッカー (Ultimate)」発表&発売開始

11/29「VIVEトラッカー (Ultimate)」発表&発売開始(出典:公式サイト)

Ultimateトラッカーは、搭載された2台の広角カメラでインサイドアウト方式による6DoFの高精度なトラッキングが可能な、VR用の新型トラッカーです。「6DoF(シックスドフ)」とは、3次元空間における位置座標に3軸の回転角を加えた、6種類の自由度のあるトラッキングのことです。

最大稼働時間は7時間とかなりパワフルになっています。

価格:フルトラ用3台セットが9万円

価格は単体が¥31,000(税込)、フルトラ用3台セットが¥91,900(税込)となっています。

公式がフルトラ用のセットを用意しているのは、稼働時間が長めに設計されていることと併せて、明らかにソーシャルVR住人による日常用途を想定しており、非常に印象深いです。

フルトラ用3台セットが税込¥91,900(出典:公式サイト)

※出典(公式サイト):VIVEトラッカー(Ultimate) - スタンドアロンVRデバイスの為のフルボディトラッキング

対応アプリ:VRChatに公式対応

VRChatやバーチャルキャストなどのソーシャルVR、その他VRゲームに公式対応しています。利用シーンをイメージした公式PVも公開されました。

※出典(公式PV):Unlock Full-Body VR Experiences: VIVE Ultimate Tracker

対応デバイス:あらゆるPCVRに対応予定

リリース時点で公式対応が発表されているデバイスはスタンドアローン型VRゴーグルである「VIVE XR Elite(対応済み)」「VIVE Focus 3(近日対応予定)」の2機種のみですが、VIVE製品のグローバルヘッドであるシェーン・イー氏によると、数週間以内にベータ版として追加アップデートを行い、SteamVR経由であらゆるPCVRに対応予定とのことです。これは待ち遠しいですね!

対応デバイス(出典:公式サイト)
SteamVR経由でPCVR対応予定(出典:公式解説動画)

PCVRの場合はドングルをVRゴーグルではなく、PCに接続して無線接続するそうです。

SteamVR経由でPCVR対応予定(出典:公式解説動画)

※出典(公式解説動画、2:47~):The VIVE Ultimate Tracker, Precision In Every Move!

発売開始を紹介した私のツイートは1,000RTを超え、9万円のフルトラ用3台セットがあっという間に売り切れてしまいました。

そもそも「フルトラ」って一体なに!?

アバターと肉体の全身の動きを連動させる技術のことを「全身(フルボディ)トラッキング」、略して「フルトラ」と言います。

フルトラ=全身(フルボディ)トラッキング

VRゴーグルと左右のコントローラーによる一般的な「3点トラッキング」に加えて、腰と左右の足にセンサーを付けた計6点の「6点トラッキング」以上のことを一般的に「フルトラ」と呼びます。

VIVEトラッカーによる6点トラッキングの装備(VRゴーグル本体は除く)

※参考:全身でVR世界へGO!!! フルトラのススメ

フルトラには、もちろんアバターの表現力を上げる効果があるのですが、それに加えて、アバターとの一体感を高めて自分自身の肉体のように感じることで、VR体験の没入感を飛躍的に高める効果があるのではないかと私は感じています。実際に、日常をVRの世界で過ごすソーシャルVRの住人の間でも、フルトラは非常に人気があります。

動きのかわいさで全宇宙を魅了する「kawaiiムーブ」や、修学旅行気分でVR世界で皆で眠る「VR睡眠」、スポーツやダンスなど、様々な用途でフルトラが利用されています。

どれくらい「フルトラ」って使われているの?

私とスイスの人類学者ミラが実施した大規模公開アンケート調査「ソーシャルVRライフスタイル調査2023」では、ソーシャルVR住人のフルトラの利用動向に関しても調査しています。

これによると、回答者の半数以上がフルトラを利用しており、約3割が将来的な導入を検討と、フルトラの圧倒的な需要が伺えました。

フルトラの利用動向(全体) - ソーシャルVRライフスタイル調査2023

サービス別でみると、特に今回Ultimateトラッカーが公式対応したVRChatやバーチャルキャストはフルトラの利用率が特に高いことがわかります。

フルトラの利用動向(条件別) - ソーシャルVRライフスタイル調査2023

※出典:ソーシャルVRライフスタイル調査2023

なぜ今「インサイドアウト」方式か?

私も使っている従来型のVIVEトラッカーでは、部屋の天井の角などに「ベースステーション」というセンサーを取り付けることで、部屋のどこにいても正確にVIVEトラッカーの位置や回転を検出できる「ライトハウス」という規格が採用されています。

ライトハウス規格のトラッキング(出典:SteamVR)

ライトハウスは精度や安定性が非常に高い反面、センサーの影になるとトラッキングが外れてしまう欠点がある(いわゆる「トラッカーが飛ぶ」現象)のと、近年増えてきているスタンドアローン型のVRゴーグルの場合トラッカーだけでなくベースステーションも追加しないといけないため導入コストが高いという問題がありました。

そのため最近では、加速度センサーなどを採用した比較的低コストなフルトラ機器なども複数登場しましたが、利用シーンによっては精度や安定性に難があるという声もありました。

Ultimateトラッカーのインサイドアウト・トラッキング(出典:公式サイト)

そこで、新型のUltimateトラッカーでは「インサイドアウト方式」のトラッキングを採用することで、外部センサーを使わずに単独で高い精度と安定性を実現しています。これは搭載されたカメラによる映像をトラッカー自身がリアルタイムに解析して自分の位置を逆算する方式です。

この方式の実現に当たって課題だと言われていたのは、カメラに加えて、位置計算を行う頭脳に当たる演算装置をトラッカーに内蔵する必要があり、どうしてもコストが跳ね上がってしまうという点でした。要は、このトラッカー一つ一つが自分自身の位置計測をするための小さなパソコンみたいなものだと考えてください。今回インサイドアウト方式のトラッカーが一般ユーザーにも手に届く価格で実現できたのは画期的なことなのです。

みんなの声

「ベースステーションなしで高精度で安定したフルトラができるのは嬉しい」「激しい動きでもトラッカーが飛ばなくなるなら嬉しい」などの声が上がっていました。

値段は高い? 安い?

値段については、「(ライトハウスに比べれば)この価格で高精度フルトラができるなら安い」という声や「(3台揃えないといけないことを考えると)さすがに高い」という声が上がっていました。

精度が気になるという声

「実際に(ライトハウスと比べて)どれくらいの精度や安定性が出るのか気になる」という声も上がっていました。

精度や安定性については私も入手次第レポートしたいと思います。高性能なフルトラが身近になることにより、VRの世界がますます広がっていくと考えると夢が膨らみますね。

この記事で紹介した「ソーシャルVRライフスタイル調査2023」については、こちらで全80Pのレポートを無料公開しています。ぜひ感想をお寄せください。

おまけ「計画通り…!!!」(???)

ぞくぞくと登場して混乱しがちなVRゴーグルをスッキリわかりやすく分類する紹介記事を1年程前に書いたのですが、なんと今日のUltimateトラッカーの登場はその記事の中で私によって予言されていました。HTCからこっそり聞いていたわけじゃないですよ!

余談ですが、将来的にセルフトラッキングに対応したトラッカーなどが登場すると、後述するライトハウス環境がなくても高精度なフルトラなどができるようになるかもしれませんね

2023年1月 バーチャル美少女ねむ
※出典:新世代VRゴーグル分類マップ&解説

参考:メタバースの経済

VRChatの新機能「有料サブスク」導入で今後大きく広がりそうなメタバース内の経済「クリエイターエコノミー」については、こちらの記事で解説しています。

参考:メタバースの人口

ソーシャルVRの人口については、こちらの記事で各種統計データをまとめて考察しています。

参考図書:『メタバース進化論』

拙著『メタバース進化論(技術評論社)』でも、VR技術やソーシャルVRの文化について詳しく解説しています。


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